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OASIS

ハインリヒが大魔物ベヒモスを倒した後に出た魔石がある。

大小4つ出た魔石は、一つは王家に、あと二つの大きな魔石は協力してくれた魔界と妖精界に其々進呈された。

大小の小さい方と言っても大きさは高さだけで190cmあるハインリヒの倍はあるもので運ぶのもかなり難儀した。

其ほどの大きな魔石を体内に秘めていたベヒモスの強さ、もし討伐が失敗していたらと考えると、それを倒したハインリヒは英雄と呼ばれはじめた。

小さな方の魔石は、戦地にもなり、一番貢献した獣人族の元へ送られたのだが、魔石が落ちていたのは獣人族の集落の隣の街ゼファ―であり、力の弱い人族の街にこそ結界が必要なのだから寄越せと屁理屈を言ってくる事案が毎年、忘れた頃に王城に提案される。

何度、王家が戦いの貢献度により報酬が決まると説明し、獣人族にこそ相応しく、必要だと説明してもゼファーの領主は、忘れた頃に主張して揉めるのだ。

「数十年も前に決まったことをいつまでも言ってくるのって、腹立ちます。」

レンリルの本音に苦笑しながら、

「自分達で魔石を産み出すか、大型魔物を倒して魔石を手に入れればいいのに。」

たまたま本日レンリルの補佐をしているタクリオが溢す。

「人族の魔力では個人持ち程度の大きさしか産み出せないからね、あー、魔石を譲らないなら、タクリオを寄越せと言ってるね。これは新しい提案ですね、」

呆れた声のレンリル。

「えっー?なんでー?僕?僕、純血じゃないよ?」

鳥肌がたったのだろう、両腕を擦っている。

ショーンの母はダークエルフであり、レンリル、ルキリオの母達は魔族の血が濃く流れている。

つまり、タクリオも純血主義者からすれば当てはまらない。

「獣人の血じゃなければ、ましとか?」

レンリルの言葉。

とにかく、彼等は獣人族を目の敵にしているのだ。

「タクリオ殿下は、婚約者の居られない殿下方の中でトップクラスの魔力保有量と魔石精製術に精通しておられますからね。」

幼い頃から、仕えてくれている侍従の言葉。

「それに、ここ最近は、伯爵領の若者の中にも純血主義に反する意識も芽生えているとか。」

王都に造られた学園での教育が根付いてきたのではと侍従が言う。

「殿下方は、人気ですからねぇ。」

まだ学生の王族は、獣人族の母を持つジオンとカイン、イゼインの3名達とダークエルフの血が流れるショーセ、ショーヤの双子、総勢五名である。

「タクリオ殿下、御卒業の折には沢山の令嬢が涙を流したとか。」

からかうように言う侍従。

「やめてよー。何れは臣下に降りることは十分理解しているけど、あんな土地に行かされたら、何されるか怖いだけだよ。それに、小さい頃にルキ兄やボクのことをバカにしていた連中の巣窟だよ、ゼファーは。」

六男タクリオは、実兄ルキリオと同じく王子然とした容貌と立ち振舞いの出来る王子だが、無意識の色気とあざとさを身に宿しており、王子の中でも令嬢人気が高い。

しかし、本人はかなりの人見知りであり、兄弟達はその辺を十分理解した上で働いてもらっている。


ハインリヒの時代から多種多様な血が混じり合うようになり、純粋な人族のほぼいない現状のラーネポリア王国。

「あそこは、純血主義者の集まる地域だからね、いろいろ血の混じった王家にも物申したいことがあるのは分かりますよ。けれど、スタンピードの時に多くの者が失われた中で身を呈して守ってくれたのが獣人を中心とした騎士だと未だに理解していないのです。」

大きな溜め息である。

なので、ゼファーでは近親婚が数年前から問題視されており、近年は隣国ゼノアから嫁を迎える活動を繰り返しているが、あまり芳しくないらしい。


先のスタンピードでは多くの民が命を落とした。

多種族国家であるラーネポリア王国で一番脆いのは人族である。

人族は魔力を持っていても扱いが下手で、かの英雄王ハインリヒは、人族の血も受け継ぐ者として、エルフや魔族に頭を下げて魔力の生かし方、つまり魔法を学んだと言われている。

また、賢妃マルゴットは、魔法を学ぶための学園を開き、今ではその学園が世界一の知恵と技術が学べる場所とされている。

しかし、純血主義者の彼等は、人以外から学ぶことに抵抗し、学園へ入学する者は少なく、独自の魔力操作法である魔術なる知恵を生み出した。

魔力を使って考えた事象を顕現させる魔法と違い、魔力を独自の陣や詠唱に乗せることで魔法を発動させるのが魔術だ。

魔法より、魔術の方が魔力消費が少ないが発動までに時間がかかるのがデメリットだった。

そのデメリットを軽減させる媒体が魔石である。

純血主義者の研究が実を結んだことだった。

魔石と魔術の研究から、純血主義者は魔石の力を独占しようとした。

魔術があれば、魔力保有量の多い王家や、王家を指示する者達にも勝てる!人族単一国家建国を目論む者が現れた。

しかし、運悪く、小規模ではあるがスタンピードがまたもや首謀者である幹部達が集結している場を直撃し死亡、クーデターは頓挫した。

「良からぬことは考えるなって言うことなんじゃない?」

とは、誰かの言葉。

このスタンピードを契機に人族の中にも学園に通う若者が増え意識改革が進んでいく。

また、スタンピードを調べる中で魔術と魔石のことが明らかになり、学園でも積極的な研究が行われるようになった。

結果、人々の生活が豊かなものになったのは、純血主義者にとっては皮肉であろうか。

森の境界に住む獣人族は弱い人族の町の盾のような存在だが、人族の町の長はそう考えていない。

人族が魔物の驚異に晒されないのは、獣人族の集落の間に広大な砂漠があるからだと述べる。

いやいや、その広大な砂漠地帯にも砂漠特有の魔物は出現してるでしょ?

それを主に討伐していたのは獣人族の戦士達だよと言っても都合良く考えるのが彼等のユニークポイントだ。

我らは人類の、いや世界のオアシスである!

そう宣言したのはハインリヒの異母兄達が揃って亡くなった後で、スタンピードの発生を前もって知っていたにも関わらず止めなかったハインリヒの諜報であると声高らかに宣言した亡き第一王子の母方の実家の者である。

彼等はハインリヒの罪を国王にも告げたが、スタンピードの発生を導き出したマグリットが国王に知らせていたこと、その発言を第一王子をはじめ、兄弟王子達や正妃らまでもが小馬鹿にし取り合わなかったことが公文書として残っていた。

狩猟大会として王子達がその場を選んだことに国王が反対していたこと、しかし、王子達は、ハインリヒやマグリットを詐欺呼ばわりしていたことも文書と魔道具の映像で残されていた。

亡くなった王子達の派閥は軒並み共倒れとなり降爵、国王の正妃、側妃達は実家に戻されることになった。

ラーネポリア王国での立場が著しく落ちた者達が集まって出来た町が、現在の人族純血主義者地区とも呼ばれるゼファーである。



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