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Monster

「レンリル様、こちらを。」

差し出された書類。

さっと目を通して溜め息を吐く。

「また、小競り合いですか?」

南の地を治める種族と過去に於てその一帯を統治する貴族との小競り合いは長年、王家を呆れさせていた。


この世界は、国同士の争いより、対魔物、魔獣が優先されている。

王国が出来る前の時代では人同士の国家間での争いもあったようだが、ある時より人族は、自分以外にも知恵を持つ種族の存在を知る。

彼等は同じ種族が集まるテリトリーを侵さず、自治を認めるならある程度の交流はすると言う立場を取っていた。

その種族が、魔族、妖精族、獣人族である。

魔族の住む魔界と妖精族の住む妖精界とは時空門と呼ばれる特殊な門を越えなければ行き来は難しいものであったが、獣人族は人族と同じ大地で暮らしていた。

彼等の暮らすラーネポリア王国の東南に広がる森は、東のゼノア国にもテリトリーは広がっている。

しかし、隣国ゼノアは人族至上主義を裏向き掲げる国で森内でも獣人が領内に入ることを禁じており、獣人達もゼノア国には良いイメージが全くないため、国境を示す川を越えることはない。

獣人達は、高い身体能力と強化を得意にしているが、思考が真っ直ぐな所があった。

謂わば騙されやすい種族とも言われている。

そのため、一部の美しい容姿をしている獣人は人族の罠にはまり、愛玩的存在、時に奴隷として浚われ、人権を無視した略奪行為が行う者がいたために、人族と彼等の溝は深いものだった。


ラーネポリア王国は、建国以来、自国に時空門が存在していることを理解しており、其なりにに交流をしていた。

魔族も妖精族もラーネポリア王国に彼等が多く住む街を形成していて其々の世界から花嫁を迎えたりして濃い交流を行っていた。

過去の歴史においてラーネポリア国王の中には、その街を自分達の領土と主張し戦争をしかけた者もいたが、自身の身を犠牲にして向かってくる彼等の圧倒的な力に、悉く破れ去ることになった所謂、王国の黒歴史が存在する。

『戦争に飽きた』とある時代の国王は、多種族の自治権を認め、仲良くした方が得策と不可侵条約を結んでいった。折しも建国以来魔物の襲来により、小国の集合体であったその地域一帯が当時のラーネポリア国王のカリスマ性により国として一つに纏まろうとしていた時期でもあった。

北と南の国は、魔族や妖精族との交流が盛んで中央の人族だけの国家だったラーネポリア王国よりも魔力や魔法の技術力に差があり、カリスマ性で知られる国王は民が生き残るための手段として彼等の手を取る必要があると説き、南北の代表にも同様に演説し、国として一つに纏めてくれるなら、国王として皆を率いてくれても構わないとまで言った。

今まで魔族やエルフ、獣人達に辛酸をなめていた者達は戦争の終結に反対したが、東南に広がる太古の森に謎の時空の歪みが現れ、人を喰う魔物が出現したことで共通の敵が現れたことが事態を好転した。

時空の穴が世界のあちこちに開くようになったことを魔物やエルフの自治権を認めたりするからだとの屁理屈を述べる者もいたが、国王はその意見を退けた。

「お前らはアホか。」

国内で争っている暇はないと国王は声を上げ、魔物から国民を守るため多種族とも共闘するようになった。

かれこれ150年以上前のことである。

ラーネポリア王国の転換期前は、人族以外の血が混ざる者を忌避し、人族純血主義と言う思想を持つ者が多かった。

しかし、森に出現した大型魔物は人族だけでは圧倒的に力不足で王族も表立って戦うしかない状況となった。

国王の英断は称賛された。

魔物の出現頻度はまちまちであった。

時を経て食料になるほど美味な魔物もいることが分かったが、大抵は狂暴で、ある程度の技量がなくては倒すことは出来なかった。

時空の歪みから魔物が出現するようになって50年ほど経った頃、魔物は集団暴走(スタンピード)を各国で起こすようになった。

魔物は、一暴れすると時空の歪みに戻っていくことが分かったが、その度多くの命と大地が焦土と化すことは許されぬことだった。

国王は、自分の息子達にスタンピードへの対策を立てるよう命じた。

「魔物共に構ってばかりでは、国力が下がります。森を隔てた隣国が攻めてくるのでは?」

「隣国も、魔物被害に頭を悩ませておる。影からの報告を忘れたか、他国のことなど考えている余裕はあるまい。」

「では、魔法が得意な魔族と妖精族を捕らえ、隷属の首輪を嵌めて、奴等を前線に立たせましょう!」

「北と南の辺境公爵の騎士達を王都に召喚し王立の私兵としましょう、奴等の血は穢れております。獣は獣らしくラーネポリアのために働けばよいのです!」

第三王子が声高らかに言う。

彼に賛同しているのは末の王子以外全員だった。

「あほか、我々は魔物の脅威に立ち向かう同士だ、彼等の働きなくては国は滅ぶ。お前は何を学んできた、」

「しかし、父上、先頃の王都近郊のスタンピードに奴等は駆けつけなかったではないですか!王家が危険に晒されたというのに!」

「かのスタンピードには、我もハインリヒも前線に立ち民を守るために奔走していたが、お前の率いる王立騎士団は何処にいた?」

尋ねられた王子は押し黙る。

スタンピードが起きたとき、王子は自らの身を守るために騎士団を使い安全なシェルターへと逃げ込んでいた。母である正妃を守るためとの口実を全面に出していた。

自分達、人族のことしか考えない息子達に呆れる国王に遠慮がちな声がかかった。


「…陛下。俺を騎士隊に入れてくれ。」

側妃との間に生まれた末の王子ハインリヒ。

彼の持つ魔力保有量はずば抜けており、兄達のプライドを刺激したのは間違いない。

彼は、自分の強い魔力が、人にとってどれ程恐ろしいものかを理解し、決して兄達より前に出ようとしない賢い面もある王子だと国王は理解している。

「…お前は、王子として、皆を率いるものぞ。」

「では、俺に部下をくれ。少数精鋭の部隊を作りたい。」

彼は純粋な人族ではない。

ラーネポリア王国と魔界との友好の証として嫁いできた魔族の姫を母に持っていた。

ただの人族とは違い誰よりも魔法を上手く使い、剣術に優れているハインリヒ、当時の王公貴族は人族純血主義者の巣窟と言っても良かったため、魔族の姫は其なりに大切にされていたが、ハインリヒは魔力制御の腕輪を付けられ、人族の兄弟に苛められながら育った。

ハインリヒの母は、魔族の姫と言っても、魔界では捨て置きられた姫であり、厄介払い同様にラーネポリア王国に嫁がされたようなものだった。

しかし、彼女は誰よりも賢く、誇りを持っていた。

苛められ、魔力を制御された息子に力の使い方、戦い方を厳しさと愛情を持って教えた。

「ハインリヒ、良くお聞き。お前は誰よりも強い。強い者は弱き者を助けねばならない。それは、強き者として生まれた者の努め。母はお前がもし魔界に戻ったとしても住み良い所になるよう改革のため、魔界へ戻ります。」

母はその言葉を残して消えた。

一人残されたハインリヒは父王に懇願し、王立騎士隊に入隊し、独自の組織を作った。

王子と言う身分を隠し下っ端の立場でと言う条件だったが、当のハインリヒは全く気にしておらず、下級騎士と親睦を深めていった。

下級騎士と呼ばれる彼等の呼称は貴族階級の騎士隊が勝手に付けたものだ。

ハインリヒは、父王の許可を貰い各部隊から、魔界やエルフ、獣人、混血児を引き抜いて部隊を作った。

貴族階級の部隊にいたときの彼等はほぼ雑用か大した武器もない状態で斥候をやらされるなど虐げられていた。

彼等は貴族を仲介役として王立の騎士隊に所属していたため、不利な条件下で働いていたことが発覚した。

国王はその契約を破棄させ、希望者をハインリヒの元に募らせた。

「俺らは出世は出来ねーし、上の奴等にとっちゃ捨て駒よ、だがな、この国には俺の家族や仲間が魔物の脅威に怯えながら暮らしてる。そんな奴等を守るためには、騎士の身分が必要だ。」

当時のラーネポリア王国では、許可のない獣人を始めとした亜人の往来は禁じられていた。

この国の民を守るために立ち上がった仲間をハインリヒは頼もしく思い、部隊はハインリヒにより統制が取れたことでメキメキと力を付けていった。

騎士として過ごす中で、コミュ力お化けの人たらしだったハインリヒは実力では圧倒的に強い騎士部隊を作り上げた。

彼等の実力は方々で有名になり、各地に魔物討伐依頼があれば速やかにこなし、魔物を討伐するほどにハインリヒの采配と実力が評価されるようになった。

面白くないのは、ハインリヒの異母兄弟達だ。

国王は実力主義だったため、ハインリヒのことを表立って誉めたりしなかったが、兄弟達は協力して彼を殺す手だてを考えた。

それが、ここ最近獣人族の住む森近くに現れた大型魔物、ベヒモスの出現に彼等をぶつけることだった。

しかも、部隊の半数を王太子と兄弟達の狩猟大会の警護に回せとの命令を出した上でのことだった。

ベヒモスとの戦いにおいて仲間との共闘は欠かせないが、国王は、王太子が警護にハインリヒの部下達を望んだことに何か裏を感じ、その裏を探るため敢えて許可を出していた。


次回は、8/12頃に更新です。

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