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3.薄っぺらい言葉

3.薄っぺらい言葉


「おはよう、珈琲淹れました」

俺の声・・・いや恐らく珈琲という単語を聞いた瞬間。

彼女は飛び起きた。

ボサボサな黒髪とは対照的に、至極真面目でクールな顔をしているから、つい笑ってしまったな。

その事で彼女からお叱りを受けつつ俺は朝飯の準備に取り掛かった。


朝食を終え、山を越えた先に有る小さな基地を目指し、歩いて居た、そこが休憩地点だ。

「一般へ・・・上等兵、お前名前は?」

「クリンコフ(短い)です」

「・・・君の親御さんは、どう言う意図でその名前を付けたんだ?」

「さあ?身長が低く育って欲しかったんですかね?180はあるのでクリンコフでは無いんですけどね。貴女の名前は?」

「・・・教えたく無いな、自分の名前にコンプレックスが有るんだ」

「俺の前でそれを言います?」

「・・・ふん」

兵としては意味は無いが、人間としては意味が有る会話をしながら俺達は歩いていた。

「・・・私達が目指してる基地に士官学校時代の仲間がいてな、ソイツも女なんだが・・・」

「え?女性だったんですが?とてもその様には・・・」

「射殺するぞ一般兵」

「すみません」

「はぁ・・・ソイツの珈琲はとても美味いんだ。上等兵ほどでは無いかもしれないが・・・」

「是非飲みたいですね!人の珈琲を飲むのは好きなので!」

「そうか、それは良かった」

彼女は俺の背後で歩いて居たから顔は見えなかったが、多分笑ってたと思う。

彼女は・・・絡まった小糸の様な俺の心情を簡単に解かす。

やはり、彼女は不思議だ。

魅力でもあるのだろう。

そして俺は笑わなかった。

笑える様な人間では無いから。

もうこの戦争が始まって、

俺が人殺しになって1年だ。

ここに配属されて半年。

俺は傷すらつくことがなかった。

彼等のの塹壕に突撃しても、近くで戦車が対戦車地雷で爆発しても。

真横に居た戦友が地雷で吹き飛んでも。

真横で俺の機関銃の補助していた彼女・・・戦友が静かに死んだ時も。

俺がその後、死ぬことは一度も無かったし、死を覚悟すらしたことなかった。

と言うより、俺は生きるために彼等を殺してるんだ。

明確な殺意を持ってない。

このソ連の愛国心とか・・・家族を守りたいとか・・・そんな素晴らしい物じゃないんだよ。

戦争が終わって家に帰った時に・・・もう仕事をしなくても良いほどの金が欲しくて軍人になっただけなんだ。

だけど、今の俺は希死念慮が強まってるだけだ。

死んだ仲間は全員、俺と違って明確な殺意を持って、遂行な目的を持って戦っていた。

俺は、何をしたいんだろう。


5時30分。

太陽が世界と俺達を照らし始めた頃。

「・・・ッ!?」

俺達が山から見下ろす基地は、ドイツ軍によって壊滅していた。

爆撃によって四方は紙のように簡単に凹んでおり、同志だったであろう肉塊が飛び散っていた。

戦車や装甲車も全てが大破されて居た。

一瞬の出来事だったんだろう、塹壕にいた俺達すら気づかなかった・・・。

急にドイツ語で基地から何かが聞こえた。

俺は瞬間的に伏せたが、彼女は動かなかった。

「督戦隊員!!伏せてください!死にますよ!」

「・・・・・・」

「は!?おい死ぬぞ!」

何も言わずに、歩こうとしてる彼女の腕を掴む為、俺も立った。

そして不意に基地から見えたのは、6人のドイツ兵に強姦されている1人の女性兵だった。

「あぁ・・・?」

女性兵では、良くあることだ。

俺はどうとも思わん、気の毒だとは思うが・・・俺はまだ死ぬ時じゃない、ただ1人の人間を救う為には動かない。

「督戦隊員・・・辛いと思いますが、戦場では良くある事です、行きましょう」

「な、なぁ上等兵!!お前は強いんだろ!?大佐から聞いた!この1年で傷一つすら付いてないと!」

「は?」

「今犯されてる兵は、私がさっき話した士官学校時代の仲間だ!頼む!おい!頼むよ!」

「・・・ダメです、2人とも死んだら意味がない、迂回し、伝令を」

「おいっ!私が上官だぞ!命令だ!これは敵前逃亡か!?彼女を助け──」

俺は彼女の肩を掴み、そのまま押し倒した。

俺の頭には、エルヴィス・プレスリーのハートブレイク・ホテルが流れていた。

「俺は強くない」

「・・・あぁ?」

「仲間を守れたことがない、俺の周りの人間は皆死んでいく、俺だけが生き残っていくんだ」

「で、でも」

「うるさい、良いから黙ってくれ」

まだハートブレイク・ホテルは鳴り止まらない、何故だろう?なんで今ベストアルバムが流れる?

「俺が今まで生きてきたのは運だ」

そう、運なんだ。

彼女が死んだ時、俺も死のうとした。

小銃の銃口を口に入れ、引き金を弾いた。

俺の脳を突き刺し、頭蓋骨を突き破りながら脳味噌を撒き散らかす為の銃弾は不発弾だった。

何度弾いても、銃弾は発射されなかった。

「俺の運が良い時は1番近くの人間の運が悪い」

そうだ、俺の奇跡は彼等の死によって成り立っている。

「彼等の声が鳴り止まないんだ。毎日、あの時俺が死んでいたら、と」

「・・・・・・」

「だから、お前を行かせない」

「でも!誰かを助けれるなら・・・」

「俺が1人で行きます。此処で貴女は待っててください」

そして俺は彼女から手を離し、落としたモシンナガンを拾った。

行こう。

運が悪くても死なないと良いんだが。

だが突然身体は宙を浮き、視点が下へ変わった。

え?なにこれ。

「おい!お前なんか説教臭くてうざい!!」

「・・・は?」

状況が理解できた。

恐らく彼女は俺の足首を引っ張ったんだろう、俺は俯せに倒れていた。

「あのっ!ちょっと足引っ張るのは違うと思うんですけど!」

「いーや!私は悪くない!お前私のこと倒しただろう!」

「それはそうですけど・・・」

彼女は俺の腹に乗ってきた。

「変な気遣いはいらんよ、私の死は私の責任だ。変に気負うな気色悪い。だが君は死んだらダメだ、美味い珈琲を淹れる人間が世界から1人減る」

初めてそんなことを言われた、いや、前から言われていた気はする。

相手にしなかっただけか。

「君の様な頭の良い人間が嫌いだろう薄っぺらい言葉を教えてあげるよ。私は人を助ける為にここに居るんだ、笑えるだろ?督戦隊員のくせに、最初は衛生兵になりたかったんだ」

「・・・なんですか、それ」

「んじゃ、そういう事で私は行くぞ。そんなに君が人の死の重さを背負いたくないのなら私と来るな、私はきっとすぐに死ぬ、じゃあな」

そして彼女は立ち、小銃を拾っていた。

ハートブレイク・ホテルは既に、頭の中で流れなくなっていた。

なんでだろう。

いや、ああ、そういう事か。

なぜエルヴィス・プレイスの曲が流れていたか、理由が分かった。

俺の死へのカウントダウンだ。

まずハートブレイク・ホテル、次にトゥー・マッチ、最後にワンダー・オブ・ユー。

俺は今、簡単に言えば死に直面していたんだ。

1人でドイツ兵を数人相手するんだ、死ぬに決まっていた。

2人なら?2人ならハートブレイク・ホテルは流れないんじゃないのか?

辞めておいた方がいい、1人で伝令の任務を・・・。

「俺も行きます」

「ん?どうした?」

彼女は5歩程、既に歩いていたが俺の小さな声は届いていた様だ。

俺も行きます、は何か少し違った様な気がしたから、俺は頭の中で発言を書き換えた。

「俺も、一緒に死にます、督戦隊員」

ハートブレイク・ホテルが、再び俺の頭の中で。

エルヴィス・プレスリーが、再び俺の頭の中で、歌い始めていた。


続きます。

 

実はこの作品は、私が同時に連載している「ブルーメの様な愛を君に」のスピンオフ、でした!。

数ヶ月前に、ワンダー・オブ・ユーの原型となる同名の小説をpixivで投稿してまして(旧作品と呼称する)

その旧作品では2030年という設定でして、現代銃などがワンサカ出ていました。

原型の作品を読んでみたい方は私のpixivを頑張って探してください!

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