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転生の魔女  作者: RUSA
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「レオ」と「リナ」 ep.3~

村長の計らいで、二人は一か月もの間村に逗留した。


それは若き二人の「レオ」と「リナ」にとって、自分たちの魂を解剖されるような時間だった。




村長の館の奥深く、外の世界から切り離された密室で、新旧二組の兄妹は、夜が明けるまで「母、エンヴァ」の話を続けた。




「……母さんは、あの日、俺が首を撥ねる直前に笑ったんだ。一冊の本を読み終えたかのような、そんな満足げな顔で」


村長レオの声が苦く響く。今世のレオもまた、あの猛火の中で沈黙を守り、ただじっと自分たちをほほ笑みながら見つめていたエンヴァの最期を思い出し、拳を握りしめた。




二組が語り合えば語り合うほど、ひとつの戦慄すべき結論が浮かび上がる。 自分たちの母は、単に名前が同じだけの別人などではない。




村長レオの最後の言葉が若きレオとリナの胸に深々と突き刺さる。




「私と妹は母に愛されていた。それは間違いようのない事実だ」


「それを聞けて私達も何かが達成された感じです、ありがとうございます」




「時を超えた兄妹たち、こう考えたらどうかね?」


村長レオが、その重厚な体を震わせながら身を乗り出す。




「今、この時も母さんは……この世界のどこかで、新たな生を受けているのだと」


その言葉は、レオとリナの胸に突き刺さった「楔」を、優しく、けれど力強く揺さぶった。




「私たちの母は、老いることを知らず、いつまでも可憐なままの女性だったわ。……娘である私よりもずっと」




老いたリナが、自らの皺の刻まれた手を寂しげに見つめながら、遠い目をして語る。




「それは結局、母さんの命を縮めることになってしまった。人々は変わらないものを恐れる……。あれは『不老の呪い』と言うべきものだったのかもしれないわね」




若きレオも、あの処刑台の光景を反芻するように重い口を開いた。




「母さんは、とても美しかった。……それこそ火刑による死の直前まで笑っていたんだ」


沈黙が流れる。 彼らが知っているエンヴァの心は、確かに「乾燥」していた。




けれど、最後の最後に自分たちを愛し育んだという事実だけは、揺るぎなく存在している。




「母さんが……もしもこの世のどこかにいるのなら……」


若きリナが、黄金の瞳に涙を溜め、立ち上がる。




「私、会いたい! ママに会って、今度こそちゃんと話をしたいの! そして言うの……『ママ、愛してる』って!」




その真っ直ぐな叫びに、老いた兄妹は顔を見合わせ、深く頷いた。


かつて母の首を撥ねた英雄も、今はただ、一人の息子として震えていた。




「私たちも同じ気持ちだよ、若き兄妹たち。……だが、私たちはもう、長旅はできない。この足では」 老リナが残念そうに俯く。




「……ぜひ、母さんを見つけたら、こう伝えてくれないかね」


老レオは、数十年分の後悔を絞り出すように、目に涙を浮かべて一言、こう告げた。




「『私も、リナも、あなたを愛している。ありがとう』……と。それだけを伝えてくれ」


老リナも、若い二人の手を取り、祈るように言葉を重ねる。




「ママに……もう一度だけでいいから会いたい。愛してる……そう、伝えてくれますか? 」




二人の老いた瞳から零れ落ちた涙に、嘘はなかった。


かつて母を殺したことが「英雄としての正解」だったとしても、心はあの日失った「母の愛」を求め続けていたのだ。




「……わかった。俺たちが必ず、母さんを見つけ出す」


レオが、老いた自分自身の大きな手を握り返した。




「そして伝えるよ。ママが何者であっても、……私たち四人は、ママの子供で幸せだったって」


リナが力強く応えた。




「きっと、見つけ出してみせる! 私たちの、たった一人のママを!」


リナが突き抜けるような青空に向かって叫ぶ。




その瞳に宿る黄金の光は、もはや呪いの証ではなく、迷いなき道標みちしるべのように輝いていた。


「……ああ。母さんがこの世界のどこにいようと、何度生まれ変わろうと関係ない。俺たちが必ず見つけ出して、あの言葉を届けてやるんだ」




レオが大剣の柄を強く握り、隣に立つ妹に力強く頷いた。












絶え間ない戦火に焼かれ、空すらも煤けて見える砂漠の辺境。 崩れかけた石造りの小屋に、一つの新しい命が滑り落ちた。




「オギャー! オギャー!」


張り裂けんばかりの産声。


だが、その声には赤子特有の無垢さはなく、どこか「理を告げる」ような、冷徹な響きが混じっていた。 産み落とされた赤子が、ゆっくりとその瞼を持ち上げる。




そこにあったのは、吸い込まれるような、それでいてすべてを拒絶するような黄金の瞳。


その瞳に見据えられた瞬間、出産の痛みに喘いでいた母親の目から、ふっと光が消えた。




まるで、産み落とした命に自らの魂を吸い取られ、空っぽの器にされてしまったかのように。


「……エンヴァ。この子の名前は、エンヴァ」


母親は、誰に命じられたわけでもなく、憑かれたようにその名を呟いた。


そこには愛おしさも、喜びも、恐怖すらなかった。




そして、この名を授けた母親もまた、数日後には衰弱し、砂に還る運命にあった。


「エンヴァ」と呼ばれた赤子は、死にゆく母の腕の中で、泣き止んだ黄金の瞳でただ星空を見つめていた。

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