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君のまま

聖女なる乙女が異世界からやってきた。

ゼノア国の影からの報告にラーネポリア王国の面々は“はぁ、”と言う感想しかなかった。

曰く、

彼女は魔物を退ける聖なる力を持つとのことだった。

「魔物を退ける?」

隣国がラーネポリア王国へ渡る時は、国境の森を通過する。

しかし、森には狂暴な魔物が出没するため、いつも武に優れたラーネポリア王国の王立騎士が護衛として森に待機し、護衛役を引き受けるのだが、今回は聖女がいるから、こちらの護衛はいらないと言う。

「殿下、聖女とは其ほどに凄いものなのですか?」

ショーンはティエリアを東屋に誘い座らせた。

二人が席に着くと空かさずお茶の用意が整えられていく。

「隣国ゼノアの伝説に出てくる人物らしいよ。」

遥か昔、スタンピードから国を守った聖なる乙女は、現在において信仰の対象となっている。

「史実と照らし合わせると英雄王の次世代の時に結構大きなスタンピードが隣国と此方の国境沿いで起こってたけど、」

「けど?」

「ゼノア国に向けて爆進していたスタンピードは、王都手前で方向を変えて我が国に向かった。」

ティエリアは、歴史書を頭の中で捲る。

「英雄王の次世代と言うことは、ハインツ国王時代に起きた大規模スタンピードですか?」

ティエリアの正解にショーンは微笑む。

(今日も我が婚約者は可愛いなぁ。)

説明しなくても

「一度走り出すと止まらないスタンピードが急に我が国に方向を変えた、確か、数十年前まで我が国でも検証されておりましたわよね、」

ハインツ国王は、英雄王に習って魔族やエルフ達にも協力を仰ぎスタンピードからの被害を最小限に抑えた。

「隣国では、聖女の力で災厄が去ったってことになってるけど、急に方向変えられ襲われた此方としては、堪らないからね、そんな不確かな存在のせいで何万もの民が死んだなんて腹が立つことだから、原因を探ろうとしたけど、結局、スタンピードが方向転換した原因は分からなかったんだよ。」

隣国にとって聖女は救世主かも知れない、けれど、聖女によって急にスタンピードの進行方向が変えられたのだとしたら、聖女は、我が国にとって災いでしかない。

「ハインツ国王時代のスタンピードに関する考察に聖女なる者のことは一行くらいしか触れられてない。向こうの歴史書も読んだけど、“方向を変えた、王都は救われた”としか書かれてない。方向を変えられたことで二度襲われ壊滅した町や村のこと、進行方向が何処に変わったのかなんてことも書かれてなかったよ。」

簡単に言ってのけるショーンにティエリアは少し呆れた。

ショーンは、スタンピードの歴史検証を趣味としている。

国益にも繋がるのでよい趣味を持ったと言っていたが、

「いつ隣国の歴史書を読んだのです?」

ニコニコと笑うティエリア。

この王子殿下、自分の知りたいことには貪欲で、その為なら一人で何処にでも出掛けてしまうのだ。

他国の歴史書で我が国内に置かれているのは当たり障りのない、どちらかと言えば、自国を美化するような文言が並びがちなものだったりする。

なので、多角的側面から書かれた歴史書を読もうとするならば、その国の図書館で読むしかない。

つまり、ショーンはこっそり隣国の図書館で読んだことになる。

少し冷気を含んだティエリアの微笑みに肩を竦めるショーン。

仕方のない方……。

ティエリアは結局ショーンのことを許してしまうのだ。

ハインリヒとマグリットの良いところを遺伝したと言われているショーン。

そんな彼が自分を選んだと知った時、全力で彼を愛し、支えると心に誓ったティエリアであった。

「殿下の御身に何があれば悲しむ方々が居られることをお忘れなさいませんように。」

ティエリアの言葉にショーンは頷き微笑む。

「うん、ティエリアを悲しませたくないから、気を付けるよ。」

ポンと弾けるように赤くなったティエリアにショーンはニコニコだった。


「異世界とは、魔界や妖精界のようなものですか?」

ショーンは紅茶を飲みながら眉間にシワを寄せる。

「んー?詳しくは本人から聞かないと分からないけど、弟達は聖女なる人物を研究してピュエリアみたいな効果が彼女の何にあるか調べあげたいみたいだね。」

ティエリアは弟殿下達の好奇心の強さを知っているから思わず微笑んだ。

「殿下方が無茶をなさいませんように。」

「あー、そうだね、レンリルとかルキリオに頑張って貰うよ。」

怒ると一番怖いのはショーンだが、基本穏やかな性質のため弟達は大好きな兄を怒らせないように動くのだ。


『ショーン、臭い気配』

ショーンの使い魔からの言葉が脳裏に送られてきた。

(臭いって?)

『魔獣達も、使い魔達も気持ち悪いと言っている。東門辺りから臭う』

東門と聞いてゼノア国から妖精界へ向かう使節団が王都に立ち寄り無理難題を言ってきたとジュンリルが吠えていたことを思い出した。

「ショーン殿下、何かあったようですね、ユチも気持ち悪いと申してます。」

『ユチは繊細だからな』

ユチは、ショーンの使い魔であるヤーヌの番であり、ティエリアの使い魔である。

二人の使い魔が番なのは、偶然と言う名の必然だとヤーヌは言った。

レンリルとカエデの場合、魔界とラーネポリアと言う物理的、空間的隔たりがあった。

カエデとの繋がりを強くしたいレンリルの思いに答えるようにレインは、自らのまだ、生まれていない番の宿る卵をカエデの元へと送った。魔界では使い魔の卵など存在しない。皆、使い魔とは睨み合い、話し合い、魔力をぶつけ合い調伏し、従えた上で結ばれる契約が元となっている。魔獣から使い魔となることを望む場合は、対象者が余程魅力的な魔力の持っているか強さを持っているかに限られる。




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