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9/14

〈9〉志乃さんはいいお方ですね...(お体の方も大変魅力的なようで...)

「おじさん……」

「無理しなくてもいいですよ…」

「うん…

ちょっとごめん…」

「はい…」


リンさんはフルーツポンチの入った紙皿と、余ったサイダーの入ったペットボトルを持って部屋に戻っていきました。

甘い甘いですね...。

これはなかなか出てこなさそうです。

まだ夕方前ですから、のんびりと夕食の用意でもしましょうか。


カチャカチャ


そういえば夕食を作るのは何気に10日ぶりくらいですかね。

劣化する前に冷凍のお魚さんたちを消費させていただくとしましょう


ブチッ…ブチッ…


いつもは面倒なので端折っておりますが…。

今日は他人に振舞うのものなのでね、小骨までとっておきましょう。


………


さて、後は揚げるだけですね。

まだリンさんは出てきません…。

一応信頼のためです。

志乃さんから渡された小型のマイクを設置して回りましょう。


カパッ


コンセントタップ型…(苦笑)。

どうしてこのようなものがすぐに車から出てくるのでしょうか。

もしかして、志乃さんは暗殺者なのでしょうか…。

いえ、あのような巨乳の方に素早い動きや、狭い場所に隠れるといった芸当は到底できないはずです。

(ひどい偏見ですね…)


「あとはリンさんの部屋ですか…」


うーーん…。

刺激はしないでおきましょう。

それと、カメラではなくてマイクで勘弁してくださったのですね。

手で口を塞いで「ほらほら、声出したら聞かれちゃうよ」

「ン゛っ…!!///

ンモ…マメッ(ダメッ)…!!」というやつが出来るのですか…!!

いいですねえ。


「本日のニュースをお伝えします…」


久しぶりに堂々とニュースを見られますね。

楽しみというほどでもないのですが…。


パタパタ…


洗濯ものを畳んでおきます。

私は気にしていませんでしたが女性はしわなどを気にするようです。


淡々…淡々…


洗濯後の下着に用はありませんので、さっさと終わらせてしまいましょう。

最高気温が34度ですか…。

今年…梅雨はどこへ行ってしまったのでしょうね…。

世の中の大半が喜んでいることでしょう。

6月は私にとってはウナギ釣りを出来る唯一の時期なのですが…。

この調子では無理そうですね。

(雨が降らないですし蚊も出てきてしまいます

なにより暑いです…)


ガチャ…


「あ…ごめんご飯..」

「大丈夫ですよ…今日はお魚さん三昧ですが…」

「ありがと...

あの...さ...」

「...はい...」


せっかく勇気を出して話そうとしてくれたのですから、聞いてあげるのが大人の役目ですね。


「ごめんなさい......」

「なにがですか...?」

「あの...その...ほら...私が勝手に転がり込んじゃったせいでおじさんに迷惑かけちゃった...」

「いやいやそんなことないですよ...」

「ほら...いつもそう...

会社だって今休んでくれてるんでしょ...」

「ああ...会社は...辞めましたかね...ははは...」

「...!それって私のせい...だよね...」

「いえだから本当にリンさんのせいではなくてですね...」

「おじさんは優しいよ......だから私もつい甘えちゃってる...」

「...いいんですよ

甘えたって」

「...」

「私は大人ですからね...」


あまりにも頼りないかもしれませんが...(苦笑)。


「ほら...せっかくですしお魚さん...」

「う、うん...」


......


お箸が進みませんね。


「あの...無理して食べなくても...」

「ごめんっ!やっぱり私...!!」


ダダダダダダダダ...

バンッ


......。


「はあ...」


聞き分けの悪い子ですねえ。

ですが私もなにもかもに肯定しすぎてしまってたのかもしれません。

これは試練なのですかね...。

私たちの奇妙な関係の存続如何の...。


しん......


リンさんが居ないとなると急に寂しくなりますね。

これまでもリンさんが寝ていたり外出する機会は少ないですけどありましたが...。

それとは違った...もう帰ってこないのかもしれないという、不安や寂しさのような私の心までもを投影した静けさとでも言いましょうか...。


バンバンバン


「おじ...木村さん!!」

「あ、開いていますよ...」


ガチャン


「今、凛華お嬢様が...!!」

「...そうですね...」

「そうですねじゃないでしょ!

なにかしたのか!?」

「家出...その2......?」

「なにふざけたこと言ってるんだ!!」


胸倉を掴んできます。

凄いです。

力持ちですね。

私が軽すぎるだけでしょうか...。


「先ほどまでの会話を聞かれていたのでは...?」

「それは...そんな四六時中聞けるわけないだろ!」

「それもそうでしたね...」

「あのなあ...お嬢様が警察にでも保護されたら捕まんのはお前なんだぞ?」

「そうでしたね...」

「そうでしたねって...お前捕まるのが怖くないのかよ」

「恐怖は...ないですかね...」


今はリンさんと離れてしまうことへの名残惜しさのような思いが強いです。


「リンさんが望むようになれればいいですね...」

「お前...何者...?」

「リンさんの...パパですかね...」


散々パパさんムーブしてきましたからね。

父ではなくパパの方です(苦笑)。

ハイトーンな口調と上目遣いにやられてしまってでもやってあげていましたから......(苦笑)。


「......凛華お嬢様から聞いてるのか?」

「なにをでしょうか...」

「お嬢様のご家庭のこと...」


詳しく聞いてはいないですがなんとなく分かります。

忙しくて構ってもらえなかった、とか言ったところでしょう。


「そうか......」

「はい...」

「...」

「...」


え......っと?

なに待ちですか?

脱がせろということですか?

(そんなわけありませんね)


「えっと...捜しに行きますか?」

「...あくまでもお嬢様の意思を尊重する」

「後をつけて見守るということですね...」

「そうだ」


私の家に押しかけてくるくらい心配なのでしたらそのまま追いかければよかったのでは...。

志乃さんは少し抜けている部分があるのでしょうか...。


バタン

ガチャッ


「それで凛華お嬢様の行先に心当たりは?」

「さあ......今の状況は理解しているでしょうからあまり人目のある場所には...」

「尚更心配だな」

「そうですね...」


私としては娘の反骨精神を無理に押さえつけるのはいいことではないのだと思います。

ゆっくり違う環境で一人きりで考えることは思春期の子どもにとっては非常に大切なことですから。

ですが今のリンさんの場合は...。

そうもいかないですよね...。

大変ですね...。

初めて出会ったあの時の、表情、行動...今なら少しだけでも理解してあげられそうです...。


「さっきのやつらに追わせてはいるが...」

「...なにか懸念事でも...?」

「昼に言った黒江...覚えているか?」

「あ...確かリンさんの婚約者の...」

「そう、さっきの車に乗ってるやつらはあいつの息がかかっているかもしれん...」

「そんなに...」

「もうほんとに、気色悪いくらい用心深くて執拗でまとわりついてくるんだ、お嬢様に」


なるほど...。

黒江さん...確か私と年は近かったはずです...。

その気持ち...大いに分かりますよ。

自分だけのものにしてしまいたいですよね。

束縛したいですよね。

自分だけを見て、愛して欲しいですよね。


「それは...愛なのですか...」

「......意外だな」

「え...」

「いや、なんでもない」

「そうですか...」


志乃さんは流石、メイドさん?というだけあって話しやすいですね。

それに足の遅い私に自然と合わせてくれます。

早歩きではありますが、走るとなると体力が......ですね...(苦笑)。


.........


「ちょっと木村さん!」

「へえ...へえ...」

「なにバテてんの!」

「す、すみません...はあ...はあ...」


どこへ向かうか見当もついていないのに右往左往と走り回るのは非常に非効率的です...。

私が嫌う"非効率"ですが...どうしてでしょうか、リンさんのことならばとやる気が出てきます。


ピリッ


「おお結衣か!」

「::::..,,.:***;;:..**..」

「ほんとか!?場所は!」

「**``;....**」

「分かった!ありがとう!

気をつけろよ!」


またあのトランシーバー的ななにかの機器です。

向こう方...結衣さん?が話す言葉は聞き取れませんでしたが...。

どうやら緊迫した状況になってしまったことに変わりはないようです。


「木村さん!やばいかも」

「黒江さん...ですか」

「よく分かったな」

「その結衣さんとやらは信用に足るのですか...?」

「ああ、結衣は大丈夫だ

あの子が幼いころから自分が面倒を見ている」

「志乃さんって何歳...」


ギロッ


「あ...ごめんなさい...」


志乃さんってかなり若く見えていたのですけれども...

もしかして意外と私と近いのかもしれません...。


「とにかく行くぞ!」

「はい...」

「おいそこのタクシー!」


ウィーン


「お客様どちらまで...」


メガネひょろ腰曲がりじいさんが運転手さんです。

...なんだか非常に頼りないです。

私が言えたことではないのですが...。


「いいから○○駅近くまで行ってくれ!

最短最速で!」

「ですがそれでしたら高速に入るため...」


薄田細...さんと書かれたプレートの通り、

今にもかすれて消えてしまいそうな声です。


ドシッ


「金はいくらでもある!

今すぐ頼む!」


志乃さん...目がバッキバキですよ...(笑)。

それになんですかこのお札のお山さんは...。

しかも今胸の間から出しました...?

一番表面の二枚貰っていいですかね。


キラーーン


「任せなさいッ」


薄田ドライバーがシャツの袖をまくってメガネを光らせます。

プレートに張られたふせんの女性の字で「やる時はやる男!!」というのがしっくり来るようです。


「お客さん!しっかり掴まるでやんすッ」


やんす...?(笑)


「おう!頼んだぞ!でやんす!」


乗らなくていいんですよ志乃さん...。

それと...こちらを見ないでください...。


「や、やんす...」

「うっしゃ~!頼んだ!」

「もちろんですよお~!」


キキイイィィィ!!

ブウウウンン


間違いなくなんらかの法に引っ掛かる運転ですね。

志乃さんはノリノリな風ですが...時折見せる思いつめたような表情に、

本当にリンさんを大切に想っていることが分からせられます。

頼みますよ...薄田...。

今こそが"やる時"です。

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