⑤
ロペはパチパチと目を瞬く。
スケッチブックを取りだそうとするも、精霊はやんわりと制する。
『心配ない。君の心は読めている。精霊は滅んだはずではないか、と言っているのだろう?』
ロペは慎重にこくりとうなずく。
『この世に人間があまりにも多く生まれてしまったからな。それだけなら別に構わないが、人間は持ち前の好奇心で我々を捕獲しようとしはじめたからな。人間ごときに捕まる我らではないが、余計な争いをするくらいならばと、姿を晦ませて絶滅を装ったのだ』
「……そんな精霊様が、人間に化けて何をしていたんだ?」
カフジは疑惑の視線を向けるも、精霊はまるで子供の駄々っ子を見つめる母親のように、優しく微笑む。
『我は昔、あの村のものと仲良くしていたからな。人間の中に入って、彼らとともに生きていた。だからな、精霊の森が国立公園とやらになって、村人たちの心が陰ってしまったときには、どうしようかと悩んでいた』
精霊は昔を思い出すように、遠い目をする。
『国立公園をつぶしてしまうか、もはや国そのものをつぶしてしまうか。しかし、動植物を守る目的を崩すのは良くないのではないか、潰すべきは村人かと熟考していたんだ』
「……」
『吸血鬼よ。そう警戒するな。いまはそんなつもりはない』
くすくすと笑う。
『ロペよ。君が現れてから、我は考えを改めた。君は村人のことを理解しようと努力し、村と公園の架け橋となった。君の働きへの感謝の気持ちとして、今回手助けしたのだ』
ロペは素直にぺこぺこと頭を下げる。
言葉が喋れずとも、お礼を言っていることがありありと理解できる。
『だが、今回だけだ。次からは、君たちが頑張って撃退するのだ』
もちろんとばかりに、ロペは頷いた。
「いや、自分の迂闊さを考えてから答えろ。次同じことが起きれば、どう考えても同じ目にあるだろ」
「……」
ロペは目をそらす。
「おい」
精霊はニコニコ笑う。
『なら、君が守ってあげれば良い。君等はとてもお似合いだ』
「……ったく」
舌打ちをするも、まんざらでもなさそうだ。
精霊は全て分かっていると言いたげに笑うと、ロペのもとへとゆく。
『これから君等の前に現れることはない。だが、最後に我からプレゼントだ』
ちゅっ、とロペの額に唇を落とす。
『精霊のご加護だ。悪しき者を遠ざけ、幸運を授けるまじないだ』
ふんわりと微笑むと、精霊は光に包まれていく。
『人間よ。君らの歩む道は険しい。だが、我は君等を応援している』
それだけを言い残して、精霊は消えていった。
「……なんだか、すごいヤツにあっちまったな」
ロペもこくりと頷く。
「……ともかく、一旦研究所に戻れ。それから、傷口の手当だな。それが終われば、お説教だ」
カフジは腰に手を当てる。
精霊の登場で有耶無耶になった感はあれど、首輪を外さず、いらぬ怪我をしてしまったロペに怒っていた。
しかし、ロペは後悔した様子はなく、スケッチブックを取り出す。
ロペはでかでかと、こう書いた。
『ありがとう、本当にありがとう』
純粋なお礼に、カフジはついつい赤面した。
「い、いや、お礼よりも、違うものをよこせ」
しっかりと後悔してほしいと言外に伝えていた。
だが、ちゃんと伝えていなかったので、ロペは勘違いをしてしまった。
カフジはお礼を求めている。
村にいけば、ムラサキ草が手に入り、彼が好きなお茶をつくれる。
けど、彼は今すぐに欲しているらしい。
ロペは一生懸命考え、ええいままよ! とある行動に出た。
ぐいっとカフジに近づく。
「な、なんだよ」
ロペはちょっと恥ずかしかったが、つま先立ちをして、
ちゅっ、と額に口づけした。
「…………へ…………?」
ロペは顔を真っ赤にして、スケッチブックに書く。
『おまじない、なんだよね?』
どうやら、ロペは間違った知識をインプットされたらしい。
「……よし分かった。それ、絶対に他のやつにやるなよ。いいか? やるなら、俺だけに、」
そこまで言ってしまって、カフジは口に手を当てる。
「い、いや、何言っているんだ俺!?」
ロペはそろそろとスケッチブックをめくる。
『カフジ以外には、やりたくないから、わかったよ』
「…………け、怪我! 怪我の手当! しにいこう!! いやー、なんか暑いな! 気温でも上がったかもしれないな!」
ロペも顔を赤くして頷いた。
まだまだお互いの気持ちに気づかない二人を、
精霊は、ニコリと笑って見つめていた。
『』
ここまで読んでいただいた皆様、誠にありがとうございました。
またお会いできましたら、幸いでございます。
それでは皆様、素晴らしきなろう生活をお送りくださいませ!




