第28話: 「私の神様……♡」精神が作り変えられ、奴隷であることに快感を覚え始める(※教育完了まであと少し)
奴隷生活が始まって、二週間が経過した。
「失礼いたします、ご主人様。モーニングコーヒーでございます」
朝6時。 莉奈は音もなく寝室に入り、サイドテーブルにカップを置いた。 その動きには、初日のようなダラダラとした怠惰な面影は微塵もない。 背筋はピンと伸び、メイド服には皺一つなく、所作は洗練されている。 派手だった茶髪は黒く染め直させ、厚化粧も禁止したため、かつての「りなぴょん」の面影は消え失せ、従順な使用人の顔になっていた。
だが、その瞳だけが異様だった。 光がなく、どこか虚ろで、それでいて熱っぽい。
「……うん、置いとけ」
ベッドの中の俺が短く返事をすると、莉奈は深くお辞儀をした。
「かしこまりました。……あの、ご主人様」
「なんだ」
「昨晩の配信のアーカイブ、編集しておきました。不適切なコメントの削除と、切り抜き動画用のタイムスタンプも作成済みです」
俺は少し驚いて身体を起こした。 そこまでは指示していなかったはずだ。
「……勝手なことをしろとは言っていないが」
「も、申し訳ございません! ですが、ご主人様はお忙しいので、少しでもお役に立ちたくて……! 余計なことでしたでしょうか……!?」
莉奈が顔面蒼白になり、その場に土下座しようとする。 恐怖。焦燥。そして、「捨てられたくない」という強烈な執着。
睡眠時間を削ってまで俺に尽くすその姿は、もはや恐怖による服従を超えていた。
「……いや、助かる。悪くない」
俺がそう呟くと、莉奈の顔がパァァァッと輝いた。 まるで、地獄の底で蜘蛛の糸を見つけた罪人のように。
「本当ですか!? 嬉しい……! ご主人様に褒めていただけた……!」
彼女は頬を紅潮させ、自分の手を胸の前で握りしめた。 その手は、連日の水仕事で荒れ、かつての美しいネイルは見る影もない。 だが、今の彼女にとって重要なのは「美容」ではなく「主人の承認」だけになっていた。
その日の午後。 俺はリビングで次の企画の構成を練っていた。 莉奈は少し離れた場所で、床のフローリングを磨いている。
カサ、カサ、と布が擦れる音だけが響く静寂。 ふと、俺は彼女に問いかけた。
「おい、莉奈」
「はいっ! 何でしょうか、ご主人様!」
彼女は即座に作業を止め、犬のようにこちらを向く。
「お前、逃げたいと思わないのか? 隙を見て警察に駆け込むとか」
俺の意地悪な質問に、莉奈はキョトンとして、それから激しく首を振った。
「とんでもないです! そんなこと、微塵も考えていません!」
「なぜだ? こんな生活、辛いだろう」
「辛くありません! ……だって、外の世界の方が怖いですから」
莉奈は瞳を潤ませて訴えた。
「外に出たら、私はただの『詐欺師』で『嘘つき』です。みんな私を笑って、石を投げてきます。……でも、ここなら」
彼女は熱っぽい視線を俺に向けた。
「ここなら、ご主人様の役に立てます。ご主人様だけが、私に『仕事』と『居場所』をくださいます。……私みたいな無能なゴミを、置いてくださるだけで感謝しています」
「……そうか」
俺は鼻で笑った。 完全に壊れたな、こいつ。
かつてあれほど高慢だったプライドは粉々に砕け散り、その破片で「奴隷としての自尊心」を再構築してしまったようだ。 自分を「ゴミ」と定義し、そのゴミを拾ってくれた俺を「神」と崇める。 典型的な依存の心理だ。
「なら、もっと働け。俺の役に立ちたいんだろ?」
「はい! もちろんです! もっと命令してください! 私、ご主人様の手足となって働きますから!」
莉奈は恍惚とした表情で床磨きを再開した。 その背中からは、悲壮感よりも、歪んだ充足感が漂っていた。
その夜、配信中。 俺はカメラの向こうの視聴者に向けて、熱弁を振るっていた。
「いいかお前ら、人生は配られたカードで決まるんじゃない。そのカードをどう使うか、支配する側になるかされる側になるかだ!」
『さすがゼウス様!』 『一生ついていきます!』 『神! 神!』
滝のように流れるコメント。 スタジオの隅で、莉奈はその光景をじっと見つめていた。
(すごい……)
彼女の心臓が早鐘を打つ。 画面の中の兄は、輝いていた。 数百万の人間を言葉一つで動かし、熱狂させ、支配する絶対的な王者。
かつて「キモい陰キャ」と見下していた兄の姿は、今の彼女の目には、後光が差す「本物の神」として映っていた。
(あんな凄い人が、私のご主人様なんだ……)
(あの人は、私の全てを知っている。私の汚い部分も、罪も、全て握り潰して、ここに置いてくれている)
(お兄ちゃんじゃない……ゼウス様……)
莉奈の中で、過去の記憶が塗り替えられていく。 兄への侮蔑は消え失せ、代わりに絶対的な服従と崇拝が心を満たした。
配信が終わり、俺がヘッドセットを外した瞬間。 莉奈は無言で近づき、俺の足元に跪いて、革靴のつま先に額をつけた。
「……なんだ?」
「お疲れ様でした……私の、神様……♡」
顔を上げた彼女の瞳は、完全にイッていた。 それは恐怖に怯える被害者の目ではない。 教祖を前にした、狂信者の目だった。
「ふん、気持ち悪いな」
俺は素っ気なく言い放ったが、内心では確信した。 こいつの精神は、もう十分なところまで堕ちている。
だが、まだだ。 ここで満足しては面白くない。
『教育』完了まで、あと少し。 仕上げに、この忠実な下僕を最高のエンターテインメントとして世間に披露してやろう。 それで彼女は、社会的に二度と後戻りできなくなる。




