Young5
吐く息が白くなる森の中、ケイリルはヒラヒラと飛ぶ蝶がいることに気付いた。
(蝶?違うな……妖精の姿をした魔獣かな?)
一応の警戒をしていると、胸元に入っていた使い魔の種がぶるりと震えて熱を発した。
「熱っ!ヴィラ?」
魔力を注ぎ込んだ訳でもないのにヴィラが発芽しているとケイリルは感じてポケットを覗き込んだ。
『見付けた!』
ぴょーんとポケットから飛び出したヴィラを咄嗟に掌に着地させる。
『おじょーさん、おじょーさん!』
ケイリルはぎょっとした。
『あら、あなたは、だぁれ?』
妖精型の魔獣がふよふよと近寄ってきた。
『あなた、とても強い魔力を持っているのね、素敵ね。』
『ありがとう、ねぇ、美しいおじょーさん!ボクの番になってよ!』
ケイリルはまた焦る。
植物型の魔獣の番は同じ種の魔獣か、虫型もしくは、鳥型の魔獣だと聞いたことがあった。
今までヴィラは、番について何も期待してないと言っていたはずだが。
「ちょっと、ヴィラ、どういうこと?急にお嫁さん欲しいなんて、今まで何も言ってなかったじゃん?」
『だって、こんなに綺麗で魔力の強い子になんて出会ったことなかったから、君は生まれたてだろ?』
視線を蝶型の魔獣から放すことなくヴィラが告げる。
『そうよ、さっき生まれたの。私の主が漸く現れてくれから、この姿も主の理想なのよ、綺麗?』
自慢げにクルクル回る蝶型魔獣。
『うん!綺麗!』
虫型の魔獣は、同じ虫型か、植物(蜜がある)型の魔獣としか番わない。他の魔獣達のように神の定めた運命の船に乗ったように番が決められている訳ではないと聞いた。
お互いの思いがあって初めて番えるのだと。
『でも、あなたは、飛べないわ。風に乗って移動は出来ても自分で飛ぶことは出来ないでしょ?私、番うなら、一緒にお空を飛べる方がいいわ。』
ケイリルは、思う。
自分は一体、何を見せられ、待たされているのだろうと。
何かの発明の種を拾いにここに来たはずなのにと。
一方、ヴィラは、考えていた。
自分にあるのは黄昏色した美しい花弁と落ち着いた新緑の葉だけ。
『じゃ、ボクが一緒に飛べる方法を思い付いたら、番ってくれる?』
ヴィラはやる気満々だった。
そんな安請け合いしていいのかとケイリルは思った。
『そうね、あとは、あなたの主が私の主を大切にしてくれるなら、考えてもいいわよ。』
ヴィラがクルリと顔をケイリルに向けた。
これ迄の会話。
ケイリルには、ヴィラの言葉しか聞こえていない。
「えっ、何?」
『ボクの未来はケイリルにかかってるってこと。』
何を言ってんだと内心思いながらいつもの榁へと向かう。
「あれ?」
誰かが寝ていた。
見たこともないようなモコモコした鈍い光沢のあるコートに身を包み眠っている小さな少女。
スヤスヤと寝ているが顔には傷がある。
(傷は、治ってるみたいだけと、ボクと同じくらい?)
そっと前髪に触れると血で固まっているのが分かる。
「この子、名前は?」
ヴィラを通じて妖精型魔物に尋ねる。
『そう言えば、聞いてなかったって、うっかりさんだね!』
ヴィラはケラケラと笑い、妖精型魔物も笑っていた。
『だって、主って呼んでたからだって。あ、この子は“コチョウ”って言うんだって、』
ケイリルは、自身の固有魔法を発動させる。
“鑑定”
少女を見る。
名前:????
年齢:????
種族:魔女族
固有魔法:医療再生魔法
前世の記憶持ち、異世界からの転生者
(前世の記憶持ち……、転生者だって!)
ケイリルは好奇心旺盛だ。
読者好きなレンリルから聞かされた物語の中に[異世界転生]や[異世界転移]と言う言葉があった。
この世界で書かれた書物にも、そう言った類いの物語があるが、レンリル曰く数十年、もしくは、数百年の史実として文献がもとネタとして残されているらしい。
文献によると異世界から来た者、もしくは記憶を有する者は『渡り人』として重宝された。
『渡り人』は、多くの魔力と知恵を持つ者として国に貢献したことから、数百年前には人族の納める国で積極的に異世界人を召喚する儀式が研究され実際に行われた。
しかし、自然にこの世界に転生してきた者とは違い、此方の都合で召喚した渡り人は、性格にやや難があり、傲慢な傾向にあった。その上、人でありながら魔族以上の魔力を有していたために、人族の王達は呼んでおきながら、彼等を驚異と考え、美辞麗句を並べて騙すように隷属の腕輪を付けさせ道具として彼等を扱った。
しかし、ある時代の召喚に置いて呼び出された渡り人により、ゼノア国の前身である王国が滅ぼされた。
性格に難があると言われても常識も知性もある渡り人が鑑定の固有魔法を持っていたために王国の目論見を見破ったのだ。彼は其までの渡り人と比べてもチートだった。彼は複製魔法も有していたと言われており、王族と高位貴族の長に隷属の腕輪を次々に装着させた。彼の命令により、召喚術の書かれた書物は燃やされた。彼は王国の代表として他国の使節団に紛れては王族に腕輪を付けて同様のことをして回った。
召喚された者が元の世界に戻る手立てがないことを知った彼は人族の国から出奔。魔界へと渡った。
彼が血眼になって、帰還方法を探したのは、病弱な母親のことが心配だったからだと魔界に残された古書に書かれていた。
彼は後に魔界の女王の婿となり、沢山の子宝に恵まれ、彼は微笑みながらこの世を去ったとされている。
召喚術ではない天然の転生者。
ケイリルはワクワクした。




