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Young

それは、王子達がまだ成人する前の話。


「ねぇ、ケイリル?」

一心不乱に作業をしている弟に声をかけたのは長兄のショーンだ。

「なぁに、ショー(にいに)。」

振り向いた弟は満面の笑顔だった。

「タクリオが、魔石を返してって泣いてるよ。」

ショーンの言葉にケイリルは驚いた顔を見せた。この弟は感情が表に出やすい。

「一週間分のおやつと交換したのにぃ……。」

ケイリルの言葉にショーンの後ろからため息が聞こえた。

「おやつって、魔石の方がうんと高いんだから、釣り合ってないだろ。」

ケイリルと視線を合わせて言うショーンと違い、長兄の後ろからケイリルを見下ろしているのは三男のルキリオだ。

その後ろでルキリオにしがみついているのは、ケイリルの1つ下のタクリオ。うるうるの瞳でケイリルを睨んでいる。

見た目は誰よりも王子様している三男は11人の中である意味一番しっかりしている。

この時、ショーン10歳。ルキリオ8歳、ケイリル7歳、タクリオ6歳だ。

「だって、魔石作りはタクリオが一番上手だから。」

ルキリオに怒られてシュンとなるケイリルを気遣うようにショーンは声をかける。

「で、何を作ってるの?」

「といし。」

「といし?」

ケイリルは、クリエイティブな性格で、何か思い付けばすぐに形にしようとする。

発明家なのである。

しかし、思い付きで動くため、周囲を置き去りにしてしまいがちになる。因みに主に巻き込まれるのは弟達である。

「この前、ベンが怪我しちゃって、腕一本失くなっちゃったから、包丁がトゲナイんだって、トゲナイって、何なのか分かんなくて、ベンに聞いたの。」

ベンは、王族専門の菓子職人だ。先日、里帰りをした際に魔物に襲われ腕を失った。幸いにも利き手ではなかったが、義手が出来るまで不自由を強いられるし、ベンを襲った魔物は逃げ延びているために、ベンをまた狙う可能性が高い。そんな危険な存在を王族の近くに置ける訳もないと辞職を願い出たが王城の方が何より安全であり、11人の王子達も王妃達もベンの作るお菓子が大好きだったので却下された。しかし、片腕では出来ないことも多く、その一つが繊細なフルーツのカッティングであった。

魔法技術の発展したラーネポリア王国は医術大国でもある。

体の欠損を修復する魔法は存在するが、欠損部位や臓器によっては魔法医術師の魔力を枯渇させてしまう可能性が高い。

そうならないために、魔力量を補うための魔石が必要なのだが、魔石は貴重な物で討伐した魔物の体内か、魔力のある者が作り出すしかない。魔石の譲渡には厳しい規約があり、盗難への罰則は命に関わる行為だ。

料理人のベンは回復魔法を使うにあたり、怪我した時の保険として自分の魔力を小さな魔石に変換していたが、腕の欠損となるとベンが貯めていた魔石では止血するのが精一杯で、修復再生には到底追い付かなかった。

「怪我を治すために僕の魔石を使ってって言ったらじいやに怒られたから、不じゆうしてるベンに便利なものを作ろうとしたの!」

魔石そのものを売買したり、譲渡するには厳しい誓約と許可が必要だが道具の一部として使用する際には、その許可の取得も緩い。

不思議なことに魔道具の動力源として使用された魔石は、魔道具から取り出されると魔力を失ってしまうが、魔道具に入ったままであれば、自身の魔力を流しさえすれば再び魔道具として動かせる。

魔石を生活魔法の代わりに使用するのは一般的で、魔石を取り入れた魔道具は多く広まっている。

「包丁をとぐのには、両手がひつようって言ってたから、」

「魔石を使った砥石って聞いたことないよ?あれは、料理人の技術だろう?」

ケイリルは、ニパッと笑った。

「ベンにも、じいやにも言われたよ、だから、魔石なの!」

意味が分からないと首を傾げるショーンに、ルキリオが答えた。

「職人の技術力の代わりに魔石の中の魔力を使うってことか?」

尋ねる兄にケイリルは何回も頷く。

「タクリオの魔石は、ものすごーく硬いから、交換したの。タクリオは、ベンの、綺麗なフルーツの乗ったケーキ、食べたくないの?」

タクリオが間を置かず大きく頭を振る。

「どういう感じで包丁を研ぐんだ?」

ルキリオが興味を示した。

開発によっては金になるかもと考えたなとショーンは思った。この弟は、幼いながら、王族は民の生活を豊かにするのが本懐だと考えており、本当に王子らしい考えの王子なのだ。

タクリオも既に興味深くケイリルの手元を見つめている。魔石をおやつと交換したことも忘れかけているようだ。

じいやにアイコンタクトを送るとショーンは、退室していった。


キラキラ輝く王子達は、今日も周囲を巻き込んでラーネポリア王国を幸せにしようと励むのであった。


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