第30話: 視聴者「そのメイド可愛くね?」妹だとバレず、俺に仕える姿が『忠実な下僕』としてバズる(※妹の人権、完全消滅)
翌日。 ネット界隈は、昨夜の「ゼウス配信・謎のメイド登場」の話題で持ちきりだった。
『ゼウスの配信に映ったメイド、誰?』 『ガチの首輪ついてたぞw』 『怯え方が小動物っぽくて可愛い』 『#ゼウスの迷い犬』
トレンドワードには、俺に関連する単語が並び、切り抜き動画は一夜にして数百万再生を叩き出していた。
俺はリビングのソファにふんぞり返り、タブレットでその様子を眺めていた。 足元には、昨夜からずっとそこで待機している莉奈がいる。 彼女は、俺が許可を出すまで立ち上がることも許されていない。
「おい、見ろよこれ」
俺はタブレットの画面を莉奈に向けた。 そこには、昨夜の放送で俺に顎を持ち上げられ、涙目で震えながら挨拶する彼女の姿がサムネイルになった動画が並んでいる。
「あ……わ、私が……いっぱい……」
莉奈は画面を見つめ、頬を染めた。 かつて「りなぴょん」として活動していた頃も、これほどバズったことはなかった。 皮肉なことに、兄の奴隷として晒された姿が、彼女の人生で最大の注目を集めていたのだ。
「コメントも読んでやるよ。感謝して聞け」
俺は残酷な笑みを浮かべ、書き込みを読み上げ始めた。
『このメイドちゃん、清楚で可愛くね?』 『ゼウス様に絶対服従な感じがたまらん』 『例の詐欺師の妹とは大違いだな。ゼウス様、新しいペットに癒やされてほしい』 『あんなクズ妹は縁切って正解。こっちのメイドちゃんの方が100倍推せるわ』
「……っ!」
莉奈の肩が跳ねた。 世間は、このメイドが「あのりなぴょん」だとは気づいていない。 ニュースや噂で聞く「傲慢な詐欺師の妹」と、今画面に映っている「黒髪ですっぴんの従順なメイド」を、完全に別人として認識しているのだ。
「聞いたか? 『クズ妹は捨てて、このメイドを推そう』だとさ」
「は、はい……」
「お前という人間は、誰からも必要とされていなかった。だが、俺の『ペット』としてなら、こうして愛されている。……よかったな?」
「……はい」
莉奈の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。 それは悲しみの涙ではない。 歪みきった承認欲求が満たされた、歓喜の涙だった。
「嬉しいです……。私、生きてていいんですね……ご主人様のペットとしてなら、ここにいていいんですね……」
彼女の中で、最後のプライドが崩れ去った。 自分らしく生きれば「詐欺師」「クズ」と叩かれる。でも、兄の付属品として生きれば愛される。 ならば、もう「人間」である必要なんてない。
「ああ。お前はもう、高橋莉奈じゃない。ただの『有能な小道具』だ」
俺は彼女の頭を足先で撫でた。
「わん、と鳴け」
「……わんっ♡」
莉奈は躊躇なく、犬の鳴き真似をした。 かつて兄を「ATM」と呼び、人として見下していた女はもういない。 ここにいるのは、主人に愛されるためなら人間性さえも捨て去る、忠実な雌犬だけだ。
俺は満足げに頷いた。
「教育完了だな」
インフルエンサー気取りだった愚かな妹は死んだ。 残ったのは、俺の配信を盛り上げ、俺の私生活を支える、便利な奴隷。
借金完済まであと50年。 いや、今の彼女なら、完済したとしても自分から「置いてください」と懇願するだろう。 彼女の逃げ場も、帰る場所も、人間としての権利も、すべてこの部屋の中で消滅したのだから。
「さて、次の配信の準備だ。……今夜は『お手』でも披露するか?」
「はいっ! 練習します! 見ててください、ご主人様!」
莉奈は尻尾を振る幻覚が見えるほど嬉しそうに、四つん這いでリビングを駆け回った。
俺はその滑稽で哀れな姿を見ながら、冷たいコーヒーを飲み干した。 身内の「掃除」は終わった。
だが、俺を裏切り、見下していた連中はまだ他にもいる。 次は……あの女だ。
俺の脳裏に、かつて俺を「つまらない男」と捨てた元カノの顔が浮かんだ。




