第36話:公開処刑。妹「助けてなんて言ってません」正義マンを論破し、兄への愛を叫ぶ(※アンチ、赤っ恥)
『さあ、莉奈ちゃん! 勇気を出して! 僕がついてるよ!』
画面の向こうで、YouTuberのレンが必死に呼びかけている。 視聴者数は数十万人に達し、コメント欄は「#莉奈ちゃんを救え」のハッシュタグで埋め尽くされていた。
俺の足元に座る莉奈は、静かにカメラを見つめている。 そして、マイクに向かってゆっくりと口を開いた。
「……あの、うるさいんですけど」
『……え?』
レンの笑顔が凍りついた。 視聴者たちも、耳を疑っただろう。震える声で助けを求めるはずの被害者が、氷のように冷たい声を発したのだから。
「助けて、なんて一言も言ってません。勝手に盛り上がらないでください」
『い、いや、でも! 君は首輪をつけられて、無理やり……!』
「無理やり? ……ふふっ、貴方に何が分かるんですか?」
莉奈は冷笑を浮かべ、カメラを睨みつけた。
「貴方、私のこと『可哀想な被害者』扱いしてますけど……半年前、私が『りなぴょん』として炎上してた時、何て言いました?」
『え……?』
「『りなぴょんは社会のゴミ』『兄の寄生虫』『早く消えろ』……そう言って動画で叩いて、再生数稼いでましたよね? 『正義のレン』さん?」
『っ……!? そ、それは……!』
レンが言葉に詰まる。 図星だ。彼は当時、世間の流れに乗って莉奈を徹底的に攻撃していた一人だった。
「世間もそう。親戚もそう。みんな私を叩いて、石を投げて、見捨てました。 私はあの日、社会的に殺されたんです。……貴方たちの手で」
莉奈の声が、怒りと悲しみで震える。
「誰も私を『人間』扱いなんてしなかった。生きる場所なんてどこにもなかった。 ……でも、お兄ちゃんだけは違った」
莉奈は俺の膝に頬を寄せ、すがるように俺の服を握りしめた。
「お兄ちゃんだけは、私を見捨てなかった。 衣食住をくれて、役割をくれて、こうして側に置いてくれている。 貴方たちが私を『ゴミ』として捨てた後、私を拾って『価値あるもの』にしてくれたのは、この人だけなんです!」
『だ、騙されるな! それは依存させてるだけだ! 首輪なんてつけて……!』
「この首輪が何ですか?」
莉奈は首元の革を指先で弾いた。
「貴方たちが私に向けた『死ね』という言葉のナイフより、この首輪の方がずっと温かい。 外の世界の『自由』なんて、私には寒くて痛いだけ。 ……ここが私の家です。私の幸せを、貴方たちの薄っぺらい正義で邪魔しないで!」
莉奈の悲痛な叫びが、ライブ配信を通してネット中に響き渡る。 それは客観的に見れば「洗脳」や「共依存」かもしれない。 だが、「世間は私を殺したが、兄は生かしてくれた」という彼女の実感のこもった言葉は、レンの正義を粉砕するのに十分だった。
コメント欄の流れが一気に変わった。
『正論すぎて草』 『確かに、寄ってたかって叩いてた連中が今さら「救う」とか笑わせるわな』 『レン、お前昔りなぴょん叩いてたのバレてんぞw』 『本人がここがいいって言うなら、外野が騒ぐことじゃなくね?』 『#レン帰れ』
「あ……あぁ……」
レンの顔色が土気色に変わっていく。 正義のヒーローを演じるはずが、ただの「過去にいじめをしていた偽善者」として晒し者になったのだ。
俺はここで、マイクを引き取った。
「聞いたか? これが彼女の意志だ」
『ぐっ……うぅ……』
「お前みたいな、再生数目当てで正義を振りかざす奴が一番醜いんだよ。 ……二度と俺たちの『聖域』に土足で踏み込んでくるな。消えろ」
俺はカメラに向かって中指を立てると、一方的に通話を切断した。
プツン。
画面からレンの顔が消え、俺と莉奈だけの空間に戻る。 コメント欄は、レンへのバッシングと、俺たちへの奇妙な称賛で溢れかえっていた。
『アンチ撃退乙』 『この兄妹、闇が深いけど絆は本物だな』 『誰も入れない二人だけの世界……なんかエモい』
世間は俺たちを「異常」だと認識しつつも、手出しできない領域にあると認めたようだ。
俺は配信を終了し、ふぅ、と息を吐いた。
「よく言ったな、莉奈」
「……はい、ご主人様!」
莉奈が涙を拭い、俺を見上げている。
「私、間違ったこと言ってませんよね? ……外の世界なんて怖くて大嫌いです。ご主人様の側にいられるなら、他には何もいりません」
「ああ。お前はそれでいい」
俺は彼女の頭を撫でてやった。 莉奈は恍惚の表情で目を細める。
これで、世間の雑音すらも封殺した。 親戚も、アンチも、偽善者も、すべて排除した。 今、この世界で俺たちを邪魔する者は誰もいない。
「さて……邪魔者も消えたことだ。 来週は、俺たちの『帝国の完成』を祝うパーティでも開くか」
俺は窓の外、眼下に広がる東京の夜景を見下ろして言った。
「パーティ、ですか?」
「ああ。俺の成功を祝う宴だ。……もちろん、給仕係が必要だがな」
俺の脳裏に、かつての元カノや同期たちの顔が浮かぶ。 彼らを招待客として呼ぶのではない。 敗者として、俺たちの足元で働かせるために呼ぶのだ。




