1 素敵神秘空間(こぶつき)
「いったー! なんだってのよ」
ズキズキする頭を押さえながら顔を上げる。
「……え?」
見上げればキレイなステンドグラス。テレビの中で見るような洋風のアーチな天井。
「ほぁー」
あまりに予想外の光景に、思わず声をもらした。そこ、間抜け面とか言うんじゃないっ!
「ふーむ」
私はあごに手をやる、俗に言う考える人ポーズである。ふむ。
「ここはどこ? 私は誰?」
結果、お決まりセリフを言ってみた。一度言ってみたかったんだよねー。
しかし、何も起きないし、誰も反応してくれない。むなちい。
仕方なく私は自分の体を見回してみる。
黒ブレザーに包まれた細い体。ちょっとオシャレでお気に入りな白黒チェックのスカートの制服から伸びる自慢の脚線美。
うん、いつも通りの私だ。
急に謎空間で浮遊してるものだから、なんて素敵に異世界転生かと思いきや残念極まりない。
でも、まだ諦めるのは早い。きっと異世界転生じゃなくて異世界転移に違いない。十二国〇だってそうだった。
「マジか。これって異世界転生ってやつ?」
なんて思ってれば、聞き慣れた声がした。
うそーと声の方を見てみれば、白い雲の向こうに見慣れたあいつの姿があった。
「ああ、杏! 良かった、無事だったんだ」
毎朝の挨拶みたいな気さくさで修司が手を挙げてくる。
「全然よくない」
「え、なんで?」
「ドキドキワクワクな異世界生活が待ってると思ったのに、なんであんたがいるの?」
「いや、そんなこと言われても、気付いたらいたし。どうしようもなくない?」
言ってることは至極もっともなんだけど、この神秘的な雰囲気を台無しにする非日常デストロイヤーにむかっ腹が立つのは仕方ないと思う。
これから異世界で私が救世主な冒険活劇とか、あるいは異国の王子様との素敵な恋愛模様が始まるのかもなんて期待に胸を躍らせた思った矢先に、目についたのがまさかの学生服姿の幼馴染。
神様、上げてから落とすのが好きなタイプですか?
「これは私の異世界転移なの。修司はお呼びじゃないから帰ってくれない?」
「いや、帰るなら杏も一緒に帰ろうよ。久子さん達も心配するよ?」
「うっ」
こいつはー!
存在だけじゃなく、発言までなんて異世界バスターなんだ。即刻私の異世界転移譚からご退場いただきたい。
「もー、いいから私は行くからね!」
「あ、一人で行くと危ないって!」
右も左もわからないけれど、泳ぐように前に進んだ私は、ふわりと体が浮き上がるような感覚に包まれた。