Young:3
自然公園の湿地が広がる地域に足を踏み入れたケイリル。この辺りは一段と寒く雪が積もっている。
もう少し街中に近い場所には涌き出る温泉の地熱で雪は積もってなかった。
しんしんと雪の降る畦道を歩く。誰もいない一人きりの世界。
いつも大勢の兄弟に囲まれているケイリルが発明とも言えるアイデアを思い浮かべるのは一人きりの世界に身を置いた時だ。
家族のため、民の暮らしが便利に、幸福になるように常に考えている。
四歳の時にお見合いで結ばれたダウンナー伯爵令嬢は余りケイリルの仕事への理解はない。研究にかまけてお茶会をすっぽかしたことも多く何回も苦情の手紙を貰っている。
物心付く頃には色々な考えを実現し発明していたケイリルの研究は国策とも言われるようになっており、思考の途中で遮られるとアイデアは泡沫に消えてしまう。
七歳の時、魔素を貯める装置があれば便利だと考え開発に着手した。試行錯誤の末導いたアイデアを伯爵令嬢の癇癪で霧散させてしまったことがあった。
これまでも何度か令嬢にはアイデアが浮かんでは霧散させられると言う現象が起きていた。
「お茶会の時くらい、令嬢との会話に集中してはどうだ?」
父である国王からの苦言。
「ボクだって、出来るものならそーしたいけど、あの子タイミングがいつも悪いんだ。」
今まで順調に進んでいた作業が中断することが続いたため、ケイリルが思考の海に漕ぎだしたと母妃や兄弟、従者が判断した時は家族以外の面会は制限されるようになった。そのお陰か魔素を貯める装置は日の目を見た。エネルギーの蓄積を魔石以外で出来るようになったのだ。その魔道具に魔石をセットしておけば定期的にほんの少しの魔力を流すだけで魔石が本来持つ力を取り戻すことが可能で、魔力吸収の容量が少なくても装置に設置しておけば倍のエネルギーを蓄積出来る。貴重な魔石のリサイクルが可能となった。ケイリルは装置の特許を取り収益の一部を自分の資産とした。
「ボクは魔獣を狩る剣の腕も魔法操作が得意な訳じゃないから冒険者には向いてないからね、」
王立の冒険者組合に登録はしているがケイリルの冒険者ランクは更新が三年不要のDランクである。
使い魔のヴィラのお陰で薬草採取とかは得意なのだが。
基本引き隠りである。
将来王族として残ることが決まっているケイリルの妃となる者は彼の思考や行動を理解出来る者でなくてはならないのだ。
ケイリルの魔道具発表を祝う為に開かれたパーティーでダウンナー伯爵令嬢ラリサはケイリルの婚約者として常に彼の隣に立っていた。
まだ十歳の彼女は他の王子達の婚約者との交流はせず父親からの命に従いケイリルから離れない。
そして、今までのケイリルの態度について不平不満を溢す。
交流のためのお茶会が何度潰れたか、誕生日に送られてきたプレゼントがケイリルが手にしている資産からしたら本当に相応しいのか、などチクチクと言ってくる。
(一応、君の髪色に合うと思って選んだリボンだったんだけど、付けてくれてないし、ルキリオ兄にも相談した品だったんだけど。結構放ったらかしにしてたから、お詫びも兼ねて、お店に行って買ってきたんだけどな。)
特許のお陰で其なりの資産は有しているがまだ成人していないケイリルのお金は母妃が握っており王子だからと言って贅沢はさせないと高位貴族令息の相場より低いお小遣いしか貰っていない。
欲しかった本を諦めて買ったリボンだったのだが、ラリサは気に入らなかったようだった。
それに、ラリサは仕切りに兄達とケイリルを比べた。
どうやら彼女はレンリルが好みのようだった。会話の端々にレンリルを称える言葉が混じり、レンリルの婚約者であるカエデのことをこき下ろすのだ。
婚約者なのに、魔界から此方にいつまで経ってもやってこないとか、愛し子とか言われているようだが、姉達と比べると微々たる力しか持っていないとか、変成後の姿が人前に出られないほど醜いと噂になっているなど散々だ。
ケイリルはその頃カエデとは直接会ったことはなかったが、カエデの話をしているレンリルが幸せそうに笑うのでそれでよいじゃないかと思っているのだが、一度そんなことを口にしようものなら百倍になって返ってくるのが分かっているので言わない。
それどころか将来王立魔道具研究所を背負って立つことになるケイリルに相応しい教育には消極的で王妃教育の接遇・マナー講習のみに力を注いでいるらしい。
ケイリルは先に述べたように基本研究に明け暮れている引きこもりで、性格は明るく朗らかだが、大仰な夜会などは好きではない。フレンドリーだったり、お茶会のような気軽に参加できるものが好きだ。
(第五王子の婚約者に割り当てられてる予算なんて微々たるものなのに、そろそろ婚約の解消について母上に相談しなきゃ、なんかあの子、合わないやって。)
大きなため息のもと進むケイリルは今年十二歳。四歳の頃からの婚約者とのこれからを思い浮かべることが出来なかった。




