第4話「再会」
「ねぇ……起きて……」
微かに声が聞こえる。
「春希……起きてよ……」
聞こえる。聞き慣れた声だ。
「もう……遅れちゃうよ!」
春希は勢いよくベッドから飛び起きた。
キョロキョロと周りを見渡す。
誰も居ない。
夢か……幻聴か……
春希は頭を抱えた。
それとともに次第にふつふつと怒りが湧いて来た。
机の上の砂時計を見つめ、じっと睨む。
自分は何故このような粗雑な物を信じてしまったのだろう。
捨てよう。こんなものすぐに捨てよう。
春希は砂時計を掴み、雑に鞄に入れ部屋を飛び出した。
激しい足音で階段を降りる。
「春希ー、朝ごはんはー?」
眠た気な姉の声を通過し、家の外に出た。
外はやけに太陽が照り付け、光の強さに春希は目を瞑った。
視界が白くなり、神経のような、血管のようなラインが微かに浮かぶ。
チリンチリン……
背後で高いベルの音がした。
チリンチリン……
春希はおもむろに振り返り、音の方向を見た。
白い視界が次第に溶けていき、明確な輪郭を描く。
「もう……遅れちゃうよ!」
停めてある自転車の後部座席、そこに寄りかかるようにして彼女は立っていた。
長い黒髪、白い肌、呆れながら優しく笑う顔……
紛れもなく彼女だった。
春希のまぶたが熱を帯びていく。
「ん?どうしたの?」
凛は右手で目を覆う春希の顔を目を丸くして見ている。
「ううん……何でもない。起きたてだから、眠たくて。」
春希は目を擦りながら笑った。
眩しい朝、何度も繰り返した当たり前の朝、かけがえのない再会だった。