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Rose

現在軸に戻りました。


隣国ゼノアから妖精界への国際会合に向かう使節団がやって来た。

当初彼等はラーネポリア国王には目通りせず国を通過する旨を伝えてきていた。ゼノア国は昔からラーネポリア王国を軽視する風潮があり、国王ラインハルトもめんどくさいと通過を了承したが、ラーネポリア王国入国数日前に予定を変更し、王都での滞在、国王への謁見はすっ飛ばし、歓迎の意を示す晩餐会の開催、そして、入国する随員の増加を一方的に告げてきた。

こちらの返答を無視した形で入国を果たしたゼノア一行は伝説の聖女と呼ばれる娘を連れてきていた。

時同じく、魔界へ留学していたラーネポリア王国の公爵令嬢が帰国。

聖女とのすったもんだがあったが王城内に平穏が再び訪れていた。

レンリルは少し浮き足だった様子の早歩きで目的地を目指す。

面倒だが、正規のルートで歩く。

途中にある王宮の庭園で庭師に用意してもらっていた花束を受け取るためだ。

16歳になったカエデを半ば強引にラーネポリア王国に連れて帰った形となったレンリル。

これからのことを見越していたかのようなレンリルの手腕に戸惑いながらもカエデは自己主張を忘れなかった。それは学ぶことだ。

正規の試験を優秀な成績でクリアしあっという間に単位を取得し卒業したのだ。

当初の予定とは違い、社交界での人脈作りはしないまま、卒業し、魔獣医学の権威に師事した。

一年ちょっとで魔獣医の免許まで取得したのは、彼女が愛し子だからとやっかむ者もいたが、レンリルが睨みを聞かせたのでカエデの耳には入っていない。

そのカエデのために用意した花束を受け取り庭園の東屋に目をやると兄ショーンとティエリアが仲良くお茶をしている。

聖女の訪問で中断されたお茶会は無事再開したようだ。

聖女対策のために取られた時間のせいで自分とカエデとの時間も減らすしかなかった。

少し時間が減ったことを残念に思ってもらいたいのだが、きっと今頃、使い魔達に囲まれたカエデが待っているだろうし可愛いので許す。

チラリと兄の方を見れば近くでショーンに仕事をさせたい文官達が並んで待っている。

(無粋だな。)

とは言え、兄の仕事を手伝おうとすればカエデとの一刻が削られるのは目に見えているので、気付かれぬようその場を離れた。


カエデの膝の上にいたのはタマモとレイン。

2人はスピスピと寝息を立てて寝ている。

気配を感じないと思ったら。

少々あきれ顔のまま近付くとテーブルの上にもお邪魔虫がいた。

丸いクッキーを食べているのは、赤い蜥蜴。白い蛇もクッキーを頬張る蜥蜴の隣で小さな卵形のチョコレートを丸呑みしていた。

「何で?」

と口にしてみてもカエデが愛し子であるために仕方ないかと苦笑する。

足元には末っ子イゼインの使い魔兼騎獣のマメチィが仔犬の姿に変化してカエデに引っ付いて寝ている。

カエデが登城すると王子達の使い魔が主を放置して側に寄っていく。

弟達の使い魔で図体のデカイ子達はさすがに城内に入れないが小さくなれる子はもれなくやってくる。

主がレンリルとカエデの邪魔をしないようにと言うのだが聞いちゃいねー状態なのだ。

(使い魔に愛されるカエデ可愛い。)

少しの嫉妬を孕みながらもそう思ってしまう自分は重症だとレンリルは思う。

「殿下。」

膝で使い魔が寝ているので立ち上がれない。

「うん、診察は終わったの?」

現在、彼女の師匠は妖精門近くの街に出張していて、弟子であるカエデを含めた10人の魔獣医は大忙しである。カエデはレンリルの婚約者と言うことでラーネポリア王国王家の使い魔専門魔獣医となっていた。

11王子の11匹の使い魔に加えて国王陛下、王妃達の使い魔の主治医でもある。元々は師匠がその任をおっていたが、師匠は放浪癖があるためカエデの就任は王家にとっても師匠にとっても渡りに船だった。

「お茶会が終わったら、ジオン殿下とカイン殿下の子達を診察する予定です。」

ついこの間、ワイバーンの被害から周辺を守ってくれた弟達。

その使い魔の傷は癒えているが、良く働く子達なのでメンテナンスは欠かせない。

「いつもありがとう。」

「いいえ、それより何かありましたか?」

席に着いたレンリルにも香り高い紅茶が注がれる。

「んっ?」

「魔獣や、使い魔達の気配に乱れが。とりあえず、落ち着かせましたが、この後、厩舎に行って騎獣達の様子を先輩と診て回る予定にしたんです。」

「……なんだろ、やな予感がするな。もことは話した?」

“もこ”とは、第八王子ショーセの相棒だ。もこは魔物ではなく精霊であるがカエデとの関係は他の使い魔達とも変わらない。

『よんだ?』

ポンっと現れたもこ。

「来てくれたの?」

『うん、もこえらい?』

嬉しそうにカエデに飛び付くもこ。

「うん、もこは、偉いね。ショーセ殿下は大丈夫?」

ちっちゃな手でカエデの髪を編んで遊び始めたもこは視線をテーブルにやりながら答えた。

『しょせ、おつでねちったから、ひま、から、きた。くっきたべてい?』

頷くとテーブルの方に飛んでいき赤い蜥蜴と並んでクッキーを頬張る。

「で、ショーセ殿下は?」

『うん、まゆだまなか、いれてきた、くっきおいし!』

自分の使い魔以外の言葉は分かりづらい。レンリルには、もこの姿は見えても言葉は分からないため、カエデが通訳している状態だ。

以前タマモが、レンリルのストーカー行為を母妃に告げ口したのは使い魔を介して行ったことだった。

もこがショーセの側を離れることはほぼないため、現れたもこを見てレンリルが不安にならないようショーセのことを伝える。

レンリルはホッとした。

聖女の訪問についてショーセが無理をしたことを忘れてはいない。

“まゆだま”とは、もこが作る特殊結界で、中に入るとショーセは体力も魔力もそして、精神力も回復出来る彼専用の寝床である。

「よかった。」

レンリルのホッとした顔に安堵するカエデは気を取り直してもこに尋ねる。

「もこ、精霊さん達は落ち着いてる?魔獣ちゃん達がそわそわしてるの。」

魔獣に愛されているカエデでも、精霊の中で会話が出来るのはもこだけである。

魔界の王太子妃である長姉は精霊使いでもあるため意志疎通が出来る。

『ざわざわだよ、おしろから、ばいばいのこもいるよ』

精霊は魔法を使う上で大切な存在だ。精霊への祈りを捧げることで神の力、と言うよりは魔法の質を上げることが出来る。

「それは困るわね、」

呟いた言葉にレンリルが説明を求めた。

「なんだって!」

精霊がいなくても魔法は使える。しかし、神との橋渡しをしてくれる精霊を介して発動される魔法は質が良いので、ライフラインの品質の維持には精霊への祈り、お願いがかかせない。王都の電力や上下水道に使う魔力の質が下がれば大変なことになりかねない。

「原因は?」

尋ねるレンリルにもこはクッキーを咀嚼してから言った。

『みんな、いってる、あたまのゆるいむすめがくちゃいって』

「頭の弛い娘?誰のことかしら?その子が臭いの?」

『くちゃい、ばらをにつめて、くさらせたにおい』

薔薇は良い香りだが、腐らせた臭いと言うのが想像出来ない。

しかし、レンリルが額を押さえているのを見て心当たりがあるのかと推察するカエデ。

「レンリル殿下?」

徐に立ち上がるレンリル。

「?」

「……くそっ、ごめん、カエデ!重要な案件が出てきた。詳しいことは、また話するから、騎士魔獣達を頼む。」

カエデは頷く。

「レイン、起きて、仕事だ。ほら皆も。」

レンリルの言葉をカエデが通訳するとあからさまに残念がる使い魔達。

『ここは、清浄な空気なのだがな。』

ため息を吐きながらレインが伸びをして頭を上げたタマモにキスをする。赤蜥蜴のポポは兄と慕う白蛇ルルに促されているがクッキーから手が離せない。それはもこも同じようだ。

「持っていっていいわよ、」

微笑むカエデを見てポポは微笑みルルと共に姿を消す。

足元にいたマメチィの姿は既にない。

『しょせ、おこす?』

もこの言葉を伝えようとする前に

「ショーセは寝かさておいて。後でちゃんと伝えるから、」

レンリルの言葉をもこに伝える。

『じゃ、もこは、かえといっしょにいる、くっきもっとたべてい?』

「これから私もお仕事よ?白衣のポケットに入れておくからそこで食べる?」

頷くもこ。

「じゃ、行って来ます。」

不意に頭にキスを落とされて真っ赤になったカエデを残してレンリルはショーンを迎えに東屋へと向かった。

レンリルを見送ったカエデも立ち上がる。側に仕えていた侍女が白衣を渡す。気の利く侍女は布袋に数枚のクッキーを入れて左のポケットに入れてくれていた。

「もこ、こっちにクッキーがあるわよ。」

カエデの使い魔管狐のタマモはカエデの首にマフラーのように巻き付いている。

『わーい!』

「さて、ティエリア姉様に挨拶してから仕事に行きましょう。」

テーブルに残されたクッキーに目をやる。

レンリルの口には入る間もなく彼は行ってしまったなとカエデは苦笑する。

「あなた達で食べていいから。」

そう言い残し去っていくカエデ。

カエデ付き侍女がクッキーをハンカチに包み自身の使い魔に渡す。

「レンリル殿下の机に届けておいて、カエデ様お手製のものを御自分だけ、なんて侍従殿の愚痴が止まらなくなるわ。」

侍女の言葉はカエデには聞こえていない。



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