第39話:世界征服。メディアも企業もひれ伏す『ゼウス帝国』の完成(※俺に逆らえる奴はもういない)
あれから一年。 世界は変わった。いや、俺が変えた。
かつて「無能な社畜」として底辺を這っていた俺は今、日本経済の中心地・大手町にある超高層ビルの最上階オフィスにいた。 ここが、俺の設立した複合企業体『ZEUSホールディングス』の本社だ。
「ゼウス様、本日のスケジュールです」
秘書が恭しく差し出したタブレットには、分刻みの予定が記されている。
10:00 経団連会長との会談
11:30 民放キー局合同プロジェクトの最終承認
13:00 内閣総理大臣との非公式ランチミーティング
「……総理とのランチはキャンセルだ。昨日の国会答弁、歯切れが悪くて不快だったからな。少し頭を冷やさせろ」
「かしこまりました。官邸には『ゼウス様のご機嫌を損ねたため延期』と伝えておきます。きっと顔面蒼白になるでしょうね」
秘書が冷徹にメモを取る。 これが今の俺の日常だ。
俺の配信チャンネル登録者数は、もはや日本の人口を超え、世界中で3億人を突破した。 俺が動画で「この商品は良い」と言えば一秒で完売し、「この企業の姿勢はクソだ」と言えば株価がストップ安になり倒産する。 市場経済は、俺の言葉一つで乱高下する「ゼウス経済圏」と化したのだ。
『速報です。本日、ゼウス氏が動画内で批判した〇〇建設の株価が暴落、事実上の経営破綻となりました』 『街頭インタビュー! 若者が選ぶ”神”ランキング、五年連続でゼウス氏が一位に!』
壁一面の巨大モニターには、どのチャンネルも俺のニュースを流している。 かつて俺を「たかが配信者」と馬鹿にしていたマスメディアは今、俺の機嫌を損ねないよう、毎日必死にヨイショ番組を垂れ流している。 批判的なコメンテーターは、俺が裏で手を回すまでもなく、狂信的な「ゼウス信者」たちによって社会的に抹殺されるからだ。
「失礼します。ゼウス様、お待ちかねのお客様がいらっしゃいました」
重厚なドアが開き、数人の男たちが部屋に入ってきた。 全員、誰もが知る世界的IT企業や、旧財閥系グループのトップたちだ。 かつての俺なら、顔を見ることも許されなかった雲の上の存在。
だが今、彼らは部屋に入るなり深々と頭を下げ、直立不動で整列した。
「ゼ、ゼウス様……! 本日はお時間をいただき、光栄の極みです!」 「我が社の新プロジェクト、ぜひゼウス様の御名を冠したく……!」 「上納金としての献金、倍額をご用意いたしました! どうか我がグループをお見捨てなきよう!」
彼らは汗だくになりながら、俺の顔色を伺っている。 俺が「帝都商事」を乗っ取り、経営陣を奴隷のように扱った一件は、財界への強烈な見せしめとなった。 『ゼウスに逆らえば破滅する』。 その恐怖が、彼らを従順な下僕に変えたのだ。
「君たちの提案書は読んだよ」
俺は革張りの椅子に深く体を沈め、足を組んだまま言った。
「悪くはない。だが、インパクトが足りないな。……利益の9割を我が社に献上するなら、名前くらいは貸してやってもいい」
「きゅ、9割……ですか!?」
「嫌ならいい。他に代わりはいくらでもいる」
俺が冷たく切り捨てると、トップたちは慌てて土下座せんばかりに叫んだ。
「や、やらせていただきます! 9割でも何でも! ゼウス様と関われるだけで、我が社の株価は安泰ですので!」
「よろしい。契約書にサインして置いていけ」
「は、はいぃぃ! ありがとうございますぅぅ!」
大企業のトップたちが、涙を流して感謝し、ペコペコと頭を下げて退出していく。 滑稽だ。 かつて俺を「無能」と罵った社会構造そのものが、今や俺にひれ伏している。
俺は窓際に立ち、眼下に広がる東京の街を見下ろした。 街頭ビジョンには俺のロゴが映し出され、歩く人々は俺がプロデュースした服を着て、俺の動画を見ている。 政治も、経済も、文化も。 この国は完全に『ゼウス帝国』となった。
「……チョロいもんだな」
グラス片手に独りごちる。 復讐から始まった俺の快進撃は、ついに頂点に達した。 邪魔者は消え、世界中が俺を称賛し、富と権力は無限にある。
だが、これだけではない。 俺には、この「外の世界」の支配以上に、俺の心を満たしてくれる「最高の宝物」がある。
「――おい」
俺は指を鳴らした。 すると、オフィスの奥にある隠し扉が静かに開いた。
「はい、ご主人様」
そこから現れたのは、かつて俺を「ダサい社畜」と見下していた妹――莉奈だ。 彼女は最高級のシルクで作られた、露出度の高いメイド服に身を包んでいる。 その胸元には、あの日刻み込んだ『ZEUS』のタトゥーが、黒々と、そして艶かしく主張していた。
「お仕事、お疲れ様です。……肩、お揉みしますか? それとも……」
莉奈は俺の足元に跪き、上目遣いで頬を染める。
「ふくらはぎが張っていらっしゃるみたい。……ほぐさせていただきますね」
彼女は慣れた手つきで俺の足を自分の太ももに乗せ、丁寧にマッサージを始めた。 世界を支配した俺が、唯一心を許せる安息の場所。 そして、俺の支配欲を最も満たしてくれる、世界で一番可愛い奴隷。
「ああ。……すべてを手に入れた祝杯だ。とびきりのを用意しろ」
「はい、喜んで……♡」
俺は世界の王として、眼下の街を見下ろしながら笑った。 かつて無能と蔑まれた男は、今、誰も逆らえない絶対神となったのだ。




