表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/30

第13話 開戦の轟音

辺境都市ランカから北へ数時間。魔導車は、森の奥に座す古びた砦の麓へと到着した。

数十年前に放棄されたというその廃砦は、苔むした石壁に覆われ、不気味な静寂に包まれている。


俺たちは魔導車を森の影に隠し、徒歩で砦の様子を窺える高台へと移動した。


「……やっぱり、メリルの言った通りだね」


テオが双眼鏡(自作の魔道具だ)を覗き込みながら、苦々しげに呟いた。

砦の城壁や見張り台には、数十匹のゴブリンやホブゴブリンが配置されている。彼らの手には、昨日見たものと同じ、王都製の真新しい槍や剣が握られていた。中には、平民の兵士でも持てないような上質な鎧を着込んだホブゴブリンの姿もある。


「ゴブリンの分際で、あんな良い装備を……。誰かが本気で、この辺境に魔物の軍勢を作り上げようとしている証拠だ」


テオの言葉に、俺は静かに黒狼の柄に触れた。

これだけの数の武装魔物。しかも、砦という強固な拠点に立てこもっている。

力加減を気にする必要は、もうなさそうだ。


「作戦はどうする、ルシアくん。正面から突っ込む?」


「いや、まずは挨拶代わりだ。ステラ、お前の新しい杖の使い心地を試してみろ」


俺は、隣で樫の木の杖を大事そうに握りしめていたステラを振り返った。

彼女はビクッと肩を揺らし、不安げな顔をする。


「えっ……私が、最初に? でも、また暴走させちゃったら……」


「問題ない。お前が狙うのは、あの砦の頑丈な正面門だ。あそこを吹き飛ばして、中の連中を混乱させろ。多少威力が大きくても、砦ごと消し飛ばさなければ合格だ」


俺の言葉に、ステラはゴクリと唾を呑み込んだ。

彼女はゆっくりと前に出ると、昨日買ったばかりの樫の杖を両手で構えた。


深く、息を吸い込む。

学園でずっと恐れてきた、自分の内側にある膨大な魔力の奔流。それを、拒絶するのではなく、受け入れる。

ルシアくんが、斬ってくれる。その安心感が、彼女の心に確かな芯を作っていた。


他の五つの属性が暴れ出そうとするのを、必死に樫の杖へと抑え込む。

一点、炎属性のみに意識を集中させる。

狙うは、砦の巨大な木製の門。


「小さな火……いや、大きな火。砦の門を、壊すだけの火……! 爆炎波!」


ステラが杖を突き出すと同時に、樫の木の杖の先端にある小さな魔石が、見たこともないほど眩い紅蓮の光を放った。


次の瞬間、音は後からついてきた。


彼女の杖から放たれたのは、魔法というよりは、物理的な破壊力を伴った炎の奔流だった。

圧縮された炎が一条の光となって空を切り裂き、砦の正面門へ直撃した。


ズドォォォォォンッ!!


凄まじい大爆発が巻き起こった。

砦の正面門は粉砕されるどころか、一瞬で蒸発し、背後の城壁ごと巨大な炎の塊となって吹き飛んだ。

爆風と熱波が俺たちのいる高台まで押し寄せ、周囲の森の木々が激しく揺れる。

砦の内部からは、武装魔物たちの悲鳴と、崩落する石壁の轟音が鳴り響いた。


「……あわわ」


ステラが、自分の放った魔法の威力に呆然として立ち尽くす。

新しい杖で威力を絞ろうとした結果、逆に魔力の伝導率が良すぎて、彼女の想像を遥かに超える大爆発を引き起こしてしまったのだ。


正面門は完全に消滅し、砦の前面は無残に崩れ落ちている。

これでは混乱させるどころか、敵の半数を一撃で殲滅してしまったかもしれない。


「……合格だ、ステラ。これ以上ないほど派手な開戦の合図だったな」


俺はニヤリと笑うと、黒狼を静かに引き抜いた。

漆黒の刀身が、崩れ落ちた砦の炎を反射して不気味に輝く。


敵は混乱の極みにあり、城壁の防御機能は霧散した。

突入するには、これ以上ない好機だ。


「よし、テオ。俺は正面から突入する。お前はステラの護衛と、砦から逃げ出す奴らの対処を頼む」

「了解。ステラちゃんは僕が守るから、ルシアくんは心置きなくバカ正直に暴れてきてよ」


テオが自作の魔道具を展開しながら、頼もしく頷く。

ステラも、涙目になりながらも樫の杖を握り直し、俺を見送った。


俺は身体強化の魔力を脚へと圧縮し、高台から炎に包まれた廃砦へと、一気に駆け下りた。

王都の陰謀と、武装した魔物の軍勢。

テオが作ってくれた黒狼の真価を、そのすべてに叩き込んでやる。


俺の二度目の人生において、初めての本格的な攻城戦が、轟音と共に幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ