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第9話 ギルドマスター

夕闇が迫る辺境都市ランカの冒険者ギルドは、酒と熱気に包まれていた。

俺たち三人が扉を開けると、昨日カウンターを真っ二つにされた受付嬢がビクッと肩を震わせた。


討伐部位のゴブリンの右耳五十個をカウンターに置き、テオが声をひそめて告げる。

「依頼の報告とは別に、ギルドマスターに直接話したいことがある。王都が絡む、厄介な話だ。」


テオの真剣な表情と、俺が昨日見せた異常な破壊力を考慮したのか、受付嬢は青い顔で頷き、ギルドの奥にある豪奢な両開き扉へと案内してくれた。


どんな筋骨隆々の猛者が出てくるのか。ステラが緊張で俺の袖をギュッと掴む。

重厚な扉が開かれた。


そこは書類の山に埋もれた執務室だった。

部屋の奥にある、立派すぎる革張りの椅子。

そこに座っていたのは、歴戦の猛者などではなかった。


「ん、なんだいお前たちは。あたしは今、最高に機嫌が悪いんだが。」


椅子の上で足をぶらぶらさせていたのは、どう見ても十歳前後にしか見えない、金髪の幼いエルフの少女だった。

口の周りにクッキーの食べかすをつけ、退屈そうに俺たちを見下ろしている。


「えっと……ギルドマスターはお留守ですか?」

テオが戸惑いながら尋ねると、エルフの少女は不機嫌そうに眉をひそめた。


「あたしがギルドマスターのメリルだ。見た目で判断するなら、その生意気な口を縫い合わせるぞ、若造。」


子ども扱いされたことに苛立ったのか、メリルと名乗った少女が椅子から飛び降りた。

その瞬間、部屋の空気が凍りついた。


ひっ。

テオとステラが同時に息を呑み、一歩後ずさる。

少女の小さな体から、おぞましいほどの濃密な殺気と魔力が膨れ上がり、部屋全体を押し潰すような重圧に変わったのだ。

幻覚ではない。かつて死線を潜り抜けてきた本物の強者だけが放つ、血の匂いがするオーラ。


なるほど。見た目は子供だが、中身はとんでもない化け物だな。


俺は感心して呟き、腰に差した黒狼の柄に自然と手をかけていた。

身体強化の魔力を瞬時に脚と腕の筋肉へと圧縮する。いつでもこの幼い化け物の首を刎ねられるように。


「ほう。」

メリルが面白そうに目を細めた。

重圧を完全に無視して臨戦態勢に入った俺を見て、彼女は瞬時に殺気を引っ込めた。


「合格だ。お前、ただのガキじゃないね。昨日カウンターを粉砕した馬鹿力ってのはお前のことか。」

メリルは再び椅子によじ登り、クッキーをかじった。


「それで、王都が絡む厄介な話ってなんだい。あたしの貴重なおやつタイムを邪魔したんだ、つまらない報告なら承知しないよ。」


テオが冷や汗を拭いながら前に進み出た。

彼は麻袋から、あのホブゴブリンが持っていた鋼の大剣の破片を取り出し、机の上に置いた。


今日、街道沿いのゴブリン討伐で持ち帰ったものです。リーダーのホブゴブリンが、これを装備していました。


メリルの退屈そうだった瞳が、一瞬で獲物を狙う鷹のように鋭く細められた。


「……王都鍛冶ギルドの刻印。しかも、かなり新しい型だね。」


「はい。辺境の魔物が偶然拾えるような代物じゃありません。しかも、ゴブリンたちは群れというより、軍隊のように統率されていました。誰かが意図的に武装させています。」


テオの報告を聞き終えると、メリルは顎に手を当てて深く沈黙した。

幼い容姿とは裏腹に、その横顔は間違いなく、辺境の冒険者たちを束ねる長のそれだった。


「ただの魔物の大量発生じゃないってことか。王都の誰かが、この辺境で兵隊でも作ろうってのかね。」


メリルは引き出しから羊皮紙を取り出し、素早い手つきで何かを書き留め始めた。


「よく知らせてくれた。この件はギルドの特秘事項として、あたしが直接調べる。お前たちも、これ以上は首を突っ込むんじゃないよ。命がいくつあっても足りないからね。」


そう言って釘を刺すメリルだったが、俺は内心で小さく笑っていた。

首を突っ込むなと言われても、もしその王都の誰かが、俺を追放したあの家に関わっているのだとしたら。


俺の身体強化の最高の的になってくれるかもしれないからな。


俺は黒狼の柄から手を離し、幼くも底知れないギルドマスターの執務室を後にした。

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