第1話「崩壊」
ザッザッザッザッ……
足音が響く。
靴はもうクタクタに朽ちてきた。
変わり映えのない景色。
ありふれた景色。
そして、あの日から色のない景色。
居る訳が無いことは分かっている。
頭では理解している。
でも、自分の根底にあるものがそれを理解していないのだ。
辺りを見渡し、居ないのを確認する。
その行動で自分を理解させようとする。
無理だ。
遥希は強い眼差しで群衆を見つめ、視線を落とした。
自分の根底を創造したのは……自分の中心を支えたのは……全て君だった。
何の変哲もない一軒家。
扉を開け、靴を脱ぐ。
「おかえり、春希!ご飯食べた?」
リビングから姉が顔を出し、声を掛ける。
春希は返事をせず、階段を上がり部屋の扉を閉めた。
ベッドに横になり、空を仰ぐ。
失うことの悲しみ。それは得たことの喜びより何倍も大きい。
幸せは日々の積み重ねで出来ている。
春希は本棚にあった漫画に手をかけた。
共に過ごす毎日に少しずつ幸せがあり、それを少しずつ積み重ねる。
漫画を一冊二冊と重ねていく。
崩れる時は一瞬。辛さは計り知れなく一気に襲いかかる。
春希が手を離すと積み重なった漫画は一気に崩れ、床に散らばった。
「出逢わなければ良かったのかな……」
春希はそっと呟いた。
こういうとき、人は泣くのだろう。でも、もう春希にはその雫さえ残っていなかった。
目を瞑ろう、今日を簡単に終わらせるために。
君のいない世界で生きるこの時間はあまりにも無駄すぎる。