表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/20

第2話: 社長命令「神配信者を連れてこい」――その神、目の前の俺ですが?(※無茶振りで自爆フラグ成立)

翌朝。 重苦しい空気が漂う大会議室に、怒号が響き渡っていた。


「おい営業部! 今月の売上はどうなってるんだ! 先月比マイナス30%だと!? やる気があるのか貴様ら!!」


バンッ! とマホガニーのテーブルを叩きつけたのは、この会社のトップ――権田ごんだ社長だ。 昭和の精神論を振りかざし、社員を奴隷としか思っていないワンマン経営者。 俺たち社員は全員、直立不動でその怒号を浴び続けていた。


「申し訳ありません社長! ですが、競合他社がネット広告に力を入れておりまして、我が社のようなアナログな営業スタイルでは限界が……」 「言い訳をするな鬼瓦おにがわらァ! ネットだ? 広告だ? そんな金のかかること出来るか! 足を使え足を! 靴底減らしてドブ板営業するのが基本だろうが!」


鬼瓦部長が縮こまり、その横で元カノの美咲や先輩の田中も青ざめている。 この会社は今、経営危機の真っ只中にある。時代遅れの商品の押し売り、劣悪な労働環境による離職率の悪化。倒産は時間の問題とも囁かれていた。


「……だが、俺も鬼じゃない。一つだけ、起死回生の策を用意してやった」


権田社長はギラついた目で周囲を見渡すと、ホワイトボードにマジックで大きくある名前を書きなぐった。


ZEUS(ゼウス)


その文字を見た瞬間、会議室がざわめいた。


「ゼウスって……あの配信者の?」 「登録者1000万人越えの、あの?」


当然の反応だ。 正体不明、年齢不詳。ただ圧倒的なトーク力とカリスマ性、そして時折見せる過激な社会風刺で世界中を熱狂させる『ネットの神』。 若者だけでなく、今や経済界ですらその発言に注目するほどのインフルエンサーだ。


「そうだ。我が社の新商品を、この『ゼウス』に宣伝させる。奴が動画で一度でも紹介すれば、商品はバカ売れ、株価もV字回復間違いなしだ!」


社長は鼻息荒く宣言した。 ……正気か? 最後列で頭を下げていた俺は、思わず顔を上げそうになった。


ゼウスは、企業案件なんて一度も受けたことがない。 過去に大手自動車メーカーや、世界的IT企業からの数億円規模のオファーすら「つまんないから」という理由で蹴っている。それは業界では有名な話だ。 それを、こんな地方の中小ブラック企業が? 無理に決まっている。


「しかし社長……ゼウスは顔出しNGですし、企業とのコラボは一切しないことで有名ですが……」 「だからどうした! 金か? 女か? 奴も人間だ、弱みや欲の一つくらいあるだろう! そこを突くのが営業の仕事だろ!」


無茶苦茶だ。 社員たちが困惑の表情を浮かべる中、鬼瓦部長がふと、ニタリと嫌な笑みを浮かべて俺の方を見た。


「……社長。それなら、うってつけの人材がいますよ」 「ほう? 誰だ」 「あそこにいる佐藤です。佐藤翔」


鬼瓦が指差した先――全社員の視線が、俺に集まる。 鬼瓦は芝居がかった仕草で、わざとらしく言葉を続けた。


「彼はこのところ、営業成績で……少々、苦戦しているようですからね。ここらで一発逆転、会社への貢献を示す『大きなチャンス』を与えてやるべきではないかと」


言葉こそ綺麗だが、その目は明らかに侮蔑の色を帯びていた。 『お前みたいな無能には、このくらいの無理難題を押し付けて潰すのがお似合いだ』と言いたげな顔だ。


隣にいた美咲も、意図を察したようにクスクスと笑い、田中先輩が「さすが部長、部下思いですねぇ。佐藤くん、名誉挽回の機会をもらえてよかったね?」と揉み手を打つ。 要するに、成功すれば会社の手柄。失敗しても「佐藤が使えなかったせい」にして、トカゲの尻尾切りに使う腹だ。


社長は値踏みするように俺を睨みつけると、顎をしゃくった。


「おい、佐藤。お前、やれるな?」 「……いえ、無謀です。ゼウスはコンタクト手段すら公開していませんし、そもそも――」 「口答えをするなァッ!!」


社長の怒号が飛ぶ。


「会社がチャンスをやると言ってるんだぞ! お前には『やる』か『会社を去る』か、二つに一つしかねぇんだよ! 来週の創立記念パーティーまでに、必ずゼウスを連れてこい。……社会人としての『責任』、期待してるぞ?」


「……」


反論は許されない。 鬼瓦部長が、私の耳元で聞こえるか聞こえないかの小声で囁いた。


「……ま、精々頑張れよ。無理なら退職届の準備でもしておけ。お前みたいな陰キャじゃ、門前払いだろうがなぁ」


会議室に、忍び笑いが広がる。 誰も、俺が成功するなんて思っていない。ただのスケープゴート。一週間後の破滅が確定した哀れな男として見ている。


俺は深く頭を下げた。


「……承知、いたしました」


床を見つめる俺の顔を見て、奴らは「絶望して泣いている」と思っただろう。


――バーカ。 笑いを堪えるのに必死なんだよ。


俺は心の中で、満面の笑みを浮かべていた。 こいつら、自分から地獄への特急券を切りやがった。


ゼウスに会いたい? コラボしたい? ああ、いいとも。叶えてやるよ。 社長、鬼瓦、美咲、田中……お前ら全員が揃ったそのパーティー会場に、俺《神》が降臨してやる。


そして、その配信は『商品紹介』なんかじゃない。 お前らの悪事を全世界に晒し上げる、『公開処刑』のライブ配信だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ