第18話：社長の末路。「会社が潰れる！」株価大暴落。縋り付く手を蹴り飛ばす（※靴が汚れるので触るな）
「ひっ……！」
俺に詰め寄られ、権田社長は無様に尻餅をつきながら後ずさりした。 部下たちを「教育的指導」と称して怒鳴りつけていた威厳は、もはや欠片もない。
「ま、待て佐藤……いや、ゼウス様！ 話し合おう！ な？」
社長は引きつった笑顔で、揉み手をしながら懇願してきた。
「わ、私は知らなかったんだ！ 全部、鬼瓦や田中が勝手にやったことだ！ 私は被害者なんだよ！ だ、だから、これ以上会社を攻撃するのはやめてくれ！」
「知らない？ 被害者？」
俺は呆れてため息をついた。
「あんたの承認印が押された『裏帳簿』のデータ、さっき全世界に公開しましたけど？ 今さらシラを切れるとでも？」
「うぐっ……！ そ、それは……目が悪くてよく見ずに押しただけで……！」
「苦しい言い訳だな。……まあいい。百歩譲って、あんたが被害者だとしても、もう手遅れだ」
俺はポケットからスマホを取り出し、画面を社長に見せつけた。
「これ、今の御社の株価チャートです」
「……え？」
社長が画面を覗き込む。 そこには、ナイアガラの滝のように垂直落下するグラフが表示されていた。
「ス、ストップ安……！？ な、なんだこれは！？」
「俺が配信で告発を始めた瞬間、投資家たちが一斉に売り浴びせたんです。……ああ、西園寺会長が『契約破棄』を宣言したのがトドメでしたね。今のＧＤソリューションズの株なんて、紙切れ同然ですよ」
「あ、あわわ……嘘だ……私の資産が……会社が……！」
社長がガタガタと震え出す。 そこへ追い打ちをかけるように、社長の懐にあるスマホが鳴り響いた。 着信画面には『メインバンク・頭取』の文字。
「……電話、鳴ってますよ。出なくていいんですか？」
俺は冷ややかに告げた。
「恐らく、融資引き揚げの通告でしょうけど」
「ひいぃッ！」
社長はスマホを投げ捨て、頭を抱えてうずくまった。 銀行に見放され、株は大暴落、取引先はゼロ。 この会社は、数日も持たずに倒産する。
「お、終わりだ……。私が一代で築き上げた会社が……地位が……名誉が……！」
社長は涙と鼻水を垂れ流し、子供のように泣きじゃくった。 そして、ふと顔を上げ、俺の方を見た。 その目には、狂気じみた希望の光が宿っていた。
「そ、そうだ……！ ゼウス様！ 君なら何とかできるだろう！？」
社長は這いつくばったまま、猛スピードで俺の足元に擦り寄ってきた。
「君の影響力で『あれは全部嘘だった』と言ってくれ！ そうすれば株価は戻る！ 銀行も待ってくれる！ な！？ 頼む！」
「はあ？ なんで俺がそんなことを」
「金ならやる！ 役員報酬も弾む！ 副社長の椅子も用意するから！ だから助けてくれぇぇぇ！」
社長は必死の形相で、俺の右足にしがみついてきた。 高級なイタリア製のスーツが床の汚れで埃まみれになり、涙で濡れた顔を俺のズボンに押し付けてくる。 かつて俺を「無能」と見下し、こき使ってきた男の成れの果てだ。
俺の中に湧き上がった感情は、憐れみでも、怒りでもない。 ただひたすらに、「不快」だった。
「……離せ」
「頼むぅぅ！ 一生のお願いだぁぁ！ 見捨てないでくれぇぇ！」
「離せと言ってるんだよ、汚らわしい」
俺は右足を勢いよく引いた。
「うわっ！？」
支えを失った社長は、無様にバランスを崩し、顔面から床に叩きつけられた。
バタンッ！
「ぐえっ……！」
「……俺の靴に触るな。その脂ぎった手で触れられると、臭いが移るんだよ」
俺は社長を見下ろしながら、ハンカチを取り出し、触れられたズボンの裾をパンパンと払った。 まるで汚物を処理するかのような仕草。 それが、暴力よりも深い屈辱となって社長に突き刺さる。
「副社長？ 金？ ……いらないな。俺の個人資産だけで、この会社を丸ごと買収できるくらいは持ってるんで」
「あ……あぁ……」
その言葉に、社長の瞳から完全に光が消えた。 金も、地位も、力も。 自分が誇っていたすべてのものが、目の前の若造の前では塵芥に等しいと悟ったのだ。
「さようなら、権田社長。……ああ、これからは『無職の権田さん』か」
俺はカメラに向かって、今日一番の笑顔を見せた。
「――以上をもって、『ＧＤソリューションズ・崩壊記念パーティー』を終了します。ご視聴ありがとうございました」
『８８８８８８８８』 『神回だった』 『完全勝利』 『スッキリしたあああああ』
画面を埋め尽くす拍手の弾幕と共に、俺は配信終了のボタンを押した。 会場には、廃人のようになった社長と、泣き崩れる元カノ、そして呆然とする妹だけが残された。
