第23話: 「他人だろ?」すがりつく妹を突き放し、家から追い出しカウントダウン(※お望み通り絶縁します)
「――単刀直入に言う」
俺は汚れたリビングを見渡しながら、正座する莉奈に告げた。
「このアパートの契約、今月末で解約することにした」
「……へ?」
莉奈が間の抜けた声を出す。 意味が理解できていないようだ。
「解約って……え? じゃあ、私たちはどこに住むの? まさか、お兄ちゃんのあのタワマン!?」
莉奈の表情がパッと明るくなった。 都合のいい脳みそだ。
「キャー! やだ、心の準備がぁ! でも私、高層階って憧れてたんだぁ! 私の部屋はどっち? 夜景が見える部屋がいいな!」
「『私たち』じゃない」
俺は冷ややかに遮った。
「俺はもうタワマンに住んでいる。解約するのは、お前が住んでいるこの部屋だ。……つまり、ここから出ていけと言っているんだ」
「……は?」
莉奈の笑顔が凍りついた。
「で、出ていくって……どこに?」
「知らん。実家に帰るなり、友達の家を転々とするなり、好きにしろ。あ、実家はもうないんだったか」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 無理だよ! 私、お金ないし、行くところなんてないよ!」
「だろうな。カードも止めたし、小遣いももう渡さない」
俺は淡々と事実を並べた。 莉奈の顔色が青ざめ、呼吸が荒くなる。
「なんで……? ひどいよお兄ちゃん! 私、妹だよ!? 家族を見捨てるの!?」
「家族?」
俺は鼻で笑った。
「お前、よく言ってたじゃないか。『兄貴なんてただのDNAの一致。実質、他人と変わらない』って」
「そ、それは……言葉のアヤというか……」
「俺はその言葉に深く納得したんだよ。そうだ、俺たちはただの他人だ。……赤の他人の家賃や生活費を、なんで俺が払わなきゃいけないんだ?」
「うぐっ……!」
過去の自分の暴言が、ブーメランとなって喉元に突き刺さる。 俺はさらに追い打ちをかけた。
「退去日は一週間後だ。それまでに荷物をまとめて出ていけ。一週間を過ぎたら、業者が入って強制的に荷物を処分する。……もちろん、お前の大事なブランド品もな」
「いやぁぁぁ! 待って! ごめんなさい!」
莉奈が半狂乱になって飛びついてきた。 俺の膝にすがりつき、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。
「反省してるから! もう『キモい』なんて言わないから! 家事もする! 洗濯もする! だから捨てないでぇぇぇ!」
その姿は、まるで親に捨てられそうになった幼児のようだ。 だが、今の俺には何の感情も湧かない。 あるのは「面倒な手続きが終わった」という事務的な達成感だけだ。
「……離せ」
俺は冷たく言い放ち、すがりつく彼女の手を振り払った。
バシッ!
「あ……」
「何度言わせるんだ。馴れ馴れしい真似をするな、気持ち悪い」
俺は立ち上がり、スーツの埃を払った。
「お兄……ちゃん……」
「二度とその名で呼ぶな。……じゃあな、莉奈。達者で暮らせよ」
俺は背を向け、出口へと歩き出した。 振り返る必要はない。 背後から「行かないで!」「お願い!」という絶叫が聞こえたが、それはただの騒音に過ぎない。
ガチャリ。 バタン。
鉄の扉を閉めると、叫び声は遮断された。 廊下の冷たい空気が、俺の頬を撫でる。
「……せいせいした」
俺は深く息を吐き出した。 これで、寄生虫の駆除は完了だ。 あとは彼女が自分の力で生きていくなり、野垂れ死ぬなり、勝手にすればいい。
……と、本来ならここで終わりにするつもりだった。 だが、俺のポケットの中でスマホが震えた。
通知を見ると、SNSのDMに一件のメッセージが届いていた。 差出人は、見知らぬアカウント。 だが、その内容は俺の足を止めさせるのに十分だった。
『初めまして、ゼウス様。 あなたの妹・莉奈さんのことで、面白い話があります。 彼女、あなたのコネを使って、裏で随分とあくどい事をしていたようですよ?』
「……なんだ、これは」
俺は目を細めた。 ただの無能な浪費家だと思っていたが……どうやらこの妹、俺の知らないところで、もっと深い「罪」を犯していたらしい。
「まだ……終われないか」
俺は車に戻りながら、不敵な笑みを浮かべた。 単に追い出すだけでは生温い。 彼女が犯した罪のすべてを暴き、徹底的に分からせる必要があるかもしれない。




