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第9話「右手」
乗客の少ない電車内。
2人は座席の隅に腰掛けていた。
凛の身体が春樹にもたれ掛かり、温度が伝わる。
凛は穏やかな顔で目をつぶっている。
ふと、ポケットの砂時計に目をやる。
砂の量は残り1/3程になっていた。
電車の到着まで後10分。
春希の目から自然と涙が溢れた。
春希は泣いていることを凛に悟られぬよう左手で涙を拭った。
何度も何度も拭った。
繋いだ右手だけは離したくなかった。
家に帰った春希はベッドに横になった。
横目で机の上の砂時計を見る。
春希は深くため息をついた。
突然携帯が鳴り、凛からメールが届いた。
「今日はありがとう。また明日会いたいんだけど、大丈夫かな?また集合してからどこ行くか考えよう!」
明日が最期になってしまうかもしれない。
春希は迷いなく凛に了解のメールを送った。
携帯を枕元に置き、天井を見る。
目を開けていよう、今日が簡単に終わらないように。
君のいる世界で生きるこの時間はあまりにも貴重すぎる。