第14話:部長の末路②。「警察だ!」逃げ惑う部長、コメント欄の「ざまぁww」弾幕に見送られ連行(※刑務所で反省してね)
「確保ォッ!!」
バンッ! と会場の扉が勢いよく開かれ、数人の刑事が雪崩れ込んできた。
「け、警察……!?」
失禁してへたり込んでいた鬼瓦部長が、弾かれたように飛び上がった。 本能的な恐怖が理性を上回ったのだろう。彼は獣のような声を上げて、出口とは反対側へ走り出した。
「ふ、ふざけるな! 俺は捕まらないぞ! 俺はエリートだ! こんなところで終わってたまるかァ!!」
往生際が悪すぎる。 鬼瓦は、近くにいた田中先輩を盾にしようと腕を伸ばした。
「おい田中! 俺を隠せ! 助けろ!」 「ひいっ!? や、やめてください!」
田中先輩は、これまで靴を舐めんばかりに媚びへつらっていた上司を、全力で突き飛ばした。
「触るな犯罪者! 僕まで共犯だと思われたらどうするんですか!」 「なっ……田中のくせにィ!」
突き飛ばされた鬼瓦は、テーブルに激突して無様に転がった。 そこへ、刑事たちが一斉に飛びかかる。
「公務執行妨害も追加だ! 大人しくしろ!」 「離せ! 離せよぉぉ! 俺はGDソリューションズの部長だぞ! お前らごときが触っていい人間じゃ……!」
「黙りなさい!」
ガチャリ。 冷たい金属音が響き、鬼瓦の両手首に銀色の手錠がかけられた。 その瞬間、鬼瓦の暴言がピタリと止まり、絶望の色が顔全体に広がった。
「う……あ……」
俺はマイクを片手に、ゆっくりと彼に近づいた。
「残念だったな、鬼瓦。ここからは『エリート部長』じゃなくて、『容疑者』としての人生だ。……ま、刑務所の中なら衣食住は保証されるから、感謝しろよ?」
「さ……佐藤ぉぉ……お前ぇぇぇ……っ!!」
鬼瓦は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、俺を睨みつけた。 殺意、悔恨、恐怖。負の感情が入り混じった、実に見苦しい表情だ。 俺はそんな彼に、最後のプレゼントを送ることにした。
「そうだ。せっかくだから、世界中の視聴者に見送ってもらおうか」
俺が合図を送ると、背後の巨大スクリーンが切り替わった。 そこに映し出されたのは、画面を埋め尽くさんばかりの、ある「言葉」の弾幕だった。
『ざまぁwwwwww』 『ざまぁwwwwww』 『ざまぁwwwwww』 『逮捕おめでとうございまーす!』 『一生出てくんなカス』 『メシウマwwww』
350万人が打ち込む「ざまぁ」の文字が、奔流となってスクリーンを流れていく。
「見ろよ鬼瓦。みんなお前を祝福してくれてるぞ?」 「ひ、ひぃぃぃ……! やめろ……見せるな……!」
鬼瓦は自分の悪行が世界中に晒され、嘲笑われている現実に耐えきれず、ガクガクと震えながら目を逸らした。 プライドだけで生きてきた男にとって、これ以上の屈辱はないだろう。
「連行しろ」
刑事の指示で、鬼瓦は両脇を抱えられ、ズルズルと引きずられていく。
「いやだ……いやだぁぁ! 社長! 社長助けてくれぇ! 美咲ぃぃ! お前も何とか言えよぉぉ!」
鬼瓦はかつての仲間たちに助けを求めたが、誰も目を合わせようとしなかった。 権田社長は石のように固まり、美咲は顔面蒼白で震えているだけだ。
「俺は悪くない……全部佐藤のせいだ……俺はぁぁぁ……ッ!!」
断末魔のような叫び声を残し、鬼瓦の姿は扉の向こうへと消えていった。
会場に、重苦しい静寂が戻る。 だが、俺にとっては心地よい静けさだった。 長年、俺を苦しめてきた害虫が一匹、完全に駆除されたのだから。
「……さて」
俺はマイクを持ち直し、凍りついている会場を見渡した。 視線の先には、ガタガタと震えながら身を縮こませている、赤いドレスの女――元カノの美咲がいる。
「鬼瓦部長は退場したわけだが……まだ、『清算』が終わっていない人がいるよな?」
俺の言葉に、美咲がビクリと肩を跳ねさせた。
「次は、お前の番だ。高橋美咲」
俺はスクリーンを指差した。 そこには、次の「処刑用ファイル」がすでにスタンバイされていた。




