〈7〉私の知らない世界です...(怖いのでそれしまってくださいぃぃ...)
「おじさん起きて~~!」
バフッ
「あ~…あ…あ…」
「何寝ぼけてんのwww」
「あ…ああ…」
馬乗り…。
されていますね…。
「朝ごはんまた作ってみた~!
どお!ねえどお!!?」
「美味しいですよ」
「も~おじさんそれしか言わないじゃん~」
「本音ですよ…ははは…」
「じゃあそ~ゆ~ことにしとく~」
実はあれから一週間が経ってしまいました。
(もちろん一週間寝たきりだったわけではありませんよ)
リンさんは簡単な料理を覚えたようで、毎日のように朝昼晩とご飯を振舞ってくれます。
買い物もオンラインで済ませてくれていますし、無駄遣いも少ないように感じます。
「んっふっふふ~~♪」
誘拐事件の件については驚くほど静まりました。
グループの信頼がどうとかの理由できっと大本が動いたのでしょう。
拉致した当日にあれだけで出歩いていたのですから、すぐにばれてしまうと思ったのですがね。
「ね~ね~」
「はい…」
「動画のサブスクとかも入ってみていい?」
「いいんじゃないでしょうか…」
「でもどうやって払うのか分かんなくてさ~」
「ああ…では調べておきますよ…」
「やった~ないすぅ~!」
リンさんは最近、一日中食い入るようにスマホを見ています。
動画にゲームに買い物に…。
スマホが初めてと言っていましたし、私がとやかく言うものでもないでしょう。
「あっ、そういえば今日はオンラインストアの感謝デーだから、なくなってた洗剤と壊れた洗濯ばさみの…」
「分かりましたよ…」
凄い馴染んでいらっしゃいますね。
微笑みがついこぼれてしまいます。
ただの可愛い女子高生かと思ったらその肩書まで一流だったなんて、今でも驚いていますよ。
優越感…なのでしょうか…。
毎日このように一緒に暮らせていて、好かれて…少なくとも嫌われてはいなくて、頼ってくれているということが…。
「リンさん…」
「ん~?」
テーブルを拭きながら応えます。
目線はくれません。
「学校…とかどうですか…?」
ピタッ
「……」
「ああいや、別に無理にとは言わないのですけれども…」
「……」
何か思いつめたような横顔をされています。
やはり何か嫌な思い出があるのでしょうか。
「私なりに調べてみたのですがなんだかオンラインで受けられるものもあるようですし…」
「うーん……」
だめでしたか…。
まあ、強制することではありませんもんね。
「えっ!そんなんあんの!!?」
おお。食いついてきました。
「はい…学校には行かずに自宅からズームで受けられるものや…
VRでの仮想教室?で授業を行うようなものもあるみたいで…」
「えーー!!?なにそれ凄っ!!」
「ははっ…本当そうですよね…」
「えっでもそれ高いんじゃ…」
高いです。
普通が分かりませんが。
「あはは…お金のことは気にせず…
リンさんが挑戦してみたいなら…」
お金のことを気にしてくれて嬉しいです。
金銭感覚ぶっ飛んでいてもおかしくない家庭環境ですからね…(ははは…)。
「ちょい考えさせて!」
「もちろんですよ…」
ガチャッ
部屋に戻ってしまいました。
最近はリンさんの部屋みたいになってしまいましたね。
しばらく入れていませんが…
楽しみは取っておいた方がいいことでしょう。
(何がとは言いませんが...)
琴峰グループのこともあれから調べていました。
どうやらリンさんは一人娘らしいです。
……汗ですよね。
なかなか子に恵まれない中でのようやくだったみたいで…。
さぞ大切に育てられていたのでしょう。
それなのに…。
最近ことが大きく報じられない理由は複数のコメンテーターが考察されていました。
どれも"損失"がどうですとか"信用"になんとかですとか…。
正直見ていて気分が悪いです。
リンさんの安全が一番でしょうに…。
………。
どの口が言っとるのでしょうか。
ピーンポーン
おや。
リンさんの頼んだ荷物でしょうか。
...どうしてでしょう。
違う気がします。
......。
リンさんは反応しません。
真剣に悩んでいるのでしょうか。
「はいただいま…」
ガチャ
「どうもこんにち…」
バサッ
「おわっ…」
これは…なんでしょう。
暗いです…。
何かの衣類でしょうか。
いい匂いがします。
カチャ
カチャ…?
「凛華お嬢様…琴峰凛華は居るか
居るよな」
「ええっと…」
「嘘ついたら撃つからな」
ひいいいいぃぃぃ。
物騒極まりないですよ。
しかも貴方女性の声ですよね…。
うううぅぅぅ…。
「あれ~おじさん長くな~い?
って志乃!?」
「凛華お嬢様!!ご無事で…!!」
「って…それ何よ…」
「ああ、これですか
安心してください凛華お嬢様!
誘拐犯は自分がこの手で!」
「??違うよ?
なんなら私が誘拐犯っ!(どうや!)」
それ、違いますね…(苦笑)。
でも…弁護ありがとうございますね…。
危うく脳天をパーンとやられるところでしたから…。
「??え??え??」
この方が以前寝ぼけたリンさんが言っていた志乃さんですか…。
そりゃあそうなりますよね…(苦笑)。
「いいから志乃それしまって」
「え…ですが…」
「いいからしまって(圧)」
「か、かしこまりました…」
「うんよろしい!じゃあ中入って!」
「はい……はっ!これは罠では!!?」
「んも~違うから入ってってw」
「で…では…」
「おじさんもいつまでそうしてんのww」
「あ…」
「ちょたんま写真撮るからww」
パシャリ
「ぎゃはははwwwウケる~ww
へっぴり腰頼りなっww」
「あはは……」
「ああ、凛華お嬢様が誘拐っていうのはそういう…」
理解が早くて助かります…。
私の方が完全に尻に敷かれていますよね…(苦笑)。
「志乃!これはおじさん!」
「はは…ははは…(ペコリ)」
これって言われてしまいましたね…。
「おじさん!こっちは志乃!」
「よろしくお願いします……?」
「ああ…こちらこそ…」
「よし!じゃあ自己紹介終わり!」
なんだかハイテンションなリンさんですね。
志乃さんとは親しそうです。
理解者、なってくれそうですがね。
「あの…おじさん...さん…?」
「木村です…(苦笑)」
「ああ、失礼、木村さん」
「はい…」
「二人で話せないでしょうか」
「ああもちろんです…」
もちろんいいのですが先ほどの物騒な武器は持ってこないでくださいね…。
「え~私は仲間外れ~?」
「危険かもしれないので...すみませんがお待ちください」
「ちぇ〜」
え...?
危険なのですか?
これからどこに連れて行かれるのでしょう...。
「それでは木村さん」
「はい...ではリンさん…悪いのですけれどお留守番、お願いできますかね…」
「任せなさい~!」
なんでしょう、初めてです。
こんなにも頼りない「任せて」は…。
頼りないというよりかは何をしでかすか分からない怖さ、です…。
キイィ
バタン
満面の笑みで手を振るリンさんを残して我々は家を出ました。
「どこへ行きましょうか…」
「自分の車をすぐ近くに停めてあります」
「そうですか…」
うげ。
扉が閉まったとたんに志乃さんの声色が変わってしまいました。
リンさんの前での様子からこの人ならあるいは…と思ったのですが。
警戒心マックスなようです。
ストスト…
前を歩かされます。
背中に何かが当たっているような…当たっていないような…。
あっ、エッチなってことではなくてですね。
死かそれ以外か、という意味ですね(苦笑)。
ピカーン
うわあ。
ピッカピカな真っ黒の車が見えてきました。
まさかあれでしょうか。
「どうぞ」
「あの…何もしないでくださいね…」
「……」
何か言ってくださいぃぃ…。
「それは保証できない」
「ですよね…」
ですが…志乃さんは…。
美しいですね。非常に。
出会い頭の強烈な印象からなかなか目を合わせられずにいましたが…。
チラ見でもそのパーツの整い具合が分かりますね。
リンさんが美少女ならば、志乃さんは美人さんです。
バンッ
このまま海に沈められてもおかしくない状況になってしまいました。
ですが海までは1時間はかかるでしょうから大丈夫でしょう。
……そこではないですね。
なんとか弁明しましょう。
「それで、凛華お嬢様とのご関係は」
「あー…えっと…誘拐犯と人質…ですかね…あはは…」
違いますね。
ですがリンさんの立場的にわがままは言えないでしょうから。
リンさんからこの関係、生活を望んだと知られたら色々と大変な思いをしそうです。
彼女が。
それに対して私が弁明する必要性は皆無でしたね。
最近はリンさんだけが日々の楽しみでしたから。
「そんな訳ないだろ」
「いやいや…本当のことですよ…」
「あんなに懐いていたのにか?」
あれは懐いていたのでしょうか。
いいように飼われていただけでしょう。
ちゃんと”エサ”はもらっていましたが…(グフフ)。
「あれは私がさせていたのです…」
「…ふむ……そうですか…」
「はいそうですよ…(にぎにぎ)」
「ではお前の目的は?」
「目的…ですか…」
「はい」
何にしましょうか…。
まあ、これが一番現実感ありますかね。
「もちろんペット…」
カチャ
ひいいいぃぃぃ。
「や、やめてください…今更私を殺しても過去はなくならないのです…」
「…チッ」
「は、はあ…」
まだ手にそれは持ったままですね。
今のは肝が冷えましたね。
生きる意味も楽しみもないとか言いつつも死ぬというのは怖いのですね。
恐らく人生で一番死に近づいた瞬間でした。
「ちゃんとご飯は出しているんだろうな
それにお風呂も、お嬢様は入浴がお好きなんだ
あと服は…お手洗いは…衛生管理も…」
「……ふっ…」
「あ゛?何がおかしい」
「いや…本当にリンさんのことが心配なのですね…」
「は、は?別にそんなんじゃねえし」
素が見えてきましたね…(笑)。
それはそれでメイド?としてどうなのでしょうか(苦笑)。
それに普通の監禁犯でもトイレとご飯は出すと思いますよ。
お風呂などの衛生面は……抱くのであれば臭いのは嫌ですものね…。
「一応不自由のないようにしているつもりですが…」
「ふっ…そうか」
「はい……」
「お前のことはやっぱり信用できない」
「ですよね…」
「さっきのお嬢様の反応からもしかしたらと思ったのだが…
勘違いだったようだな」
「ですかね…」
「ふん お前はここで待ってろ」
「…志乃さんはどちらに……」
「あ゛?お前にそう呼ばれる筋合いはない」
「すみません…」
「チッ、なんでこんなやつに凛華お嬢様は…」
確かにそうですね…。
こんなへこへこおじさんに、自分の主人…?がへこへこされてたと知ったら嫌ですよね…(苦笑)。
なんだか興奮するシチュエーションな気がしますが…(笑)。
「凛華お嬢様と話してくる
お前はこれでお嬢様の本音を聞くんだな」
そう渡されたのはトランシーバー的なものでした。
絶対にトランシーバーではないとは思いますが…。
私の知っているものの中では一番近いです。
「間違っても変な気は起こすなよ」
「は、はい…」
カチャ
うっ。
後部座席から世に出してはいけない穴が私に向けられます。
他にも同乗者が居たのですね…。
あっ…もちろん穴というのは穴のことではないですよ。
黒服の方々が誘拐犯にお尻突き出しているのなら面白いのですけれどね…。