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人見知りのお嬢様  作者: 吉田 春
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 その日は雲の少ない、爽やかな晴れた空模様だった。常ならばレリエルは家族で朝食をとった後、すぐに自室に閉じ籠り、次の昼食の時間まで人前に姿を見せることはない。だが、珍しくもその日レリエルは朝食後、屋敷の庭へ出て空を見上げていた。

 手には読みかけの詩集があった。たまたま、晴れた空の日を題材にした詩を読んでいた時だったので、レリエルの気がふと外に向いたのだ。そして今日はその詩に書かれていたような青い空が窓から見えたので、外に出て体感してみようという気になったのだった。

「気持ちのよい日だわ」

 ぼそりと独り言を漏らし、レリエルは足元に咲くライラックとブルーベルの地上の青と、天上の空の青さを見比べて晴れやかな気持ちになった。時折ゆるく吹く乾いた風が、レリエルの腰まである焦茶の髪をなびかせた。

「た、大変! 大変よ! ちょ、ちょっとあなた‼︎」

 突然、窓を開け放っていた屋敷の中から、母親であるイサベル・ケレニイの悲鳴のような狼狽した声が響いた。続いて複数の足音と、父親であるマーク・ケレニイの声が響いて来た。

「イサベル⁉︎ どうした……ッ」

 それから屋敷内は水を打ったように静まり返った。さすがにレリエルも心配になり、屋敷の中へ戻って声がした部屋を覗き込む。父親を取り囲むように、母親と執事、それから侍女二人が深刻な顔を突き合わせていた。

「お父様? お母様? 何かあったのですか?」

 小さな声であったが、沈黙の中であったので皆、気づいて顔をこちらに向けた。ここにいる執事も侍女の二人も、レリエルが赤子の頃から雇われているので、家族同然の家人であった。なのでレリエルは臆することなく、部屋へと足を踏み入れた。

「ああ、レリエル。何と言えばいいか。こんなことなら、無理にでも社交会デビューを済ませておくんだった」

 父親の懺悔にも似た独白は、まったく要領を得ておらず、レリエルは母親の方へ視線をやる。すると、母親の方も父親と同じように困り果てた顔で、大きなため息をついた。

「これを読んでご覧なさい」

 レリエルが母から差し出された手紙と思われる用紙を受け取ろうとした時、ひょいとその手紙が頭の上から伸びて来た手に奪い取られてしまった。

「に、兄様」

 さっと奪い取った手紙に目を走らせると、アトラスは胸元にその手紙を仕舞い込んだ。

「あ、アトラス。どういうつもりで」

 目を白黒させた父親に、アトラスはしれっとした顔で答えた。

「これは私の見合いの話でしょう。レリエルには関係ありません。ああ、関係ないこともないか。私の家族となるかもしれない人に、失礼なことがあってはいけない。レリエル」

「は、はい」

 この五歳年上の兄は、昔から聡明で頭の回転も早かった。性別の違いがあったためにあからさまな比較はなかったけれど、レリエルが自分に自信を失くしてしまう要因の一端となっていた。そんな兄から改まって名前を呼ばれると、自然と緊張して体が縮こまってしまう。

「一ヶ月後の見合いに間に合うように、色々とお前にも準備を手伝って欲しい。頼めるな」

 なぜ、と疑問に思うところはあったが、この兄から頼られることなどかつて一度もありはしなかったので、驚きと共に頷いてしまった。

 実のところ、それがレリエル自身の見合い話で、その手紙に国王陛下のみが使用される国璽が入っていたことを聞かされたのは、当日の馬車が王宮に着く直前のことであった。

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