チートを持って転生したけど、ラノベみたいに無双するんですか。
まるで目隠しをして水を掴もうとしているかのようだった。
「うーん、この作者さんも、筆力は高いんだけど、ボクの好みの味じゃないんだよなあ」
町田小利は、暇つぶしのネット小説漁りを諦めて、立ち上がった。
「ただ頭空っぽにして眺めてるだけじゃ、なんの成長も得られないんだよなあ」
小利は別に軍人のような一流の技能を持ったプロフェッショナルを目指しているわけではない。
しかし、小利はもう30歳だ。
流石に日本の自衛隊に入るのは、自分の生活と自国の同胞を守るには歳を取り過ぎてしまったし、昼夜逆転病にかかって健康じゃないから無理と考えているが、日本の国民として自衛隊の軍人の足を引っ張る存在にはなりたくないと思っている。
健康でもなく、足りないところばかりだとしても、「なんだ、このゴミ。一体今まで何してたんだ?」とか言われるようにはなりたくないな、と思っている。
人生が終わる時、全てがゴミのように無に帰すとしても。
「はー、小説や漫画読むだけじゃなくて、描こうとは思うんだけど、コツコツ少しずつ作り上げていくのあんまりやった事ないんだよなあ」
彼は30歳である。
(親の実家で、親の金で生活するニートだ。)
しかし、彼は漫画やテレビゲーム、ライトノベル、ネット小説、ニコニコ動画などの、ストーリーを頭空っぽにして眺めていただけの人間である。
テレビゲームですら自分でプレイせず、ニコニコ動画でストーリーを見てただけのことすらあった。
彼は、他のスパイとか軍人とか忍者と比べると、びっくりするほど才もなく、無能であった。
「今日外出してないし、換気のために、散歩行って来よう」
外は真っ暗である。
彼は中学生からパソコンを使っていたことで、体内の生活リズムが乱れ、不眠症になり、昼夜逆転生活を送ることになったから、彼が夜中に散歩することは普通なのである。
(ちなみに、パソコンを使うのをやめて、昼夜逆転病が治らないかを試してみたが、残念ながら、一度壊れたものは治らないものであるらしかった。
彼はマスタベーションでパソコンを絶対に使うので、早々に諦めた)
「健康って、幸せだったんだなぁ。
失ってから、気付くんだな。
やになっちゃうよ」
小利は、朝と昼の太陽の光が恋しいぜ、と1人黄昏た。
「何にも見えないけど、神様って多分いるんだよなあ。
ボクを助けてくれないかなあ」
小利は1人、愚痴った。
最近の最先端の研究で、現実世界を再現した電脳世界でスーパーコンピュータに演算させて、未来予知しようという研究があり、その研究から、現実世界を電脳世界で再現するスーパーコンピュータのバックグラウンドに知能があるなら、コピー元である、現実世界のバックグラウンドである物理法則には知能がある、という仮説が信憑性を帯びてきたのである。
小利はその物理法則には知能があるという仮説を信じていた。
小利が言う神様とは、知能がある物理法則のことであった。
「 」
別のことを考えていたからと昼夜逆転を直すための徹夜の影響で、ぼんやりしていたからであろうか、小利は走ってきたトラックに気づかなかった。
(あ、これ死んだ。)
彼はトラックにはねられた。
トラックに吹き飛ばされた意識の中で、彼は思った。
(神様、どうしてボクを見捨てられたのですか)
最後にそう思い、彼の意識は途絶えた。