三話 ギフト検証
少し経ち、落ち着いた俺は状況の把握に努めた。
俺は、コボルトを倒し、そして、地面に転がっていた宝石のようなものを拾った。
これは、コボルトの死体が時間経過とともに自壊し、灰になった後から出てきたものだった。
ゲームやネット小説よろしく死体は残らないようで安心した。
「まあ、長期でチュートリアルってのが、続くなら食料には困るだろうが」
そう呟いてみるが実際には分からない。
ここまで、ネット小説に準拠したような現象が起きている今、魔物の身体が消滅する場合にもドロップアイテムとして肉の塊が出てこないとも言えない。
まあ、取りあえずの食料はあるのだし、考えても無駄だろう。
それに、いま気になるのは、この宝石のような何かだ。
小石ほどのサイズだが、もしや魔石とかそういう感じなのだろうか。
これが魔石だと仮定したとき、大抵は使い捨ての魔法とか、エネルギー源だとかになるのかもしれないが……まあ、今の俺には分からないことだ。
とりあえずバッグの中にでも入れておこう。
そして、最後だ。
俺は、魔石とは別に落ちていた短剣を拾った。
それは、戦闘中にコボルトが持っていたもので、それを俺が足で蹴って遠くへ飛ばしたものだった。
正直臭いし使いたくはないが、それでも今の手斧よりは切れ味があるだろうか。
そんなことを考えて、それを拾い上げた。
「あ?」
そして、そんな俺に現実を叩きつけるようにして、ウィンドウが現れた。
──────────────
指定された武器以外は装備できません。
──────────────
「指定って……まあ、いいか。音声入力が出来るかわからんが。じゃあ、斧と取り換えて、この短剣を指定」
──────────────
指定された武器は変更できません。
──────────────
「…………マジ?」
俺は、その文字に驚愕する。
まさか、このホームセンターで買った……いや、半ば万引きした斧で戦えと言うのか。
俺がコボルトを倒して少し、レベルアップをしたと言うアナウンス以外には、特に何か起こったことはない。
例えば、チュートリアル終了の知らせなどだ。
チュートリアル開始前に、秒読みまであったのだ。
であれば、終了時には何かアプローチがあってしかるべきだろう。
それが無いと言う事は、依然チュートリアルは終了していないことに他ならない。
つまり、まだ、戦闘が続くことは想像に難くない。
そんな時、俺がまた斧で戦うのはキツイ。
と言うか、ホームセンターで買った斧なんかより、使いやすさ以前にこの謎空間で得た武器の方がなんとなく攻撃が効きやすそうだ。
魔力を含んでいるとか何とかで。フィクションの定番では。
「斧だけに、oh no!ってか。笑えねぇぞ」
一人寂しくそう言って、俺は斧を拾おうとして気付いた。
「ああ、そう言えば、リーチの問題は解決してたんだったか」
思い出すのは、先ほどの戦闘での自身の行動。
つまり、ギフトの使用である。
そして、俺のギフトは【延長】、あまりかっこつかない名前だが、その効果は分かりやすい。
指定した武器を任意で伸ばすことだ。
今俺の手にあるのは、その効果が施された斧だった。
引き延ばされた部位は刃の部分である。
そして、それの長さは、持ち手の二分の一くらいだろうか。
元あった長さにプラスした状態で今の長さだから、精々数センチと言ったところだが。
そんなことを思っていると、制限時間でもあったのか、長さはもとに戻る。
「このままいけば、見た目だけは鉈みたいになりそうだが」
思ったより、斧の刃の生え方が直線的であったため、意外と伸びるにつれて幅広になってしまうと言う事のなさそうだ。
正直、俺のギフトが今の長さが限界なのか、進化、あるいは強化、練度でもあるのか次第で、更に伸ばすことが出来れば、鉈のような形にも出来るだろう。
まあ、別に本来の目的であった鉈に代わるほどの代物ではないが。
鉈だった場合。元々の長さにプラスして伸ばせたわけだからな。
まあ、それは良いとして、取りあえずどこまで伸ばせるか試してみようか。
「【延長】」
俺がひとたび呟けば、ほんの少し刃が動くようにして面積を増やした。
そして、ふと、口で言わなくても、出来るのかも気になって、試した。
【延長】と心の中で唱えた。
すると、先ほどのように、刃先を伸ばした。
これなら、戦闘中にも、咄嗟に使用が出来そうだ。
そう思って、暫くギフトを試していると、これ以上伸びないと言うところまで行く。
「さっきより、一センチ伸びたくらいか」
感覚的なものだが、まあ、大体あっているだろう。
そして、視覚だけでなくて、感覚でもなんとなくわかるようになってきた。
ギフトとか言う力を使って少し慣れたのだろうか。
あと、どれだけ伸ばせるとか、今の斧がどれだけ伸びているとかなんとなくわかる。
まあ、長くなるに比例して重さも増えていくから、どれくらい伸びているかはなんとなく推測は出来るが。
「ただ、質量も加算されていくのはキツイな」
俺は、伸ばしきった斧をその場で振ってみる。
なにもしない状態でも、それなりに重いのだから、これではすぐに腕が痛くなってしまいそうだ。
レベルアップとウィンドウが出たことから、筋力とかも上がると考えたいが、一センチギフトの範囲が上がったことを見ると俺自身ではなく、ギフトのレベルって可能性もある。
まあ、とにもかくにも、チュートリアルを終わらせる必要がある。
俺は、荷物をもって、洞窟のような造りになっている通路の奥に進むこととした。