〈12〉夫婦そろってカスですね...(ですが...少なからず興奮してしまう私も...)
「とりあえずこれ、羽織ってください…」
「こんなのあったのね ありがとう…」
テーブルクロスでしょうか。
先ほどホコリは払っておきました。
「そのうち志乃が気づいてくれるとして…」
「他になにか問題でも…?」
「う…ん…」
先ほどまで私のパンツの中入っていたものをリンさんが握りしめております。
間接キス的な嬉しさですね。
「ま、まあ…とりあえず志乃さんがこの会話を聞いているかもしれないですし、
場所はお伝えてしておきましょうか…」
「おじさんここがどこか分かるの?」
「ええ、詳しくはスマホがないので分からないですが…
**島のどこか、に違いはないですよ
周りの建物も覚えていますから、志乃さんが聞いていてさえくだされば…」
「分かったナイスだよおじさん!」
「えへへ…」
ブツブツブツ…
リンさんがUSB型のそれにキスをせんばかりの近さでキーワードを呟いております。
何度も何度も…。
確かにそれくらいしか出来ることはありませんしね。
………
どれくらいの時間が経ってしまったでしょうか。
少なくともお腹が減りすぎて逆に鳴らなくなってしまうくらいは過ぎてしまいました。
相変わらずお月様は依然として堂々としています。
朝はまだまだのようです。
ガチャン
ギイイイィィ
「志乃!?」
「ハイ...ハ、ハハイハイ...」
ま、マックスさん…です。
ハイ...?とはなんのことでしょうか。
「あっれ~君たちきみしてんのぉ~?」
うげげ。
黒江の野郎です。
リンさんの、私の腕をつかむ力が強くなります。
「……」
「……」
リンさんは怯えてしまっていつもの威勢のよさが発揮できないようです。
私も…刺激はしない方がいいでしょうから黙っておきます。
「ふ~ん、そこ、出来てんの?」
「あ、あんたには関係ないでしょ!」
「いやいや、お嬢様?
僕と貴女は婚約関係なはずですよ?」
「あ、あれのなにが…!」
黒江さんは二重人格なのでしょうか。
状況やバック(マックスさん)もありまして一層恐怖が増してきます。
「まあまあ、今日は木村君も来ているようだからね
見せてあげようじゃないか」
「なにを…!」
「僕たちの…愛をだよ
ククククッ…楽しみだねぇ」
「下衆が!」
黒江さんが不気味な笑みを残してから去って行きます。
……。
えっと…。
まずそうです。
ですがマックスさんの前では…。
「あっ、それとマックス」
黒江さんが立ち止まり、振り返ってから不機嫌極まりない表情でマックスさんを睨みつけます。
「なんでこいつらを同じ部屋に入れてんの?」
「……」
スッ
ワンテンポ置いてから、ものすごい勢いで腰を90度以上折り曲げます。
「ふっ、お前もう用済みな」
パチンッ
「シス…シスシスシステテテ…
システムエララララ……イジョウケンチ…チチチチ
……ハハハハハイイハイ....イハイハイハイイイ....
:::***;;..***:………………」
ボフンッ
「ふっ、哀れだな」
パンパン
スススス
「ハイ」
黒江さんが手を高い位置で二回パンパンと叩くと新たなマックスさんがやって来ました…。
「こいつの処理とお客人の輸送、頼んだよ」
「ハイ」
おぉ…………。
声が…出ませんね…。
「おじさん……」
「リンさん…」
リンさんがひどく震えていらっしゃいます。
ですが……今の私に出来ることは…。
「逃げましょう」
「えっ…でも…」
「これ以上言いなりになってはいられないですよ
リンさんの保護者として私にはその責任がありますからね」
「保護者…」
パシッ
私はリンさんのほっそいほっそい真っ白な、ほくろや傷のひとつない腕を掴みます。
これが巷に聞く恋の逃避行というやつですか…!
「行きますよ、リンさん…!」
「うんっ!…おじさ…」
ベシッ
「うへっ」
「おじさん!」
で、ですよね~…。
「ハイ」
「ハイハイ...ハハイ」
「ハイ」
三人目のマックスさんに担がれて、リンさんとは違う方向に連れていかれます。
「ハイ」で会話をしているというのが非常に不気味ですね。
「おじさ~ん!!」
「リンさん…!
待っててください…必ず…ムゴゴゴゴ」
口を押えるなんてことも出来るのですか…。
流石、最新のマックスさんですね。
…でも……本当に人間みたく戦えるのでしょうか。
物は試し…
ベチッ
知ってました。
というか玄関でも言葉通り門前払いされましたよね(苦笑)。
あの、不良品ックスさんに。
(エッチな言葉ではないですよ…(焦))
「ハイイ......ハイ...」
待ってろってことでしょうね。
「分かりました…」
バタン
……...
ギイィ
パチッ
おっと。
こんな状況でも眠ってしまっていたのですか。
流石10年近く社畜ってただけありますね。
「こちらです…」
おお。
彼は「ハイ」以外で話せるのですね。
流暢ックスさん(勝手に識別してみました)は重そうな分厚い扉を軽々と押さえながら無機質にそう言います。
「ど、どうも…
ウゲッ…」
ドテッ
当たり前のように手足によくわからない素材の紐状が巻き付けられてみます。
先ほどのようにガラス片でスパッと、とはいかなさそうですね。
「す、すみませんマックスさん…
これ…」
「ハイ…」
話が通じるックスさんでよかったです。
……。
「マックスさん?」
「はい、私がマックスです」
「私を呼びに来たのですよね」
「はい」
「運んでいただけると…うまく歩けなくてですね…」
「はい、しばしお待ちを…」
ガチャンガチャン
「やあ、俺がマックスだ!」
「ハイ...ハハハハハイ...」
「オッケーブロー!」
本場のマックスさんが来ました(笑)。
それとどうして「は」と「い」で会話が成り立つのでしょうか...。
「行くぞブロー!」
「え、ええ…」
ひょいっ
「も、もうちょっとゆっくりで…」
「はっはっは!おらおらどうした!」
彼は本場ックスと名付けましょう。
セリフは思った以上に単調で、抑揚がないのですが。
「ここでいいのか?」
「ハイ」
「そんじゃバーイブロー!」
「あ、ありがとうございました…」
彼はきっと悪い方ではないのでしょう。
それにしてもマックスさん方に個性があるのなら…あるいは…。
「こちらです」
「ああ...」
流暢ックスさんが手を指す方向にはひと際豪華な扉が…。
ギイイィ
「あら、夕刻の」
「あっ……ど、どうも…」
「あまり警戒しないで頂戴
ほらほら、こっち座って」
「は…い…」
「ふふふっ…」
この方は私がこの建物に乗り込んだ際に黒江さんが「マイハニー」と呼んでいた…。
(なんですかマイハニーって…気色の悪い…)
「貴方は…」
「んふふっ黒江真由美よ」
「黒江……」
頼みます。
お姉さんか妹さんであってください。
「そう、修司さんは私の夫よ
ふふふっ」
「…え…じゃあ…」
「ああ、凛華ちゃん、だっけ?
気の毒よねぇ」
気の毒だあ?
……このお方、態度といい、口調といい、ものすごく頭に来ます。
何気に美しいことにも腹が立ちます。
ですがこの場には流暢ックスさんをはじめ、多くのマックスさんが居ります。
この真由美さんがあの外道の正妻ならばセキュリティも…
…黒江の野郎は既婚...ではリンさんは……?
「あっ、ほら、始まるわよ」
「え……
ま、まさか…!!!」
「んふふっ」
私の居る部屋は大きな窓が一面を占めています。
他の側面三面にはズラッとマックスさんです。
窓の外は海かなにかかと思っていましたが………。
バチッ
「ま、眩しっ……」
「はは…ひひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
真由美さん…"豹変"という言葉がお似合いです。
それにしてもなんの光でしょ……
「リンさん……?」
「ん~~!!んん~~~~!!!!」
「リンさーーん!!!!」
はあ…はあ…
どうしよどうしよ…。
リンさんが…リンさんが…。
「あっは~ひゃひゃひゃひゃwwwww
ありゃいつ見ても最高だわ!!
それに今回はかなりのかわい子ちゃんだしっ…!!ククククッwww」
「真由美さん…これってどういう…」
「ん?まあ見てれば分かるんじゃないかしら?」
「見てたらって…
これは犯罪ですよ!
しかもリン…凛華さんは…」
「なにを言っているの?
これは愛し合う二人の同意の上での営みでしょ?
だって彼らは…婚約者なんだからさっ♪
うひゃひゃひゃひゃひゃwwwwwww」
夫婦そろって人外なのですか…!
ですが確かに……。
「ほら、あれ見てみてごらんよ」
「天井…?」
あれは…カメラ…!!
「そうよ、結婚式で流す思い出ムービーなんかも撮っておかないとでしょ?」
「こんの……!!」
「まあまあ、安心しなさい
カメラは一個だけじゃないんだから
なんならデータをあなたにも……」
「誰が!!」
ですが……。
確かに…完全犯罪です…。
私にはこの状況をどうにか出来る術は…。
本当にただ傍観するしか……。
ごめんなさい…ごめんなさい…。
リンさん………。