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第20話:焼け跡に残ったのは、俺への『信者』と化した元・アンチたちだけだった(※俺の時代、到来)

俺はタワーマンションの地下駐車場へ降り、納車されたばかりの愛車のスポーツカーに乗り込んだ。 エンジンを始動させると、重低音がコンクリートの壁に反響する。


行き先は、かつて俺が住んでいた――そして今も妹の莉奈が寄生している、ボロアパートだ。


車を走らせながら、俺は信号待ちの間にスマホでネットの反応を確認した。 先ほど終えたばかりの『新事務所設立』の報告配信は、瞬く間に拡散され、SNSのトレンドを独占していた。


『ゼウス社長、事務所設立おめでとう!』 『GD社が破産した日に新事務所発表とか、タイミング神すぎw』 『完全なる勝利宣言きたな』 『一生ついていきます!』


一週間前の「正体解禁」以来、俺のSNSには圧倒的な称賛と崇拝の言葉が溢れかえっている。 かつては『偉そうだ』『何様だ』と俺の態度を批判していたアンチたちも、悪徳企業をたった一回の配信で潰した俺の実力を目の当たりにし、掌を返して熱狂的な『信者』へと変貌していた。


焼け跡に残ったのは、俺にひれ伏す者たちだけ。 心地よい光景だ。 これこそが、俺が求めていた「支配」の形だ。


「……だが」


俺はアクセルを踏み込み、夜の都心を駆け抜ける。


「まだ一人だけ、この状況を理解していない馬鹿がいるな」


世界中が俺を「神」と崇める中で、たった一人。 この一週間、俺が何度無視しても、しつこく着信を残し続けている女。 妹の莉奈。


彼女は、俺が家を出て行ってからのこの一週間、金もなく、食料もなく、パニックになりながら俺の帰りを待ち続けているはずだ。 俺が「神」だと知った今、どんな顔で俺を待っているのか。 かつてのように「キモい」と罵るのか、それとも……。


車窓の景色が、煌びやかな高層ビル街から、徐々に薄暗い住宅街へと変わっていく。 それはまるで、俺が手に入れた「天上の世界」から、かつていた「地獄」へと舞い戻っていくようだ。


やがて、見覚えのある古びたアパートが見えてきた。 塗装が剥げ、外廊下の電灯がチカチカと点滅している。 数ヶ月前まではここが俺の全てだったが、今となってはゴミ捨て場にしか見えない。


俺は路肩に車を停め、アパートを見上げた。 2階の角部屋。 あの窓の向こうに、莉奈がいる。


スマホを見ると、莉奈からの着信通知はまだ増え続けていた。 留守電には、「お兄ちゃんどこ!?」「お腹すいた」「嘘だよね?」という、錯乱したメッセージが何件も吹き込まれている。


「……やれやれ」


俺は車を降り、冷たい夜風に当たった。


世界中の人間が俺に敬意を払っているというのに、実の妹だけがまだ「兄になら何を言っても許される」と甘えている。 その歪んだ認識を、これから物理的に粉砕してやらなければならない。


「待ってろよ、莉奈」


俺はアパートの錆びついた階段に足をかけた。 コツ、コツ、と革靴の音が響く。


これは「帰宅」ではない。 神による「最後の審判」の訪問だ。


俺はかつての我が家の前に立ち、ゆっくりとドアノブに手をかけた。

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