第2話「奇跡」
歩いて歩いて歩いた先にそれはあった。
駅前の商店街を通り、高架下沿いを歩く。
しばらく行くと、暗いトンネルがあり、それをくぐった。
ただただ真っ直ぐに進むと光が一面に広がり、トンネルを抜けた。
そこには一軒の古い建物が建っていた。
中を覗くと、古い本や置物、家具等が並んでいる。
どうやらここは何かの商店のようである。
春希は恐る恐る店の扉を開け、中に入った。
外国製の置物や絨毯、オルゴールや漆器……春希は周囲を見渡していた。
ふと、目をやった先にそれはあった。
吸い寄せられるかのように春希の足は勝手に動いていた。
赤色と青色の砂時計。
赤色の方が一回り青色のものより大きかった。
「それが気になるかい?」
背後からの呼びかけに驚き振り返ると、白髪の老人が立っていた。
眼鏡をかけて、ベストを着ており、落ち着いた様子である。
「それは復活砂時計。この砂時計に復活して欲しい人の名前を書きひっくり返す。すると、その砂時計が動いている間は亡くなった人と時を過ごすことができるんだ。」
老人は迷いもなく言った。
「ほ……ほんとですか……?」
春希は咄嗟に聞いた。久しぶりに声を発した気がした。
老人は黙って頷いている。その堂々とした落ち着いた態度は信用できる空気感を纏っていた。
「赤が5日間コース。10,000円。青が3日間コース6.000円。」
取ってつけたような価格帯に戸惑いながらも、春希は気づいていた。
そもそもこんな商店は元々無かった。今までこの近辺に住んでいたがこの店を見つけたことはない。
なら……奇跡なのかもしれない。もう二度とこの店に来れないかもしれない。
春希は買うことを決心した。
財布を開いたがあいにく10,000円は持っておらず、春希は青い砂時計を買った。
この奇跡が現実のものとなり、君に逢えますように。
春希は砂時計を掴む右手の力が強くなるのを感じた。