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五話 泉の女神

 

 俺は地面に落ちた剣を見て、一目散に逃げた。


 ──────────────

 その武器は使用できません。

 使用可能武器:カテゴリー『斧』

 ──────────────


 俺の視界にちらりと映ったウィンドウを見る。


「ふざけやがって。斧で固定かよ」


 悪態をついて、次の手段を考える。

 敵対したコボルトは、ここまでの個体すべて含めて剣で統一されていた。

 長剣、短剣、違いはあれど、槍すらないのだ。斧などもってのほかと言わざる負えなかった。


 武器はない。

 それを前提にコボルトを倒す方法。

 今俺が持ち得る荷物から考えても、効果的なものは思いつかない。

 食料と水では戦えないだろうし。

 手に入れた魔石は、魔法が出る類ではないようだ。

 試してみたが、どうやら違う。


 後は、ピンチで覚醒するぐらいしかないけど。

 そんな都合よくいくとは思えない。

 レベルアップで魔法が発現すればいいだろうが、此処までコボルトがそう言ったものを使った形跡はなかった。

 そもそも、俺が使えるかどうか以前に魔法という力もないかもしれない。

 ここまで、ゲームやネット小説に準拠しておいて、今更考えたくはないが、ありえるだろう。


 で、あれば、残るはこの拳くらい。

 素手で殴り殺すしか思いつかない。

 切れ味の悪い斧で散々殴った後に、さすがの俺も出来ないとは言わない。

 正直、魔物を触りたくはないが、仕方ない。


 俺は、もう一度、地面を蹴って接近しようとして。


「ああ、いい案を思いついた」


 そう言葉を洩らした。

 剣が使えないのなら何も俺が使う必要はないじゃないか。


 俺は、コボルトに近づき、挟まれるように立った。

 二体の魔物は、俺を斬らんと剣を掲げる。

 先ほどと同じ状況だった。

 さっきは、ここで何とか身体をかがめて逃げたが、今は策がある。


 俺はそのまま、左手にいたコボルトにつかみかかって位置を交換した。

 ここに来たばかりの俺であったのなら出来なかったであろう動き。

 それを、俺は再現した。


 俺と入れ替わるようにして、もう一体のコボルトと対面した奴は、そのまま振り下ろされた剣によって血を流す。

 そして、仲間を斬ってしまったことに動揺を覚えたのか、単に予想外の講堂に驚いたのかは知らないが、俺が盾にしたコボルトを斬った一帯は隙を見せた。

 そこに、俺はなんちゃって体術で攻撃をした。


「グラゥガッ!?」


 殴るけるを繰り返して、やっと灰になったコボルトを見て俺は息を吐いた。

 そして、散らばった魔石を集めた後、先ほどコボルトが使っていた焚火の前で飯を食べることにした。






 俺は、翌日固い床で目を覚ました。

 昨日戦闘が終わった後、俺は飯を食って、荷物を壁際にまとめてから眠りについたのだ。

 少々、と言うか、大分早くに寝たと思ったが、意外とあっさり眠ってしまった。

 そりゃあ、朝からいろいろあったから疲れてはいたが。

 もし、コボルトが来たりしたら不味いと、ずっと見張ることは出来ないものの出来るだけこまめに起きて周囲を観察しようと思っていたが、結局一回も起きることなく朝を迎えた。

 携帯を見れば、「6:11」と表示されている。


「こんなに早く起きたの久しぶりだな……まあ、17時台に起きたことを考えれば寝すぎな気もするけど」


 そんなことはどうでもいいかと、思いながら背筋を伸ばそうとして、変化に気付いた。

 右手だ。

 右手の傷が完全に治っている。

 レベルアップの恩恵だろうか。

 まあ、昨日最後に五体も倒したしな。


 俺は起き上がって、水を飲んで、食事をとった。

 昼夜逆転気味になってから、朝食は久しく食べてなかったが、エネルギーが必要だ。

 正直腹は減ってないし、節約が必要かとも思ったが、昨日一日を経験すれば、そんなことはしていられないと思って食べた。

 吐きそうになったが、頑張った。ホントに、朝は入らない。


 そして、二日目は、一日目で要領を掴んで、内容もほぼ変わらなかったおかげでサクサクと進んだ。

 超常的な力があるとは言え、案外人間は成長するのだなと、考えてみたりした。

 途中ラッキーなことに、コボルトの集まる場所の隅の方に、斧が捨ててあったのも大きかった。

 それまで、何とか絞め殺したり、攻撃を誘発させたりして、倒してきたが、案外これがきつかった。


 斧をゲットした俺は、武器の素晴らしさに感動しながらも進んで、ついにチュートリアル終了地点と思わしき所まで来ていた。

 ずっと言って抜けた先、そこには、金と銀の斧があった。


「おいおい、童話の再現か。にしても、泉はないけど」


 台座に置かれた金と銀の斧。

 イソップ童話だったか。

 よく幼稚園くらいの時に聞いたな。


 まあ、それはともかくとして。


「明らかに、俺に合わせたチュートリアル報酬ってところだよな」


 正直こんな目立つ斧なんか嬉しくないが、今持っているボロボロの斧と比べれば、かっこよくも見える。

 それに、金と銀と言っても、金ピカではなく、何というか大人しい感じ、言い方は悪いが若干黄ばんだ金色みたいな感じで、銀の方も刀の刀身みたくきれいだ。

 勿論持ち手は、他の材質で出来ている。なんかSEに出てくる刀の柄みたいな感じ。

 あと、これ、もしかしなくても鉞的な奴ではないだろうか。

 俺が、持ち込んだ武器に影響されているのなら、多分そうだろう。


 でも、使いにくいんだよな、鉞。

 コボルトのクソみたいな斧の方が使いやすい。

 形に限定して話であればだけど。

 まあ、見た目はトマホークみたいで強そうだけどね。


「見てても仕方ないし。取りあえずいただくか」


 そう思って、二本の斧を台座から引き抜いた。

 きっと、これでチュートリアルが終わるのだろう。


 と、俺は思っていたのだが。


『チュートリアルボスとの戦闘が開始します』


 そんな思考は、アナウンスによって否定された。

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