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16/18

 カフジはいつもどおり爆弾つき首輪をつけて、公園内をぶらついていた。


 ロペと出会う前、適当な木の上に昇ってぼんやりと空を仰ぐか、大型草食動物から血を拝借するしかやることはなかった。


 けれど、ロペに公園内に住む動物を教えてもらってからは、自然と動物の生活を目で追うようになっていた。


 あの鳥は求愛ダンスで有名な種だが、沼を縄張りにしている個体はダンスが下手くそだと言っていたな、とか。


 あそこの穴蔵に住む狐は、中々優秀で、大型肉食動物も煙に巻いているな、とか。


 川辺に住んでいたビーバーに子供が出来ていたから、ロペに教えてやらないとな、とか。


 退屈な公園での散歩に、楽しみが増えてくれた。


 あいつに礼の一つでも言ってやってもいいかもしれない。


 なんて思いながら、木の上に登っていると、


「……うん?」


 風が運んできた、


 血の、匂い。


 吸血鬼が好む人間の匂い。


 そして。


 ……彼が味わったことのある香り。


「……まさか」


 カフジは匂いのする方向へと走っていく。


 人間よりも優れた身体能力なので、山も川も関係なく乗り越える。


 ほんの一分で、匂いのもとに辿りついた。


 開けた原っぱに、一人の女性が縄で縛られていた。


 右足が切られ、血が地面にぽたぽたと落ちる。


 彼女を囲んでいたのは、五人のならず者である。


 男たちは興奮気味に話している。


「本当にこんな血の量で吸血鬼が来るのか?」

「大丈夫だろ。吸血鬼は十キロ先の血の匂いも嗅ぎつけてくるって聞いたことがあるぞ」

「それってクマかオオカミじゃねえか?」

「最悪、これで来なかったら、もうちょい血を流せばすむだけだ」

「ついでに、左足も切っておくか? バランスがよくなるぞ」


 ナイフをもって、ロペに近づく。


 もう無我夢中だった。


 カフジは男に飛びかかった。


 一発で地面に寝かせ、次の男に移る。


 だがしかし。


「止まれ、吸血鬼」


 六人目の男が、ロペの首元にナイフをつきつけた。


「この女がどうなってもいいのか? あん?」

「……」


 カフジは忌々しげに舌打ちして、拳を下ろす。


「誰かと思ったら、可愛いクマのケツを追いかけていた密猟者か。俺に会いたかったらしいが、何のようだ」


 男は嫌らしい笑みをもらす。


「そうだなあ。素直に捕まってくれれば、教えてやらんでもない」


 密猟者のやることなんて、ただ一つ。


 どうせ、見世物小屋か何かに売り飛ばすのだろう。


「だが、俺は爆弾つきの首輪をはめているぞ? このまま公園の外に出たところで、お前らもまとめてボカンだぞ?」

「らしいな。しかし、研究者なら解除できる。そうだろう?」


 男はロペの頬を荒っぽく叩いた。


 気絶していたロペが、うっすら目を開いた。


「お目覚めか? なら、とっとと首輪を解除しろ」


 ロペはカフジを見ると、目を大きく見開いた。


 男がぐいっとロペを前に突き出す。


「……」


 カフジは無言でロペの方へと行く。


 この男たちについていけば、人権なんて放棄された生活が待っている。


 けれど、もうどうでもいいや、とカフジは思った。


 どうせ今も捕まっている身だ。


 待遇が落ちるだけで、状況は変わらない。


 ロペがこれ以上痛い思いをしないのならば、……連中の言う通りにしてやろう。


 目でさっさと首輪を解放しろと伝える。


 しかし、ロペは動かない。


 男は苛立ってロペを小突く。


「おい、何している! さっさと首輪をはずせ!」


 ぶんぶんと首を横に振る。


「ロペ、俺のことはいいから、首輪を外してくれ」


 せかしても、ロペはぷいっとそっぽを向く。


「おい、ロペっ!」


 男は舌打ちする。


「この喋らねえ女が! 殴られてえのか!」


 男の拳があがる。


「やめろっ! 彼女を傷つけるな!」

「てめえも黙ってろ!」


 別の男がムチを振るう。


 避けれる攻撃だったが、これ以上連中の気を害したくはなかった。


 ムチは足に命中し、思わず低いうめき声をあげる。


 ロペはバタバタと体をねじり、カフジのもとへと向かおうとする。


 もちろん、男たちがそれを許すわけもなく。


「言うことを聞け!」


 男はロペの腹に蹴りをいれる。


 ロペの体が痛みで跳ね、声にならない悲鳴をあげる。


「ロペっ!」


 はやく首輪なんて取ってしまえばいいのに、ロペはカフジを守りたくて、動こうとはしない。


 このままでは、ロペが危ない。


 カフジは願うような気持ちで、ロペを睨む。


「ロペ、俺はいいから、頼むっ」


 ロペは、


 にっこりと微笑む。 


 ……絶対に男たちの手に渡さない。


 その思いが、悲しいほどに強く感じる。


「けっ、強情な連中だ。なら。俺にいい考えがある」


 男はニヤリと笑う。


「こいつら二人で一緒に公園の外に出てもらおう。そうすれば、さすがのこの女も首輪を外すだろう」

「いいな、そうしよう」

「そうと決まれば、ちゃっちゃと連れて行け」


 ロペに迷いが生じる。


 けれど、その迷いは自身の死に直面して怯えているわけではない。


 カフジをどう助けようかと悩んでいたのだ。 


「おい、俺と心中するつもりか!?」

 

 叫んでも、ロペはカフジの首輪を外そうとしない。


 どうあがいても、どちらかが犠牲となってしまう。


 絶望的なときに、


 意外な侵入者が現れる。

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