4.殺意
4.殺意
俺達は彼女の友を救う為に、彼等の20メートルほどの距離まで近付いて居た。
これで良いんだと思う、頭に鳴り響くエルヴィス・プレスリーの歌声も今はどうでも良かった。
只ひたすら彼女の力強い何かに惹かれていた。
そして俺は、彼女の友を犯しているドイツ兵へモシンナガンの照準を合わせた。
いつかの狙撃兵から学んだモノに倣って、1番後ろのドイツ兵を狙った。
「クリンコフ、1番後ろの兵を殺すと、前方の兵は反応が遅れる、覚えておくと良いと思うよ」
と、半年前まで俺が配属して居た市街地の狙撃兵は言った。
彼女はまだ生きてるだろうか?生きて居たら嬉しい。
彼女も俺の珈琲が好きだった。
そして俺はモシンナガンを撃った。
何、が起きた?
目の前が真っ暗だ、いや、瞼が降りているのか。
頭が痛い、頭痛ではない、外傷的な痛さだ。
足も高熱の何かを押し付けられてる様な痛みが有った。
彼女は?
俺の事なんかどうでも良い。
そして俺は見た。
倒れた彼女から広がり続ける血の溜まりを。
その彼女の周りに居るドイツ兵を。
この世に産まれ落ちてから、自分には何かが欠けて居た気がした。
必要が無い達観が、自身の感情を体外へ出ない様にダムの様に堰き止めていた。
だが、その達観はたった今消えた。
身に余るほどの憤怒、衝動感、本能的な感情。
そうか、これが殺意か。
私は督戦隊員だ。
名前は・・・好きじゃないから言ってあげない。
私の役目は兵達の退却を止める事。
敵陣に突撃する際に恐怖に負け、こっちへ逃げてくる者も少なく無い。
私達はその人達を、殺す。
敵に撃つ筈のマシンガンをこっちへ逃げてくる同志へ掃射するのだ。
元から頭がおかしいのか、それとも戦争によって頭がおかしくなったのか、それとも両方か。
私は恐らく真ん中の人間。
私はこれからおかしくなって行くんだと思う。
配属先は近代戦争では良くある大規模な塹壕。
人殺しになるのか、と思いながら塹壕に着いた矢先に大佐に任務を与えられた。
司令部からの直々任務らしい、なんと任務の内容は伝令、だそうで・・・。
まあ私は別にどうでも良かった、人を殺さなかったら良いなぁぐらいしか思わなかった。
大佐から任務の内容を聞いている時にノソノソと入ってきた一般兵が来た。
私の姿を見るや否や、すぐに顔を背けやがった。
腹立つな、この一般兵。
山での野宿で珈琲を勝手に淹れてきた。
人の淹れた珈琲はいらないのに・・・。
前言撤回、上等兵の珈琲はとても美味い、素晴らしい。
彼に簡単な料理を作ってやった。
最初の一口の時に急に黙ったので相当不味いのか?と勘繰ったけども。
美味い、と一言だけ呟いてきた、彼も無意識の内に言ったんだろう、その後は寝た。
休憩地点の基地に着いたが、壊滅状態だった。
そして上等兵と喧・・・対話をし、一緒に死ぬ事になった。
そして私達は背後に居たドイツ兵に気付かず、上等兵は足を撃たれ、小銃で何度も頭を殴打されていた。
そして私は抵抗はしたが、肩にナイフを突き刺され、今犯されそうになっている。
馬鹿だった、あの時1人で行けば良かった。
意味のない行為を、意味のない人生だったんだな、と思った。
そして、私は犯される前に手元にある手榴弾で6人のドイツ兵を巻き込み殺す。
もし彼が生きて居たら、手榴弾の破片が彼に突き刺さらないことを祈る。
そして最後に見る景色として相応わしい彼を見ようと、首を動かした。
そしてそこに彼は、クリンコフは居なかった。
「ァ"ァ"ァッ!」
クリンコフは、力み声を発しながらズボンを脱いだドイツ兵の首筋にナイフを突き刺して居た。
そして私の半自動小銃を連射しながら周辺の敵を殺して居た。
冷静な彼とは思えない程、本能的な殺人を行って居た。
撃たれている足は痛くないのだろうか?血が噴き出している、当たり前だ、早く辞めさせないと。
声を出そうと思ったが、声が出なかった、抵抗した時に喉仏を殴られたからか。
彼は見たこともない格闘術を使いながら敵を射殺し、そして腹にナイフが突き刺さった。
そのナイフはドイツ兵が握って居た。
クリンコフはそのドイツ兵の首を掴み、私のトカレフ拳銃で頭を撃ち抜いた。
彼は強いんだろう、だが傷だらけだ、本当に死んでしまう。
Kar98k、優秀なスナイパー・ライフルである小銃を構えようとしているドイツ兵が、私の前方10メートルに居た。
全てが、遅く見えていた。
クリンコフでは背後7メートルほどだろうか。
彼の背後に銃を構えたドイツ兵が居る事を伝えられたら回避できるだろうか?いや伝える手段が無い。
彼は、死ぬのか?私の、せいで?
絶対に嫌だ、死なせたく無い。
駄目だ。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。
走馬灯の様に私の頭では彼を死なせない手段が駆け巡っていた。
そして、その手段は私の足元に転がっていた。
クリンコフが殺したドイツ兵が持っていたKar98kが、私の足元で遭った。
私は素早くKar98kを手に持ち、腕の痛みを今は無視をした。
そして私はKar98kを構えた。
トリガーは酷く重かったが、彼を守る為に芽生えた何かの感情のお陰で、そんな重さは感じ無い。
トリガーを弾く瞬間に気付いた。
これが殺意か、と。
続きます。




