五
あまりにも毎日じっとしているので、村人たちもコソコソと彼女の噂話をしはじめた。
「あの研究者、まだあそこにいるぞ」
「雨の日も風の日もいるな」
「……研究者だろ? 研究しないのか?」
「意外と暇なんだな……」
大人たちが段々と彼女を気にし始めたものの、意地で口はきかなかった。
ただし、子どもたちの好奇心はどんどん膨れ上がっていた。
ついには、小さな女の子がちょこちょことロペに近寄ってきた。
「こんにちは| ねえねえ、遊ぼうよ」
ちょうど、大人たちは畑仕事やら家事やらで、目を離していた。
子どもの問いかけに、ロペは満面の笑みで大きく頷いた。
その翌日。
大人たちが気づいたときには、ロペは子どもたちと仲良くなっていた。
「ねえねえ| またキュウリごっこしようよ! 私、キュウリ役! お姉さんはキュウリに食べられる虫役!」
ロペは楽しそうににゅるにゅると虫の動きをする。
女の子はきゃっきゃとはしゃぎ、ロペにぎゅっと抱きつく。
その横で、男の子が唇を尖らせた。
「次は俺だぞ! 山のなかで追いかけっこ! けど姉ちゃん、俺よりもちっちゃいのに、すげえ足速いよな! 今度は負けないぞ!」
小柄なワンちゃんも、興奮したように尻尾をぶんぶん振る。
大人っぽい男の子が嬉々としてボロボロの本を差し出す。
「暇になったら、また動物のことを教えてほしいな。……いいかな?」
ロペは二人の男の子に、大きく頷いてみせる。
「……」
「……」
大人たちは唖然と見ていた。
せっかく景色として無視していたのに、あっという間に子どもたちと仲良くなっていたのだ。
これでは叱るに叱れない。
どうしようかとお互い目で会話していたら、女の子の一人がテコテコと父親に近づいてくる。
「ねえねえ、お姉さんをお昼ごはんに招待していいかな」
「うっ、……いや、でも……」
かわいい娘の頼みだ。聞いてあげたい。けれど……。
頷こうとしたが、その前に、村長が出てきてピシャリと言う。
「ならん」
子どもも親もびくりと肩が跳ねる。
たくましく若き村長はぎろりとロペを睨みつける。
「子どもを懐柔して、村にどんな厄災をもたらそうとしている? 卑怯な女だな」
中々な敵意をぶつけられたが、ロペはひるまない。
大きなバックから、とある物を取り出す。
村長に差し出すが、彼はものをはたき落とす。
「よそ者からのプレゼントなど、受け取らない」
村長は一喝する。
「帰れ」
ロペはなにか言いたげにスケッチブックをめくろうとするが、村長に睨みつけられ、手を止める。
動物相手の研究を続けるロペは、引き際をしっかり理解している。
少なくとも今日は、これ以上いてもよろしくない。
ロペはしっかりと頭を下げると、公園に戻っていった。
村長が皆を睨みつける。
村人たちは子どもの手を引くと、蜘蛛の子を散らすように、それぞれの仕事に戻っていった。
ただし。全員が全員、村長の命令に従わなかった。
大人っぽい子どもが一人、ロペが持っていた何かしらの器具を拾った。
「村長、見てください」
「それにさわるな。捨てておけ」
「ですけど、これ、面白いですよ。キラキラしています」
拾い上げると、ピカピカ光り、くるくる回る。
すると、どうしたことか。
さっきまで不思議そうに村人を眺めていた犬が、途端に警戒するように耳を寝かせて、狂ったように吠えだした。
驚いた村長が、犬をなだめる。
その間に、大人っぽい子どもは、まるでいま気づいたかのように、メモをひろ上げる。
「なになに? 動物避けの魔道具? へえ、人間が聞こえない音波で動物を追い払うんだって!」
子どもはちょっと計算したかのように、にこりと微笑む。
「村長! 置くだけ置いてみようよ! だめだったら、研究者さんが来たときに怒ればいいもんね!」
「ふん、こんな玩具が効果あると思えないがな」
村長は小馬鹿にするように鼻で笑った。




