Blooming Again
この春、学園を卒業したタクリオ。
魔法科での成績がトップクラスの成績でこの秋から魔法省に勤めることが決まっている。
其までに婚約者を決める予定にしており、現在は多忙な次男レンリルの補佐をしている。
来年、学園を卒業する四つ子(同い年の双子が二組が存在しているため、まとめて四つ子と呼ばれている)は、ただいま進路を模索中。
ただ、獣人族の血を引き継ぐカインとジオンは騎士見習いとして既に魔物討伐を行っており、武門の家と縁付くだろうと思われている。
一方、ショーンの実弟である双子ショーヤとショーセ。
ショーヤは、食べることが大好きで、食材を美味しくする調味料に興味を持ったことがきっかけで薬学に興味を持ちはじめ、学園卒業後は薬学研究所に勤める予定だ。
「僕は、食べることが大好きだから、安全で美味しい野菜を育てる肥料の開発とか、毒のある魔物や植物の無毒化できる方法とか見つけたい!」
揚げ芋の入った袋を片手にキラキラの笑顔を見せるショーヤ。
ショーヤの好奇心の天元突破は、ラーネポリア王国の食事情を向上させていく。
「どうしたの?ショーセ。」
双子の弟の雰囲気に首を傾げた。
ショーヤの言葉に他の兄弟もショーヤの元にきた。
「何か、足元がおぼつかない感じ。」
ショーセは、第六感に優れている。それは、使い魔が精霊であることも関係している。
人の感情の機微に聡く、聞きたくもない内情が勝手に聞こえてくる“さとり”の能力。
幼い頃は、自分の能力に振り回されよく寝込んでいた。
そんなショーセを家族は優しく、そして、時に厳しく見守り、導いてきた。
そんなショーセの勘は当たる。
「スタンピードか?」
尋ねるジオン。
謁見の間に緊張が走る。
「マグリット法によると暫くは無さそうだが。」
英雄王の妻、賢妃マグリットが仲間と編み出したスタンピード発生確率法は、改良に改良を重ねて七割の確率で発生場を予想出来るものになっていた。
そのお陰で建物や町そのものの被害は防げないが人命は救えるようになった。
「今年初めから、スタンピードも色々と変化してきている。それも関係してるのかも。」
末っ子が発する言葉。
「…いや、何か、スタンピードとは違う、面倒くさいことが起こりそうだって、モコと話してた。」
不意に現れた金色の鼬。
どことなく、モコも複雑そうな顔をしているようだ。
「どんな、面倒くさいことにも臨機応変に。」
レンリルの言葉。
「ショーセの予感は当たる、その辺りを肝に命じて動くこと、特に、そこのお調子軍団。」
ルキリオの言葉に互いの顔を見合せる弟達。
誰のことと顔を見合せる弟達にため息を吐くお兄ちゃん達だった。
「綺麗に咲いてますね、良い香りです。」
目の前に広がる白い花。
国花のピュエリアだ。
この花は、神の花、奇跡の花と言われ、群生地には不思議と魔物は出現しないことから、国の要所要所に植えられている。
育成が難しいことと、貴重な花であるため、育てるには国家資格が必要となり、群生地は極秘事項に含まれ厳重に守られている。
ピュエリアは、資格のない者でも育てられるが神の効能たる力は宿りにくく、偽物も出回っており、罰則はかなり厳しい。
「我が家にも毎年、数本咲いてくれてますけど、数本だけでも奇跡だと庭師に言われましたわ。」
ティエリアが微笑みながら言う。
「うん、そうだよね、公爵家にピュエリアの花があること自体凄いと思うよ。」
ピュエリアの花は自分で咲く所を選ぶ花だと言われている。
たとえば、群生地やその他森の何処かや、王城から種や苗を持ち帰り、植え、国家資格のある庭師に育てさせたとしても花がその場を嫌がれば白ではない色の花弁を纏う。
ピュエリアが国内の要所に根付いたのは、国家宮庭師達の努力と祈りの成果でもある。
白以外の花弁となったピュエリアは、その時点で名前を変えて呼ばれるのだが、元々は奇跡の花でもあるため、国民には好かれている。
持ち歩いたり、飾ったり出来ないピュエリアの代わりに色付きピュエリアは夏の始めに行われる花祭りの主役となり、人々の心を明るくする。
奇跡の花ピュエリアは突然芽を出す。
小さい芽は区別が付きにくいため知らずにうっかり抜いてしまうこともあるが、抜いた芽を焼きでもしないかぎり、また、次の日には同じ場所に植わっている。
各家の庭師や花を育てている者はその時点で“この花、もしかして?”と考える。
疑問を持つと大抵の者が間違って抜いてしまわぬよう囲いを作ったり、目印を立てる。
花が咲くのは夏の始めだが、蕾をつけるのがいつになるのかは、決まっていない。
記録では秋に芽生えて、冬を越え、色のわからない蕾を春頃に付け、翌年の夏前に漸く咲いた事例もあった。
気長な花の中には、五年後に開花したこともある。
注意深く見守ってきた花が白い花弁ならば、土地の所有者は国に報告をしなくてはならない。
魔除けになるピュエリアの花である。こっそり育ててもいいじゃないかと考える者も出てくるが、そんな考えを持つと白い花が色付き初め魔物に対する効力を失ってしまう。せっかく白のピュエリアが咲いたのに己の欲に負けて花が色付いてしまった時に万が一でも花に八つ当たりをしてはいけない。
色付きであってもピュエリアを故意に散らしてしまえば魔力が一時的に失くなってしまうのだ。
それに、もし黙っていたとしても新しく咲いたピュエリアの存在は“花守り”と呼ばれる一部のエルフが神託のように感じとり、王家に知らされることになっていた。
ピュエリアは、個体差はあるが、一度咲くと2ヶ月程で徐々にしぼみ、蕾の状態で次の夏まで形を保ち、再び開花する不思議な花で、夏前の今が一番一斉に咲いて満開となる。
色付きピュエリアは、芽吹くのも早ければ、夏の始めに咲いて、枯れて種を落とす。
その種は花屋で普通に売られており、子供達の夏の観察日記定番の花である。
まあ、植えてからいつ芽吹き蕾を付けるのかは不明だが。
色付きピュエリアの種から白のピュエリアは生まれない。
白っぽいとか、色の筋が入ったピュエリアが咲く可能性があるため人々はその色を楽しみに育てるのだ。
「また、我が家の庭も見に来て下さい。」
恐らくショーンにしか見せたことのないような頬を少し染めたティエリアの家に咲いたピュエリアはラーネポリア王国最北端で咲いた花として知られ、夏の見頃には庭園を領民にも解放してたりする。
「うん、出来たら直ぐにでも行きたい。現実逃避したい。けど、弟達が許してくれない。」
後、一月もすれば、ショーンは妖精界に行く予定になっている。
ここ最近、双方の世界で魔物の発生率が高くなっており原因の調査結果を話し合う会議に出席するためだ。
「今回は、我が国だけじゃなく隣国からの使者の案内もあるからね、まずは彼等を国に迎えて、ある程度の話を詰めてからの訪問になるから、ジュンリルがその辺り調整してくれてるんだけど、何か隣国さんのメンバーが増えるって連絡が昨日来てさぁ、」
ティエリアは、謁見の間にいたジュンリルの顔が疲れているなぁと思っていたのだ。
「急にメンバーを増やすなんて、何か重要な人物なのでしょうか。」
「んー、どうだろう。昨日届いた書類には、まだ成人してない娘さんだって言うんだ。」
ティエリアは驚く。
「物凄く、優秀な方なのでしょうか。」
隣国の学園も教育は其なりに進んでいると聞いている。
「それがさ、聖女なんだって、異世界から来た。」
ラーネポリア王国では聞き慣れない言葉だった。
「……はい?」
使い魔の名前を変更しました。