We Alright
門を通じて隣り合うラーネポリア王国からの使者であるレンリル殿下の目の前に立つ少女。
レンリル殿下の額1つ分低い背丈だろう少女は美しい亜麻色の髪の半分を複雑に結い上げ、腰まで届く緩やかなウェーブのかかった髪が美しかった。
あれが、引き籠りの公爵令嬢?
醜悪で、公爵夫妻には似ても似つかぬ容姿と性格で従姉妹に嫉妬し、愛し子の力を失った娘との噂の。
思わず甥に目をやった。
愛し子と凡人との違いは、使い魔の質にあると言われている。
我々が契約を交わしている魔物とは違い、彼等が契約するのは精霊の域まで魂を昇華させた魔物だ。
愛し子はどの魔物とでも意志疎通が出来、空間を越えて現れるスタンピードを起こす魔物や人を喰らう魔物に襲われない。スタンピードを予知し、愛し子がいるとスタンピードが発生しにくいとも言われている。
格上の使い魔を側に置く愛し子は全ての魔物に愛されている、現に目の前にいる娘の元に自分の使役している使い魔が嬉しそうに挨拶してきたことを報告してきた。
普通、契約者以外の相手に使い魔は懐かない。格上の使い魔と契約している者は愛し子でなくても存在するが、他の使い魔に懐つかれたりしない。
聞いていたことと余りにも違う。
甥の言葉は誰かにとって都合のよい言葉だったのか?
上から聞いていた学園での噂。
公爵家縁の女生徒が魅了魔法を使い学園内を支配していると言うものだ。
しかし、相手は魔力保有量の少ない子爵令嬢、甥は魔力保有量も多く簡単に抵抗出来るレベルであり、まともだと兄は言っていたがあの子の殿下を見る視線は鋭い。
ぞわりと背筋が冷えた。
どうした、先程までレンリル殿下に敬愛の視線を向けていたではないか。突き飛ばされる結果となったその令嬢を思ってのことか?と言うか、誰だ?その令嬢は!?猛スピードで脳裏にインプットしていた参加者名簿と顔写真に照らし合わせる。
しかし、名簿には居ない。招待されていない者を主催者に無断で参加させるなど愚の骨頂。
脳裏に出入り禁止の令嬢の容姿を記した書類が浮かぶ。
まさか、あれが、アカシア嬢なのか?オリバは、やはり魅了されていたのか?兄達は問題ないと言っていたではないか!出禁の娘を招き入れるなどあり得ない!
「会いたかった、カエデ!やっぱり想像通り可愛くて綺麗だ!」
手を握るレンリルの言葉にカエデは首を傾げた。
「!……そんな可愛い顔されたら、抱き締めたくなるよ?」
上目遣いで首を傾げるなどレンリルにとって褒美以外のナニモノでもない。
「わ、私が綺麗で可愛いのは、間違いでは?」
引き抜こうとする手は全く動かず、思わず口をついて出た言葉にレンリルが眉を寄せる。
「カエデは、私の言葉は信じられない?あの頃、私がどんな姿でも仲良く接してくれた君が容姿を気にするのはおかしいよ。誰にそう思い込まされたの?」
「……思い込まされた?」
両親も兄弟も皆、私はダメダメだって、どうしたら、人目に出せる容姿になるのか家族会議を開いてるって、それだけ私は恥ずかしい、公爵家に相応しくないのだと、誰が教えてくれたのか。
カエデは今まで考えていたものが壊れていくような感覚にふらつく。
「幼かったカエデを呪ったんだね、魅了の反転魔法で。」
騒動を聞き付け戻ってきた第三王子がレンリルの言葉を聞き逃さなかった。
「魅了の反転魔法?」
「その応用ってところでしょうか。所謂洗脳です。質が悪い。」
そっとカエデの頬に手を滑らせる。それが何故か心地よいものと感じて我に返る。
「魔界では、魅了魔法に対する危機感ない。けれど我が国のように様々な人種の過ごす環境では違う。ティエリア姉様の報告を聞いて私は直ぐにカエデや周囲の者が魅了魔法に影響されていると思いました。その危険性を分かっていたから今回の訪問となったのです。」
第三王子も周囲の者もレンリルの言葉に耳を傾けている。
「魔力保有量が少なく、かつ魅了しか特出するものがない者にたまに現れる能力があります。それが魅了反転魔法能力。対象者に被対象者が抱く勝手な人物像を植え付ける、思い込ませる魔法。ソコのアレがカエデに魔法をかけたのは、魔力の固定が完成する7歳以前、普通魔族は容姿が安定するまで外には出さないからね。でも、この会場に来る前に王太子妃に聞いたんだ。カエデの容姿変成期に一度だけアレが公爵家に来たことがあるってね。アレは6歳だった。まだ魔力の固定化はされていないと公爵家の方もアレの父親である子爵も思っていた。まだまっさらな状態の幼女期ならアレの教育は曲がることなく進むのではと思っていたみたいだけれどアレは変成期前であるにも関わらず魔力は固定されていた。魔力を封じられていた母親の執念だね、子爵も母親の執念を見誤ったし、母親には対処していたけど、油断してアレの処置を誤った。で、公爵家の方々はまんまとアレの魅了に掛けられた。何度も訪問してくるアレを拒めなかったのも頷ける。」
その場に王太子妃である姉が現れた。
「最初に魅了が解けたのは私。解けた要因は、10歳の時に王妃教育で王城に上がるようになったから。」
王城にはあらゆる精神操作系魔法遮断の結界が張られている。
現在、レンリルの依頼でこの庭園と外部から庭園に至る道中だけは結界の解除されている。女王は面白いと協力してくれた。
「15の歳に殿下から婚約指環を頂くまでは、家族はアカシアのことを本当の娘のように思ってるのねって、魅了魔法に晒されてるなんて疑いもしなかった。けれどこの指環をし始めてから、アカシアの行動と許容する家族に違和感を抱いたの、お母様にもおかしくありませんか?と問いかけたわ。そんな家族の中でカエデだけがあの子を避けていたでしょ。何か気付いてるのだと思っていたの、まさか、アカシアのせいで引き籠りになっていたなんて、ごめんなさい、」
カエデがレンリルと見合いした頃には長姉は殆ど屋敷に居なかった。
公爵と嫡男は王城で遅くまで働き、次女は体が弱く領地で、母は社交と言う名の情報収集に忙しく、王都のタウンハウスには、レイブとカエデしかいなかった。
最初に魅了されたのは恐らくカエデ。無邪気なアカシアは、同い年の従姉妹が居ると母親から聞かされ会ってみたいとせがんだ。幼い子供の魅了など大したことはないと考えた子爵は兄にアカシアの願いを伝えた。公爵もアカシアを危険人物とは捉えず了承、当主が許可したのだ対面せざる負えなかった。
その時に2人きりにさせてしまったのがまずった。アカシアは、母親の言う通り、自分達親子の生活をすり替えた公爵家、つまり、公爵令嬢だったはずの権利を奪ったカエデを公爵家から追い出せば自分がスメラギ公爵家令嬢になれると考えた。
自分の父親より、父の兄である公爵の方が見た目も好みで権力も持っているし、公爵夫人は自分と同じ色合いの髪色で母より数段綺麗で社交界の花だ。姉は将来の王妃である。
アカシアは、自分の理想の家族がここにあると考えた。




