1.当たらない音
1.当たらない音
1940年4月6日(曇りだった、憂鬱だ)
灰色の荒野に泥の滴る塹壕が。
南から北へ、地平線のように果てしなく続いていた。
緑が一面にあった野原は、榴弾砲や迫撃砲により、人工のクレーターの様な物が出来ており・・・雨によって一面が湿地帯の様に成っていた。
そんなクソみたいな塹壕の中で俺は座りながら、死んで暫く経っているのか。
異臭を放っていた兵士の骸のポケットを弄っていた。
死体の回収はまだされて居なくて良かった。
理由?そりゃ煙草か飯だろ、他に何がある。
「おい、そこの上等兵、大佐が呼んでる、ついて来い」
突然俺を呼んだのは装備や服、銃が妙に小綺麗な少尉だった、最近配属されたようだ。
きっと前は遠い後方等に属して居たんだろう、羨ましいもんだ。
遠いと言えば、前の配属先の市街地を思い出す。
俺は常々思っているんだが、市街地戦で基本死ぬ時は銃弾か爆弾か砲弾だ。
だが銃弾で死ねる時は、きっと誰かの役に立てる時だ。
きっとそうだと思うし、そうであって欲しい。
そして俺は立ち、少尉の後を付いて行った。
塹壕を少し歩くと様々な人間がいるんだよ。
5歩歩くと、
顔面が抉れた兵士を抱き抱えながら泣き叫ぶ兵士。
抱き抱えてるのは戦友か何かかな。
それとも兵士になる前は、ただの友達だったのかも。
もう5歩歩くと。
腕の切断の手術を受けるも麻酔もないので激痛を耐える為に、歯を食いしばりすぎて歯が割れる兵士。
彼等の情景を前から後ろへ流しながら、歩いて行った。
そして細長い塹壕の少し後ろに有る、地面をくり抜き、中を木柱で補強した簡素な部屋に少尉は止まった。
そこに大佐が居る。
少尉はヘルメットを脱帽し、ヘルメットを腕に抱え、勢い良く口を開いた。
「ドミトリ・レオニドヴィチ・エフレモフ少尉です。入ります!」
「良し、入れ。」
ドミトリ…えっと…まあ良いや…。
少尉と共に扉を開けて中に入った。
部屋の中には椅子に座っている大佐、大佐の前にはデスクがあった。
その大佐の横には立ったまま俺を睨んでいる小柄な女・・・NKVDの督戦隊員がいた。
督戦隊を知っているか?。
簡単に話すと督戦隊は自軍兵士の士気を維持する役割を持つ。
自軍兵士が命令無しに戦闘から退却、敵兵への降伏をしようとした場合は殺す。
攻撃をするんだ、自軍にだぞ?。
それで無理矢理自軍の士気を上げるんだ。
だからNKVDの督戦隊共は頭がイカれたやつが多い。
自国への忠誠が恐ろしいほど強い奴らがほとんどだ。
そんな女が俺と同じ部屋に居て、俺を睨んでいる、猫に睨まれてる鼠の気分だよ、俺は。
極力、彼女と目を合わせない様に、大佐に目を合わせようと視線を移動させると
既に大佐が俺の目を見ていたのか知らんが、すぐに目が合った。
そして俺の目を見ながら大佐の口がゆっくり開いた。
「クリンコフ上等兵、君は異常だよ」
大佐が俺を異常だと言った、どう言う意味だろうか。
疑問に思った俺はすぐに聞き返した。
「異常?何がでしょうか?」
俺の言葉を聞いた大佐は表情を一切変えずに、またゆっくりと口を開いた。
「ああ、言い方が悪かったね、君は素晴らしいんだ、最高の兵士だよ、ここに配属されてから半年、君は傷一つも付かない、なのに月に20人は殺す、異常だよ、最高の兵士だ」
生きる為にしていたことを突然褒められたので、何故か照れのような感情が心の底から浮き出てきた。
ほら、生きるだけで偉いって言葉あるだろ?本当にそんな事を言われるなんて思いもしなかったんだ。
そして大佐がまた口をゆっくり開いた。
「クリンコフ上等兵、そんな君に任務がある、この横にいる督戦隊員と二人で"伝令"をして欲しいんだ」
「伝令ですか?電話でもモールス信号でも何でも…」
「ダメだ、君と彼女が伝えなきゃいけない、これは本部からの直々の命令だ」
俺は心の中で悪態を吐きながらすぐに大佐に向かって話す
「だとしても俺は適任じゃないと思います、せめて小隊単位で動きたいのてすが…たった二人ですよ?」
「小隊でも多すぎる、私が提示するルートではここから塹壕を出て、敵の塹壕の前を一瞬通る。小隊規模で動いていたらすぐにバレ、MG42でお陀仏だよ」
俺は何か任務に付かない言い訳を頭の中を巡って探していた
そして横にいる俺をずっと睨んでいる女を思い出し勢い良く口を開いた、
「と、督戦隊員一人で行けばいいんじゃないですか?俺の経験上、あの前線は二人でも少し危険です。そして督戦隊員の貴女は女性で小柄なので俺が着いていくよりも確実かと思います」
大佐は顎髭を触りながら俺と督戦隊員を交互に見て
そして俺の目を見ながら答える
「良い提案だがそれは無理だ、この督戦隊員は実戦経験が、ない」
「は?実戦経験が?」
俺の困惑だけの発言に鼻がついたのか
腰に吊ってある拳銃に手を添えながら督戦隊員は口を開いた
「言葉には気をつけろよ一般兵、お前なんぞここですぐ撃ち殺せるのだからな、実戦なんかいらんさ、お前ら一般兵と違って訓練の質も量も違うんだ」
内容は途轍もなく畏怖べきものだが督戦隊員の声は…なんと言うか
とても美しかった。歌手でも目指せば良いのにな、とも思ってしまうほどの美声だった。
できるだけ見ない様にしていた督戦隊員の顔を覗いてみたが、目が大きく精悍な顔をしていた。
「で、受けてくれるかね?クリンコフ上等兵」
そのあと俺は5秒ほどに考えた後に任務を受けることを大佐に伝え、伝言の内容を聞こうと思った、がその時。
ヒュ〜〜〜と性格の悪い鳥が放つ鳴き声の様な音が上空からした。
迫撃砲の砲弾が落ちてくる音だ。
先程の威勢がなかったかの様に、督戦隊員は顔を真っ青にし。
部屋から飛び出ようとしていた督戦隊員の腕を俺は掴んだ。
「なっ!?一般兵!放せ!殺す気か!?」
「多分当たらない音ですよこれ、死んだらすんません」
俺の話が終わったと同時に、爆発音が轟き、大地が軽く揺れたのを足から感じた。
別のところに当たった様だ。
連続してない単発だから奴等の気紛れだろう。
俺は落ち着いた督戦隊員の腕を離し。
腕を掴んでいた間に考えていたことを話す。
「迫撃砲には"当たる音"と"当たらない音"が段々わかってくるんです。俺も最初こそ慣れなかったですが、すぐわかる様になりますよ。」
「クソ…そんなこと訓練で…」
動揺と敗北感を感じている彼女を見たら、背徳感と快感をぐちゃぐちゃに混ぜた様な感情を感じた。
自分の嫌いなところだ。
そして大佐に向かって俺は口を開いた。
「伝言の内容を教えていただけますか?」
「南西30キロ先に居る同志へ、"鳩に気をつけろ"と伝えてくれ」
その伝言の内容を聞いた俺は鳩みたいなアホヅラになっていただろう。
おそらく話を真剣に聞いていた督戦隊員もだ。
見ておけばよかった。
そして大佐はいまだに無表情で、鉛筆をデスクに静かに置いてから、またゆっくりと口を開いた。
「以上だよ、準備が出来次第、行ってくれ」
続きます。
何度も言いますが、史実に基づいたお話じゃありません!!!!
と言うかこの作品がオマージュみたいなもんなんであんまり展開自体に期待はしないでください!例のアレとほぼ同じです!会話とか雰囲気を楽しんでください!!




