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 あまりにも毎日じっとしているので、村人たちもコソコソと彼女の噂話をしはじめた。


「あの研究者、まだあそこにいるぞ」

「雨の日も風の日もいるな」

「……研究者だろ? 研究しないのか?」

「意外と暇なんだな……」


 大人たちが段々と彼女を気にし始めたものの、意地で口はきかなかった。


 ただし、子どもたちの好奇心はどんどん膨れ上がっていた。


 ついには、小さな女の子がちょこちょことロペに近寄ってきた。


「こんにちは| ねえねえ、遊ぼうよ」


 ちょうど、大人たちは畑仕事やら家事やらで、目を離していた。


 子どもの問いかけに、ロペは満面の笑みで大きく頷いた。


 その翌日。


 大人たちが気づいたときには、ロペは子どもたちと仲良くなっていた。


「ねえねえ| またキュウリごっこしようよ! 私、キュウリ役! お姉さんはキュウリに食べられる虫役!」


 ロペは楽しそうににゅるにゅると虫の動きをする。


 女の子はきゃっきゃとはしゃぎ、ロペにぎゅっと抱きつく。


 その横で、男の子が唇を尖らせた。


「次は俺だぞ! 山のなかで追いかけっこ! けど姉ちゃん、俺よりもちっちゃいのに、すげえ足速いよな! 今度は負けないぞ!」


 小柄なワンちゃんも、興奮したように尻尾をぶんぶん振る。


 大人っぽい男の子が嬉々としてボロボロの本を差し出す。


「暇になったら、また動物のことを教えてほしいな。……いいかな?」


 ロペは二人の男の子に、大きく頷いてみせる。


「……」

「……」


 大人たちは唖然と見ていた。


 せっかく景色として無視していたのに、あっという間に子どもたちと仲良くなっていたのだ。


 これでは叱るに叱れない。


 どうしようかとお互い目で会話していたら、女の子の一人がテコテコと父親に近づいてくる。


「ねえねえ、お姉さんをお昼ごはんに招待していいかな」

「うっ、……いや、でも……」


 かわいい娘の頼みだ。聞いてあげたい。けれど……。


 頷こうとしたが、その前に、村長が出てきてピシャリと言う。

 

「ならん」


 子どもも親もびくりと肩が跳ねる。


 たくましく若き村長はぎろりとロペを睨みつける。


「子どもを懐柔して、村にどんな厄災をもたらそうとしている? 卑怯な女だな」

 

 中々な敵意をぶつけられたが、ロペはひるまない。


 大きなバックから、とある物を取り出す。


 村長に差し出すが、彼はものをはたき落とす。


「よそ者からのプレゼントなど、受け取らない」


 村長は一喝する。


「帰れ」


 ロペはなにか言いたげにスケッチブックをめくろうとするが、村長に睨みつけられ、手を止める。


 動物相手の研究を続けるロペは、引き際をしっかり理解している。


 少なくとも今日は、これ以上いてもよろしくない。


 ロペはしっかりと頭を下げると、公園に戻っていった。


 村長が皆を睨みつける。


 村人たちは子どもの手を引くと、蜘蛛の子を散らすように、それぞれの仕事に戻っていった。


 ただし。全員が全員、村長の命令に従わなかった。


 大人っぽい子どもが一人、ロペが持っていた何かしらの器具を拾った。


「村長、見てください」

「それにさわるな。捨てておけ」

「ですけど、これ、面白いですよ。キラキラしています」


 拾い上げると、ピカピカ光り、くるくる回る。


 すると、どうしたことか。


 さっきまで不思議そうに村人を眺めていた犬が、途端に警戒するように耳を寝かせて、狂ったように吠えだした。


 驚いた村長が、犬をなだめる。


 その間に、大人っぽい子どもは、まるでいま気づいたかのように、メモをひろ上げる。


「なになに? 動物避けの魔道具? へえ、人間が聞こえない音波で動物を追い払うんだって!」


 子どもはちょっと計算したかのように、にこりと微笑む。


「村長! 置くだけ置いてみようよ! だめだったら、研究者さんが来たときに怒ればいいもんね!」

「ふん、こんな玩具が効果あると思えないがな」


 村長は小馬鹿にするように鼻で笑った。


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