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第35話:正義マンの介入。「妹さんを解放しろ!」と騒ぐ自称・正義の配信者(※再生数稼ぎの偽善者です)

親戚たちを追い返してから数日後。 俺の平穏は、一本の通知音によって破られた。


「ご主人様、大変です……! これ……」


タブレットを持った莉奈が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。 画面には、今まさにライブ配信中のYouTube動画が映し出されていた。


タイトルは『【緊急】人気配信者ゼウスの「奴隷洗脳」を暴く! 被害者の妹を救出します』。


配信しているのは、登録者数150万人を誇る暴露系・物申す系YouTuber、『正義のレン』だ。 端正なルックスと、「悪を裁く」という過激なスタイルで、若者を中心に人気を集めている男である。


『みんな、聞いてくれ! この「ゼウス」っていう配信者、マジで許せねぇ!』


画面の中のレンが、大袈裟な身振り手振りで吠えている。


『実の妹に首輪をつけて、「ペット」扱いしてるんだぞ? これは立派な人権侵害だ! DVだ!  俺は絶対に許さない! 今夜、ゼウスに突撃して、可哀想な妹ちゃんを救い出す!』


コメント欄には、彼を信奉する信者たちの言葉が高速で流れていた。


『さすがレン様! 男らしい!』 『ゼウス許さん! 妹ちゃん逃げて!』 『#ゼウスを許すな』


俺は鼻で笑った。


「くだらない。典型的な『正義マン』か」


「ど、どうしましょうご主人様……。私、連れて行かれちゃうんですか……?」


莉奈が俺の服の裾を掴み、ガタガタと震えている。 今の彼女にとって「救出」とは、「ご主人様から引き離され、居場所を失うこと」と同義だ。


「安心しろ。あいつの目的は『お前を救うこと』じゃない」


「え……?」


「『悪を倒すカッコいい自分』を演出して、再生数を稼ぎたいだけだ。……ほら、来たぞ」


俺の配信用のPCに、通話リクエストが届いた。 相手は当然、レンだ。


俺はニヤリと笑い、通話ボタンを押した。 同時に、俺のチャンネルでも配信を開始する。


『あ、繋がった! おいゼウス! 逃げずに出たな!』


画面の向こうで、レンが勝ち誇った顔をする。 俺は顔を出さず、ボイスチェンジャーを通した低い声で応じた。


「……何用だ? 騒がしいな」


『とぼけんな! お前が妹さん……莉奈ちゃんを監禁・洗脳してるって噂は聞いてんだよ!  首輪をつけてメイド服? 気持ち悪いんだよ! 今すぐ彼女を解放して、謝罪しろ!』


レンの言葉に、俺のコメント欄とレンのコメント欄が入り乱れ、炎上状態になる。


「解放? 彼女は自分の意志でここにいるが?」


『ハッ! そんなの洗脳されてるから言わされてるだけだろ!  大丈夫だよ莉奈ちゃん! 僕がついてる! 君はもう自由だ! 僕が保護してあげるからね!』


レンはカメラに向かって、いかにも「王子様」のようなキラースマイルを向けた。 その裏で、スーパーチャット(投げ銭)が飛び交い、彼の懐に金が入っていくのが見える。


(なるほど。正義を騙った集金ビジネスか)


俺はマイクのミュートを一瞬だけ切り、足元の莉奈に聞いた。


「だそうだ。どうする? あの王子様に助けてもらうか?」


莉奈は画面の中のレンを見て、嫌悪感に顔を歪めた。 彼女は知っているのだ。かつて自分が「りなぴょん」として炎上した時、この男が率先して自分を叩き、再生数のネタにしていたことを。 そして今、掌を返して「被害者」として利用しようとしていることを。


「……嫌です。あの人、目が笑ってません」


「正解だ」


俺はミュートを解除し、レンに向かって告げた。


「おい、正義の味方さん。そこまで言うなら、本人と話をさせてやるよ」


『えっ? あ、ああ! 望むところだ! 莉奈ちゃん、怖がらないで出ておいで!』


レンが勢いづく。 俺はカメラのアングルを変え、ソファに座る俺の足元に控える莉奈を映した。 黒いメイド服に、首輪。そして、俺の膝に手を置く従順な姿。


そのあまりにショッキングな映像に、コメント欄が一瞬静まり返り、すぐに爆発した。


『うわぁ、ガチで首輪ついてる……』 『怯えてるじゃん! 可哀想!』 『レン様、早く助けてあげて!』


レンは「これぞ求めていた絵だ!」と言わんばかりに目を輝かせた。


『見たかみんな! これが証拠だ! なんて酷いことを……!  莉奈ちゃん! 僕の声が聞こえるかい!? もう大丈夫だ!  そんなクズ兄貴の言うことなんて聞かなくていい! 「助けて」って言ってくれ! 今すぐ警察に通報して迎えに行くから!』


レンが熱っぽく語りかける。 世間は固唾を飲んで見守っている。 洗脳された哀れな妹が、涙ながらに救いを求める感動の瞬間を期待して。


俺は莉奈の頭を撫でた。


「ほら、言ってやれ。『本当の気持ち』を」


「……はい、ご主人様」


莉奈はゆっくりとカメラを見据えた。 その瞳に、怯えの色はない。 あるのは、邪魔者を排除しようとする、冷たく鋭い光だけだった。

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