一話 物事は唐突に
ホームセンター。
なんかいろいろ売ってて、でけぇ店。
晩年引きこもりの俺には、そんな印象しかない店。
そんな場所で俺は一人叫んでいた。
「斧ォオ!!」
俺が見る先には、逆さに吊るされたいくつかの斧があった。
なんでもよかった。
焦っていたのだ。
とにかくそれに手を伸ばした。
いつものように、俺は惰眠をむさぼるべくベットの上で寝転がっていた。
ちなみに平日である。
完全に学校に顔を出さなくなって少し、不登校がすっかり板についた俺は、携帯に映る「9:42」の文字を見てから、動かない頭でもう少し寝るかと目をつむった。
学校に行かなくなって最初の頃は、完全登校時間が過ぎるまで、落ち着かなかったが、今は起きればすでにそんな時間は過ぎている。
そんなとき起こったのだ。
『──接続完了……ギフトを付与します』
脳内に響くアナウンス。
ギフトとか、頭に響くアナウンスとか。
こういうのは、大体ネット小説とかの定番である、アレだろう。
引きこもりの俺が、何か力を得て、人生が変わる。
ネット小説みたいなことを期待する。
だが、残念ながら、そんなことはない。
と言うか、俺はそんなものは望んでいない。
ある程度自身のスペックを理解した今日この頃においては、妄想の中でさえ、俺はヒーローにだってなれない。
世界が一変するような何かを望んでいたのは、もう昔。
今は、そんなことでは自分が変わることなど出来ないと心のどこかで思っている。
そう思っていたはずなのに。
『……河添正時。貴方には、【延長】のギフトを付与します』
その時の俺は、自分が特別な存在に成れたのだと実感し、充実感にあふれていた。
そして、そんな俺の目の前に、ホログラムで出来たようなウィンドウが現れた。
──────────────
【延長】
能力
自身が指定した「武器」にのみ使用可能。
──────────────
「アナウンスの次はウィンドウか、これまたベタだな」
あるあるだ。
なじみがない者から見ればネット小説と言うより、まるでゲームだが。
今時の異世界ものは、ステータスとかそう言うのはよくある話だ。
単純な説明。
一文のみの文章だが、詳細を伝えるのには十分だ。
早速試そうと思い立って、更に続けてアナウンスが頭に響いた。
『これから、能力付与者には、チュートリアルを行ってもらいます。開始時刻は約三十分後、日本時間で十時十三分からの開始になります。内容は、魔物との戦闘。持ち込み可能な「武器」は指定した一つのみです。それまでに準備を完了させてください』
チュートリアルだと?
そう思い、俺は少し考える。
相手は魔物。恐らく、ゲームのモンスターみたいなものだろう。
仮に違う場合は、俺には想像つかないが、一応ゲームにおけるエネミーのようなものを想定して動こう。
そして、携帯を見れば「9:46」と表示されている。
あまり時間もない。
この短い中で、準備を終わらせるしかない。
まず、持ち込み可能という「武器」から考えるのがいいだろうか。
いや、それより前に、家族の確認だ。
俺も順応できているとは、言い難いが、知識的には両親よりはあるだろう。
そう思って、携帯のロックを解除したところで、ある通知が目に入った。
母からだ。
いや、父からも今来た。
「取りあえず、俺のオタク知識が使えるか分からんが、一応テンプレを…………え?」
両親から、個別に来たのは心配のメッセージだった。
そりゃあ、家の両親は、引きこもりの俺に献身的に尽くしてくれるほどだ。
特段不思議なことじゃない。
ただ、この文は……
俺は、急いで、SNSアプリを開く。
特に知り合いとつながってるわけでもないし、ネットに友達がいるわけでもない。
それでも、俺の身に起こったことを知るには十分だった。
スクロールするたびに情報が目に入る。
「頭の中に声が響いた」
「俺の妄想が」
「ゲームみたい」
「ラノベかよ」
「ダンジョンとかも出るんじゃね」
世界ではどうか分からないが、少なくとも日本全国で同じようなことが起きていた。
ただ、アナウンスの内容は、俺とは違っていた。
俺は、アナウンスの原文を態々書き起こして乗せた投稿を見る。
「現在、世界各地にいる二十三名の人間にギフトの付与が完了しました」
俺が聞いたものとは出だしが違う。
てっきり、地球上にいるもの全員とは言わないが、かなり多くのものが能力を得たものと思っていたが。
二十三名、俺の聞いたアナウンスにはなかった情報だ。
ただ、そこから続くのは、俺も聞いた情報。
チュートリアルがどうとか、そう言う話。
そして、最後に、両親が送ったメッセージの意図を理解できる文があった。
名前の羅列だ。
能力を付与された計二十三名の本名。
そして、当然そこには俺の名前もあった。
「能力付与者────河添正時──」
両親から送られてきたメッセージは、両者とも自信の身の詳細を書いたものではなかった。
普通、俺の家族も例外なく能力の付与とかなんだとか言われたとすれば、俺の心配もすると同時に自身の安否も伝えて来ただろう。
でも、そうではなかった。
その理由がやっとわかった。
俺を心配した過保護な両親が、「警察に事情を話して拳銃を借りろ」だの、「警察に守ってもらえ」だの言ってくる。
正直、俺が例え、拳銃を貸してもらえる可能性があったとしても、ろくに使える気はしないし、守ってもらうなんてことは可能なのかも分からない。
ここで、フィクションの話をしてもなんだが、銃火器は効かないってのは、定番だしな。
一応、時間までに警察には行ってはみようか。
とにかく、今のもろもろで時間は過ぎている。
取りあえず、変なことを言って心配させるわけにもいかないので、両親の言った通りにすると返信した。
そして、急ぎ、武器を調達するために、俺は近くのホームセンターまで自転車を走らせた。
ろくに、部屋から出ないせいで、道なんか分からないが、地図アプリを起動させて何とか向かう。
自転車をこぎながら俺は考える。
武器についてだ。
俺が知っているゲームのモンスターを想定して何が有効か考える。
包丁はどうだろうかと思うが却下する。
切れ味は良いが折れそうだし。
リーチが短い。
それに、血が付いたら切れなくなる……かは、分からんが。
きっと能力である【延長】と相性のいいものを選ぶべきなのだろうが、生憎と思いつかない。
そして、運転の傍ら、最終的に鉈か大き目のナイフにしようと決めた。
一応、武器以外の服に関しては、動きやすそうなものと寒さや日差し対策にアウターを羽織った。
食料は、俺の愛用している携帯栄養食品である、某メイトを鞄に入れた。
飲み物は流石に、重いのでホームセンターで補充で良いだろう。
いるその場で行われるかも分からないし、もし、転移のようなことが行われるとして天候も分からない。
どれだけ、時間がかかるかも分からない状態で、取りあえず俺なりに準備をしてみたが、まだ、きっと足りないものもあるだろう。
それでも、時間がない。
とにかく俺は立ちこぎをして、目的地へ急いだ。
「……っ!もうすぐ着くはずなんだが」
警察署を通り過ぎる。
ホームセンターから出たら、ここに直行する腹積もりだ。
息が切れて来た俺は、携帯のマップを見る。
目的地は、すぐそこだ。
そうして、顔を上げれば、建物があった。
俺が、最後の関門である横断歩道を見れば、赤になった所であった。
そして、俺が携帯見ると「9:10」と出ていた。
普段なら、遅刻しそうになっても、完全に赤になった横断歩道には流石にいかない。
でも、今回ばかりはそうもいかなかった。
すでに、横からくる車は進行している。
そこに自転車で飛び込んだ。
「っ!?クッソ」
ドライバーたちが、ギリギリで避けるなり、止まるなりしてくれるのを信じていたが、自転車のケツが最後の最後で接触し、そこから何とか体勢を保とうとした俺は、ハンドルを溝に取られて横転した。
そして、下敷きになった腕が、地面を強くこする。
コンクリートにズルズルとこすれて、痛い。
それより先に、慣性によって動き続ける自転車を足で何とか減速させる。
ほんの一瞬。
その一瞬に、それらの出来事が起きて頭の処理が追い付かない俺だが、それでも立ち上がって籠から投げ出された鞄を持って走った。
腕が折れてしまったのではないかと、思うほどに痛む腕を抑える。
「痛い痛い痛い痛い──」
思わず漏れ出る言葉をそのままに、入り口を通過して、店内に入る。
携帯を、一瞬でも惜しいこの時間を利用してみれば「10:12」と表示されている。
10:12:03かもしれないし、10:12:54かもしれないが、そんなことを考えている暇はない。
とにかく一分もないことが分かった。
会計をしてる時間などない。
俺は、目についた2Lの水をひったくるように抱えて、更に進んだ。
鉈かナイフ。
そう思ってあたりを見渡すも、見つけられない。
とにかくキャンプ用品売り場に突入した。
『チュートリアルまで、五秒です』
あたりを再度見渡す俺の脳内に、アナウンスが流れる。
『4…3…』
都合のいいアナウンスだ。
これがなければ、俺は手ぶらで魔物とやらに立ち向かうことになってただろう。
もう時間がない。
この際何でもよかった。
鉈なんて選り好みはしない。
とにかく、俺は、目の前にあった手斧に手を伸ばした。
「斧ォオ!!」
俺の手は、ギリギリのところで斧に触れた。
『2…1…0──チュートリアルを開始します』
次の瞬間、視界が光で潰された。




