二
ロペはあっさりカフジの挑発に乗っかった。
目覚めたハンターを追って、彼女がやってきたのは、国立公園の近くに位置する小さな村だった。
ロペは険しい表情で、カフジの袖を引く。
そのまま公園から出ようとする彼女を、カフジは慌てて制止する。
「待て待て。俺の首輪を忘れてないか? 公園から出ると爆発するぞ」
本当にロペは忘れていたらしく、ペコペコと頭を下げて、首輪を触る。
かちり、と音がして、首輪のロックが外れる。
「……」
ロペは首輪を木のそばに置いて、ぐいぐいカフジを引っ張る。
「お、おい。……ったく……」
仕方なく、一緒にいってあげる。
村に入ると、子供たちが足を止めてじっとこちらを睨んできた。
どの子も、布なのか服なのか判別できないボロを着ていた。
ちゃんとしたご飯を食べていないのか、痩せている子供が目立つ。
家の作りも粗末で、嵐でも来れば倒壊してしまいそうだ。
屈強な男が、警戒心をむき出しにして立ちふさがる。
「見たところ、公園の研究員さんだが、何しに来たんだ」
ロペはスケッチブックを開く。
しかし、ロペが記入する前に、カフジが口を開いた。
「密猟者を追って、ここに来た。匿っているのなら、とっとと突き出してもらいたい」
「……さあ、知らないな。知っていても、従うつもりはないな」
ロペは眉を上げる。
村人はちらりとロペを見て、ふんと鼻を鳴らす。
「貴重な動物様を守るためには、密猟者を無償で差し出せと? 俺等から土地を奪っておいて、何様のつもりだ」
気づけば、二人は村人たちに囲まれていた。
群衆の一人が吠える。
「俺等は精霊の森で動物を狩猟して生活していたんだ。それなのに、勝手に国立公園に指定して、入っただけで牢屋行きなんぞ、勝手すぎる!!」
そうだそうだ、と群衆が同意する。
女性が子供をぎゅっと抱きしめ、悲哀の叫びをあげる。
「私たち家族が大切に育てていた畑が、公園の草食動物に荒らされてしまいました。ですけど、研究所の人たちは、公園の近くに畑を創るのがおかしなことだと言って、取り合ってくれません。なにが貴重動物ですか。私達の畑を返してください!!」
子供はひどく大人びたように、母親をぎゅっと抱きしめる。
ロペは、
……何も、動けなかった。
ただただ、村人の悲痛な叫びを、悲痛な現状を、見聞きすることしかできなかった。
村を追い出され、とぼとぼと歩くロペ。
カフジは、彼女の手を強引に引っ張ると、彼女の怪我に響かないよう、流れるように地面に転ばせる。
目を大きく見開く彼女に、カフジはささやく。
「首輪がない今、俺は隙をみてトンズラできる。するとどうだ? 俺自身は人間を襲う気なんてないが、吸血鬼を解放されたと知られれば、村人はいつ襲われるか怯える羽目になる」
カフジは彼女を解放するも、ロペは横になったまま動かない。
「動物保護なんて大層な意気込みだが、生きるのに必死な同胞のことも考えてみな」
カフジは木のそばに置いていた首輪をはめる。
ロペは上体こそ起こすも、唇を噛みしめてじっとしている。
「……ずっと座っているつもりか? とっとと帰らないと、日が暮れるぞ」
思ったよりもショックを受けていて、カフジはやりすぎたかも、と少々後悔する。
手を差し伸ばすと、ロペは彼の手を掴んで立ち上がる。
けれど、服の汚れも落とさず、沈んでいる。
「……怪我。治療してもらえ」
その一言に、ロペは小さく頷いた。




