七
その後、ロペは各所を駆けずり回って、懸命に話を通す。
またあのお嬢さんは変なことを言う、なんて呆れる人もいた。
うまくいくのかと、懸念を表明する人もいた。
それでも、彼女の必死な訴えに、試しにやってみようと許可を得た。
あとは、村人たちに話を通すだけ。
ロペは意気揚々と村へと向かう。
なぜか、カフジをつれて。
当然のように首輪は外してもらった。
「おい」
前に脅した内容を忘れたのかと暗に伝えるも、ロペはにっこりと笑って、スケッチブックを見せる。
『カフジは信頼できますから』
「……そーかよ」
もはや面倒臭くなって、これ以上ロペをいじめるのは止めておいた。
ロペの頑張りのおかげか、村の雰囲気は二人は村に入るが、カフジはある違和感に気づいた。
前に来たときは、排他的な空気がぶんぶん伝わってきたものの、今回は刺々しい雰囲気がまったくなかった。
一人の子供が、目をランランと輝かせて走ってきた。
「お姉ちゃん、こんにちは! 公園のこと、また教えてよ!」
ロペは子どもと目線を合わせて、うんうんと頷いた。
「やったあ! 約束だからね!」
大人たちが二人に気づき、呆れたように肩を竦める。
「なんだね、また来たのかい。暇だねえ」
皮肉っぽいが、大人たちは笑みを浮かべている。
ロペはスケッチブックにすらすらと書き、一人の女性に示す。
「ああ、お陰様でうちの子の熱は下がったよ。心配してくれてありがとうねえ」
よくよく見れば、その女性は前に「畑を荒らした動物が憎い」と叫んでいた人だった。
彼女の子供は、相変わらず年不相応な大人っぽい雰囲気で、ペラペラと分厚い本を読んでいた。
子供はよっこらせっと本を持っていくと、ロペにわたす。
「この本、とても面白かったです。ありがとうございました」
ちらっと本のタイトルを見ると、『精霊の森とブルーストーン神話』と書いてあった。
子供は心底楽しげに本の感想を述べる。
「僕らの村では、あの公園を精霊の森と読んでいますが、皆さんはブルーストーンと呼んでいますよね? どうしてそう呼ばれるようになったのか気になっていましたが、なるほど、精霊が石に宿り、石を青く光らせていた逸話から命名されたのですね」
カフジにはよくわからないことで感銘をうけていた。
ロペと子供は精霊の神秘についてあれこれと議論をかわしはじめた。
本来の目的を忘れていそうだったので、カフジはロペに注意する。
「おい、俺もう帰っていいのか?」
想像通り、ロペは本来の目的が吹き飛んでいた。
ハッとすると、ロペは子供との話を打ち切り、村長に話をする。
「なんだ、また来たか」
村長だけは、以前と同じように、嫌悪を隠そうともしていなかった。
とはいえ、ロペは堂々と、村長と話しをしたいと告げる。
村長は苦々しい顔を浮かべながらも、家に招待してくれた。
村長はちらりとカフジに視線を送る。
「今日は護衛の人も一緒なのか」
ロペはこくりと頷くと、紙の束を丁重に渡す。
村長はロペの思いのこもった文章を何度も読みかえす。
沈黙の中、ロペの心臓がばくばくとなっていた。
受け入れてくれるだろか?
村人たちのために一生懸命考えてみたが、彼らの負担になってしまうのではないか。
自分は、本当に彼らのことを理解して、この案を出せたのだろうか。
そんな不安に襲われるロペの、柔らかいほっぺを、
カフジはぷに、とつまんだ。
びっくりして体が跳ねる。
カフジはいたずらっぽく笑う。
「んなビビった顔していると、村長さんも緊張しちまうぞ」
ロペはやっと、肩の力が抜ける。
ちょうど村長も読み終わった。
しばらく、無言であった。
失敗してしまったのか、と思うロペ。
村長は、ずいぶん考え込んだ後、口を開いた。
「私は、君のことを誤解していた」
はじめて。
村長は、柔らかく微笑んだ。
「私は賛成だ」
ロペは、
思わず、ポロリと涙をこぼす。
カフジはぎょっとする。
「お、おう!? 泣くほどか?!」
村長は苦笑する。
「それほど、私は冷たくしていたんだな。すまなかった。君のことを、ずっと誤解していた。村の立ち退きをしようとしていると、本気で信じていた」
紙の束をロペに返す。
「だが、私が賛成したからといって、村の人達が納得するかはわからない。いまから皆を集めて、聞いてみよう」
ロペは涙をぬぐい、大きく頷いた。




