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第4話: 元カノ「部長の方が優秀」俺を捨てた女、実は俺のガチ恋勢だった(※正体バレたら死ぬぞ)

翌日の昼休み。 俺が自席でコンビニのおにぎりをかじっていると、コツコツとヒールの音が近づいてきた。 顔を上げなくてもわかる。元カノの美咲だ。


「あら、相変わらず貧乏臭いお昼ご飯ね。翔くん」


美咲は俺のデスクに手を突き、憐れむような視線を投げかけてくる。


「鬼瓦部長はね、今日のランチ、銀座の回らないお寿司に連れてってくれるのよ? 『君の日頃の頑張りへの評価だ』って。やっぱり仕事ができる男は、部下への還元もスマートよねぇ」


「……そりゃよかったな。精々媚び売ってこいよ」 「人聞きの悪いこと言わないで。私は『優秀な部下』として認められてるだけよ。翔くんみたいに将来性のない『無能』とは違うの」


美咲は勝ち誇った顔で髪をかき上げる。 社内では二人の関係は「怪しい」と噂されてはいるが、あくまで公然の秘密。美咲自身も、表向きは「部長に気に入られている優秀な秘書的ポジション」を崩していない。


「で? どうなのよ、例の件。ゼウスのアポなんて取れるわけないでしょ?」


美咲は声を潜め、探るような目で俺を見てきた。


「諦めて早く退職届書いたら? 部長も言ってたわよ。『佐藤の最後っ屁に期待してる』って」 「……いや、なんとかするよ。心当たりがないわけじゃない」 「はぁ? あんた何言ってんの? ゼウスよ? 世界的な神配信者よ? あんたみたいな底辺社畜にコネがあるわけないじゃない」


美咲は鼻で笑うと、うっとりとした表情でスマホを取り出した。 待ち受け画面を見て、俺は思わず吹き出しそうになった。


そこには、ゼウスのファンアート――配信で使っているアバターのイラストが設定されていたからだ。


「……お前、ゼウス好きなのか?」 「好きとかそういうレベルじゃないわよ。ゼウス様はね、私の『生きる希望』なの」


美咲の目の色が変わった。 さっきまでの意地悪なOLの顔ではない。完全に何かに依存している「信者」の顔だ。


「あの知的な語り口、社会を斬る鋭い視点、そして何よりあのセクシーな低音ボイス……♡ もう聞いてるだけで妊娠しちゃいそう。うちの会社の男なんて、ゼウス様に比べたら全員ゴミみたいなもんよ」


美咲は周囲を気にしながら、さらに声を潜めて早口でまくし立てる。


「私ね、裏垢でゼウス様に毎日DM送ってるの。『今日も声が素敵でした』『私だけはゼウス様の理解者です』って。いつかこの想いが届いて、ゼウス様が私を迎えに来てくれる……そんな夢まで見てるんだから」


「へぇ……そうなんだ」 「何その反応、ムカつく。あんたには理解できないでしょうね。ゼウス様のような『本物の男』の価値なんて」


美咲はフンと鼻を鳴らし、スマホの画面(俺のアバター)にキスをする勢いで見つめた。


「ああ……もしゼウス様みたいな人が彼氏だったら、私だって全身全霊で尽くすのに。なんで現実は、小太りハゲか貧乏人しかいないのかしら」


「……おい高橋! まだか! 予約時間が過ぎるぞ!」


入り口の方から、鬼瓦部長の怒鳴り声が聞こえた。 美咲は一瞬で「仕事の出来るイイ女」の顔に戻り、パッと振り返る。


「あ、すみませーん部長! 今行きますぅ♡」


そして俺に向き直り、冷たく言い捨てた。


「ま、そういうわけだから。あんたが万が一、億が一、ゼウス様を連れてくることがあったら教えてよね。私が一番に接待してあげるから。……あ、でもあんたはクビになるから関係ないか。じゃあね、負け犬くん」


美咲は手をひらひらと振ると、小走りで部長の元へ駆け寄っていった。


二人が出ていく背中を見送りながら、俺は最後のおにぎりを口に放り込んだ。 彼女は「部長は当たりくじ」だとは言わなかった。だが、俺は知っている。


俺はスマホを取り出し、ゼウスの裏垢に届いている美咲からの未読DMを開いた。 そこには、彼女のドス黒い本音が書き殴られていた。


『ゼウス様助けて……今日もあのハゲ部長と寿司です(泣) 口臭いし触ってくるしマジで無理。でもブランドバッグ買わせるために我慢してきます……。本当に抱かれたいのはゼウス様だけなのに……』


俺はそのメッセージに、心の中で返信した。


『安心して待ってろ。その“ハゲ部長”との不貞の証拠、俺が全部めくってやるから』


今はまだ、社内では「優秀な部下」という仮面を被っている美咲。 だが、その仮面が剥がれる日はそう遠くない。

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