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第15話 帰還と報告

煙と崩落の粉塵が立ち込める廃砦から歩み出ると、森の入り口でテオとステラが待っていた。

彼らの周囲には、砦から逃げ出そうとしてテオの魔道具で縛り上げられたり、ステラの魔法の余波で気絶させられた武装ゴブリンたちが転がっている。


「ルシアくん、無事だったかい。砦の中、とんでもない爆発音が響いていたけど」


テオが安堵の息を吐きながら駆け寄ってくる。ステラもホッとした顔で俺の顔を見上げた。


「ああ。中にいたゴブリンキングというデカいボスは斬った。だが、少し厄介な奴に出会ってな」

「厄介な奴?」

「ザガンと名乗る魔族だ。俺の渾身の一撃を、指二本で受け止めやがった」


俺が淡々と告げると、テオとステラの動きが完全に停止した。

数秒の静寂の後、テオが裏返った声を上げる。


「ま、魔族!? 御伽話や神話に出てくる、あの世界を滅ぼしかけた魔族かい!?」

「角が生えていたから、多分そうだろうな。あいつらの目的のために、王都の貴族を操って武器を集めていたらしい」


「ちょっと待ってよ、ルシアくん。魔族と遭遇して、しかも剣を受け止められたって……それ、生きて帰ってこれたのが奇跡のレベルだよ!」

ステラが青ざめた顔で俺の腕を掴む。


「あいつは器の準備があるとかで、勝手に帰っていった。だが、俺の剣が通用しない相手がこの世界にいると分かったのは、大きな収穫だ」


俺が黒狼の柄を叩いてニヤリと笑うと、二人は深い深いため息をついた。


「君のその戦闘狂みたいなところ、本当にどうにかした方がいいよ。急いで街に戻ろう。これはもう、僕たちだけで抱えきれる問題じゃない」


俺たちは気絶したゴブリンたちを縛ったまま放置し、魔導車に飛び乗って辺境都市ランカへと車を飛ばした。


数時間後。

冒険者ギルドの奥、重厚な扉の向こうにある執務室。

俺たちの報告を聞き終えたギルドマスターのメリルは、咥えていた大きなキャンディを床に落とし、信じられないという顔で固まっていた。


「……王都の武器密輸の裏にいたのは、貴族じゃなく魔族。しかもお前の斬撃を指二本で止めた、だと?」


「ああ。ザガンと名乗っていた」


メリルは小さな両手で頭を抱え、執務机に突っ伏した。


「ああもう、最悪だ! 武器の横流しどころの騒ぎじゃない。魔族が復活に向けて暗躍していて、しかも王都の中枢にまで入り込んでいるってことじゃないか。世界が終わるレベルの厄災だよ、こいつは」


メリルが顔を上げ、ギリッと歯を鳴らす。

その瞳には、幼い容姿には不釣り合いなほどの鋭い焦燥と、為政者としての責任感が宿っていた。


「お前ら、とんでもないものを引き当てたね。ただの特秘依頼が、一気に世界規模の特大案件に化けちまった」


「俺たちは別に構わない。むしろ、あいつは最高の的だ。次会ったら、今度こそ真っ二つにしてやる」


俺が平然と答えると、メリルは呆れたように大きく息を吐いた。


「お前のその異常な神経には恐れ入るよ。だが、これは冒険者ギルドの手に負える管轄を超えている。早急に王都のギルド本部、そして王家直属の特務機関に極秘で連絡を入れる必要があるね」


テオが真剣な顔で前に出る。


「メリルさん、気を付けてください。ザガンは王都の貴族を操っていると言っていました。迂闊に情報を流せば、内通者経由でこちらの動きが筒抜けになります」


「分かってる。あたしが昔使っていた、絶対に信頼できる身内のルートだけを使うさ」


メリルは新しいキャンディを口に放り込み、ガリッと噛み砕いた。


「お前らはしばらくこの街で待機だ。魔族に目をつけられたんだ、迂闊に動けば命はないと思え。……と言っても、お前は聞く耳持たなそうだがね」


「まあな。修行は一日たりとも休めない」


俺が肩をすくめると、メリルはふっと口角を上げた。


「好きにしろ。ただし、ステラとテオの安全は必ず守れよ、規格外のバケモノくん」


こうして、俺たちの特秘依頼は一旦の幕引きとなった。

だがそれは、王都の陰謀と魔族の復活という、世界を揺るがす巨大な戦いの渦へと巻き込まれていく、決定的な引き金でもあった。

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