8 まだ慌てるような時間じゃない
「魔法を使う方法は、体内のマナを体外に出して使う。その方法しかないんですか?」
勇者様アゲからの追放物語に私が戦々恐々としていると、修司はまるで何事もなかったかのように落ち着き払って聞いた。
「魔法の使い方は体内のマナで世界のマナに干渉する。それしかありません」
バーバラさんは深く息を吐き出した。
え? 宮廷魔導士のバーバラさんがそう言うってことは本当にマズいんじゃ。
「待て」
私があわわわわっと慌てていると、オッサン騎士団長ことガランさんが待ったをかけた。魔法のことなのに、騎士が魔術師に待った?
「身体強化の時は、世界のマナを体内に取り込むことがあるだろ? 特にマナが弱い奴ほど」
「どういうこと?」
「身体強化は全身にマナをみなぎらせて体の耐久値や運動能力を上げるんだ。体内のマナが多い奴は自前のマナだけでやるが、自前のマナが少ない奴は世界のマナを取り込むことで不足分を補うわけだな」
「ほむほむ」
ガランさんの説明に安心 & 納得。なんだ、そんな方法があるんじゃん!
「確かにそうだけど、ガラン。それじゃあ世界のマナをどうやって取り込んでると思う?」
「そりゃあ体内のマナを使って……って」
「そう。結局マナを取り込むための操作も体内のマナを使って行ってるのよ。付け加えるなら体内のマナは自前のものだから比較的術者と相性が良くて魔法のイメージ転写もしやすいけど、世界のマナはそれがしにくい。だから魔法の効果効率も体内のマナより悪いのよ。それでも世界のマナの方が圧倒的に多いから、世界のマナを使うわけなんだけど」
バーバラさんの反論に頭を抱える。まあ、マテ。まったく意味がわからんぞ。
……ポクポクポク。チーン!
それじゃあ結局ダメってことじゃん!? 多分っ!
「まあ物は試しです。とりあえずやってみましょうか」
私が追放ピンチにのたうち回っているのに、修司はあっさりとそんなことをのたまう。さっきからなんなんだこいつ。メンタル鋼か? アイアンハートはくだけないのか?
「ですが」
「まあ、そうだな。グダグダ言ってても仕方ない。修司、やってみろ」
バーバラさんが何か言おうとしたが、ガランさんは気にせず修司に先を進める。うん、さすがは騎士。考えるよりも先に体を動かす。実に脳筋だ。わかりやすくて大変よろしい。
「まず世界のマナを体内に取り込むでしたね」
「はい。マナは感じられてますか」
「ええ。暖かく柔らかい力ですね」
「え?」
バーバラさんの驚きを置いて、修司はマナを吸い込むってぇ!? ズギュルと周囲一帯のマナが修司に取り込まれる。
「っそんな! まさか!」
「そしてイメージを転写。炎が燃え盛る感じですね」
驚愕に声を上げるバーバラさんを無視して、修司は指を城壁の方に向ける。
「修司! 狙うなら空っ!」
圧倒的なマナに、その先の展開が想像できた私は叫ぶ。
「オッケ。ファイア」
空に上向けた修司の指から、さっきのバーバラさんとは比べ物にならない炎の柱が立ち上った。