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好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。

【電子書籍化】(おまけ) 好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。

『 好きな人が幸せならそれでいいと、そう思っていました。』がシーモアさんで、電子書籍化することになりました!!!!(URLなどは詳細は活動報告をご覧ください。)

電子書籍化を記念したおまけのお話です。

※電子書籍化のため校正した本編に合わせてありますので、公開されているものとずれている場合があります。

 そこは眺めのいい綺麗な丘だった。爽やかな風が花々を静かに揺らす。空を見上げれば雲一つない晴天で、気持ちの良い日だった。

テオドールから贈られた青い帽子に、薄緑色のドレスを身につけたオリビアは、ゆっくりと周りを見渡す。色とりどりの花が咲いており、少し遠くに目を向ければ、活気のいい街の様子も見えた。静かに吹く風に、オリビアは帽子が飛ばないように右手でそっと押さえる。


「オリビア、明日、デートに行かない?」

 それはいつものとおりテオドールの執務室で一緒に過ごしていた時だった。サインを済ませた書類を置きながら、テオドールがオリビアに言った。

「デート、ですか?」

「うん」

 婚約者として2人で一緒にカフェに行ったり、馬に乗って遠出したり、公務以外で出かけることも多かった。けれどいつもとは違うどこかよそよそしい笑みに、オリビアは反応が一瞬遅れた。

「はい、行きたいです」

 けれど、テオドールが自分の望まないことをするはずがない。そんな信頼があるから、オリビアはすぐに頷いた。オリビアの言葉にテオドールは安心したような笑みを浮かべる。

「よし。じゃあさ、…いつもよりちょっとおしゃれをして待ち合わせしようよ」

「…待ち合わせですか?」

2人でデートに行くとき、テオドールはいつもカールソン家まで迎えに来てくれた。だからオリビアは小さく首を傾げる。

「うん。たまにはいいかなって」

「…わかりましたわ」

「ありがとう。じゃあ、明日、来て欲しいところがあるんだけど」

 そういってテオドールが指定した待ち合わせ場所がここだった。


 目印となる大きな木の下で、テオドールは待っていた。テオドールの姿を確認すると、オリビアの一歩後ろを歩いていた護衛のグレブは頭を下げ、オリビアから離れた。周囲を警戒しながら離れた場所で待機する。

 テオドールは胸元に赤い差し色を入れた黒いタキシードを身につけていた。よく似合うその装いは、いつもよりかしこまっているように見える。

「お待たせしました」

「大丈夫、待ってないよ」

 テオドールが微笑む。つられるようにオリビアの口角も上がった。

「俺が贈ったドレスを着てきてくれたんだね。それに帽子も」

 オリビアを見た途端、テオドールが嬉しそうにそう言った。だからよく見えるようにオリビアは少しだけスカートを持ち上げる。

「一番のお気に入りですから」

「ありがとう。嬉しいよ」

 どこか噛みしめるようにテオドールが言葉を漏らす。

「あの、テオドール様、それで、今日は何があるのですか?」

 おしゃれをしてきて欲しいという要望に、いつもはしない待ち合わせ。オリビアが疑問に思うのも無理はなかった。

「えっと…、その、うん。…今日は、来てくれてありがとう」

「…テオドール様?」

「あの…いや、ごめん、ちょっと待って」

 テオドールに似つかわしくない歯切れの悪い物言いにオリビアは不思議そうにテオドールを見た。どこか緊張しているようなテオドールの姿に、オリビアは静かに次の言葉を待つ。

「……今日ここに来てもらったのは、その、伝えたいことがあるからなんだ」

「伝えたいこと、ですか?」

「そう。・・・オリビア」

 テオドールが名前を呼ぶ。

その声色は優しくて、愛しさがにじみ出ていた。テオドールは胸ポケットから小さな白い箱をそっと取り出した。少しだけ息を吐くと、言葉を続ける。

「オリビアと初めて会った時、君は7人もいるうちの婚約者候補だった。…どこかやる気の感じない君に苦言を伝えたこともあったね」

「…はい」

 訓練場でのことを指しているのがすぐにわかった。1年と少し前のことだ。けれど、ずいぶん昔のことのように思えてしまう。

「少しずつ変わっていってくれる姿が嬉しかった。俺のこともこの国のことも真剣に考えてくれている、それが全身から伝わってきた。…まあ、スラム街を見たいと言ったときには驚いたけど」

「…そうでしたね」

 微苦笑を浮かべるオリビアに、テオドールは小さく笑った。

「でも、いつもまっすぐ前を向いて、自分のことよりも周りの幸せを願えるそんな君に次第に惹かれていったんだ」

「・・・テオドール様」

「オリビア」

「はい」

「きっとこれからも苦労をさせると思う。だけど、それ以上に幸せにすると誓うよ」 

テオドールはそう言うと、一歩前に出た。ゆっくりとひざまずく。

「テオドール様?」

 突然のことに驚いたオリビアが声を上げる。けれどテオドールは安心させるように笑みを浮かべ、首を横に振った。

そして、オリビアの瞳をまっすぐに見つめながら、小さな箱を開けた。

「この世界の誰よりもオリビアを愛している。だから俺と……結婚してください」

 小さな箱には、緑に輝くエメラルドがついたイヤリングが並ぶ。

 以前、テオドールが教えてくれたプロポーズをしてくれているのだとわかった。恋愛結婚をする平民の中で行われるという結婚の申し込みだ。

 幸せが胸いっぱいに広がる。オリビアの瞳から1つ、2つと涙がこぼれた。返事をしないといけないとわかっているのに止まらなかった。だからオリビアは何度も頷くことで答える。

「結婚してくれる?」

「…はい。もちろんです」

 オリビアの言葉にテオドールは立ち上がり、幸せが溢れんばかりの笑みを浮かべた。オリビアに手を伸ばし、流れる涙を拭う。

「泣きすぎ」

「それくらい、幸せなんです」

 目を潤ませながらも笑みを浮かべるオリビアをテオドールは抱きしめた。

「幸せだね」

「はい。・・・幸せです」

 噛みしめるようにオリビアは同じ言葉を返した。

「ねえ、オリビア、イヤリングつけてみて」

「はい」

 イヤリングには、大きな緑の宝石がついている。それは大きさの割には、重さは感じなかった。腕がいい技師を探していると言っていたことを思い出す。いつでも身につけられるように加工が施されているのだろう。

 少しだけ下を向き、両耳に付けた。顔を持ち上げ、満面の笑みを浮かべる。

「どうでしょうか?」

「もちろん、似合ってるよ」

 鏡がないため、自分の姿は見られなかった。けれど、どの宝石よりも自分に似合っているのだろうなとオリビアは思う。そっと右手で右耳に触れた。テオドールの瞳と同じ色のイヤリングがそこにある。それだけで幸せを感じた。一生大切にしようと心に決める。

「ありがとうございます」

「うん」

「本当に嬉しいですわ」

「…よかった」

 テオドールはオリビアの言葉に嬉しそうに頷いた。

「オリビア、もう一つ渡すものがあるんだ」

「え?」

「ちょっと待ってて」

 そう言うとテオドールは、大木の後ろに回り込む。不思議そうに彼の背に視線を向けていたオリビアの視界に入ったのは、綺麗な青いビオラの花束だった。

「約束しただろ?」

 プロポーズの時にはビオラの花束を渡すとテオドールは宣言していた。

「青いビオラの花言葉はね、『誠実な愛』なんだって」

「誠実な愛…」

「そう。…俺の愛を受け取ってくれる?」

 綺麗咲き誇るビオラの花束に、オリビアはゆっくりと手を伸ばす。

「ありがとうございます。…私は何を渡せばいいのでしょうか。こんなに私ばかり、もらってしまって」

「何もいらないよ、っていうのが格好いいんだろうけど…オリビアから欲しいものがあるんだ」

「欲しいもの?」

「うん」

「私が渡せるものならなんでもお渡ししますわ」

「……」

「テオドール様?」

「…俺、オリビアがほしい」

「…」

「オリビアをちょうだい?」

 どこか茶化すような言葉とは裏腹に、オリビアの瞳に映るテオドールは真剣な表情を浮かべていた。だから、オリビアは静かに首を横に振る。

「もう、これ以上は渡せませんわ。…半年前から私はテオドール様のものでしょう?」

「…」

「私はテオドール様のもので、テオドール様は私のものですわ」

「…うん、そうだね」

「ええ」

 当然のことのように頷くオリビアにテオドールは恥ずかしそうに頬を掻く。

「そっか、もう俺のものか」

「はい」

「ねえ、オリビア」

「なんですか、テオドール様」

「幸せだね」

「幸せですね」

 二人の視線が絡み合う。どちらともなく笑みを浮かべた。

 オリビアはそっとテオドールの瞳を見つめた。その意図がわかったテオドールは嬉しそうに両手を広げ、オリビアを包み込むように抱きしめる。

 自分の腕の中で目を閉じるオリビアに、テオドールは幸せを噛みしめながら口づけを贈るのだった。

読んでいただきありがとうございました。

電子書籍化は本当に読んでいただいたり、評価をいただいた皆様のおかげです。

本当にありがとうございます!!!

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― 新着の感想 ―
「恋する気持ちは計画的に」を読ませて貰って、すごく面白くて、他はどんな作品書いてあるのかな?と気になって。 えっ?好きな人が幸せなら~書いた方だったの?と、つらつらと作品一覧見てたら え~!! いつ…
うれしい~っ。ありがとうございます。 読みたかった。ビオラのプロポーズ。 気持ちがあったかく、やさしくなれるお話、大好きです。
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