Young
小さい頃、レンリルはとても不安定だった。魔族の血統が濃すぎたせいだったので仕方ないが、余りにも両親と掛け離れた容姿で生まれた。
魔族の血が流れる子供は魔力コントロールが下手だ。体が成長すれば自ずと方法は身に付くものだが特に王公貴族は魔力保有量が多く魔族はどの種族よりもコントロールに難儀すると言われていた。
魔力がコントロールを失うと自身や周囲を傷付け、被害が出る場合が多く、過去に於いては、体が成長するまで魔力を封じる方法も取られていたが魔力を封じるとまともな生活が送れなくなることも多く匙加減が難しかった。
ある時代の魔王は、魔力の暴走で苦しむ息子のために魔力を一時的に水晶に閉じ込め息子に持ち歩かせることにした。しかし、肉体から離すと魔力は水晶から体内に戻ってしまうため意味がなく、身に付けるには遊び盛りの子供には大きく不便だった。
ならば、離さずにすむように体に貯蔵機関を作ることにした。
魔王だけが生涯一度だけ使用出来る遺伝子操作の秘術を魔界の国民に施した。
それが“角”であった。
しかし、角だけでは収まらぬ魔力もあり、それは子供の容姿の変容をもたらした。
「おや、私が生んだのは犬の子だったのかえ?」
自身の第一子を見てサヤカ妃は呟いた。
サヤカ妃が、おかしくなったのではない。遠く遡れば彼女の先祖には神域にいるフェンリルと紡いだ者がいるし、なんなら、サヤカ妃はフェンリルに変化出来る。
しかし、フェンリルとは普通白銀の毛並みであるが、赤子の体毛は青味ががった黒。
しかもアンバランスに大きな角が頭に2本生えていた。
因みに出産直後の赤子に角はない。産声を上げ寝るまでの間に形成される。
「うむ、尾はないのぅ、」
体の形は人型だが、顔の中心と掌、足底には毛はない。
「犬ではなく、小猿だの。」
「サヤカ様、いい加減になさいませ。可愛いではありませんか。」
「可愛いとは思うぞ。だが、もっとモフモフにならぬかのぅ。妾は、もっとモフモフがよいぞ、モフれ~モフれ~、」
生まれたレンリルは、生まれた時こそ全身を毛に覆われていたが、2歳になる頃にはモフモフしているのは頭の髪のみとなった。
「レンリルは、モフモフしてて、気持ちいいなぁ。」
6歳になったレンリルにそういうのは1つ上の異母兄ショーンだ。
ダークエルフの血を引く兄はおおらかで優しい。
元々妖精族は魔力コントロールが上手く魔族のように魔力保有量が多くて暴走することは稀である。
そんなショーンは、変わった姿の弟達に驚きはしても、この姿は今だけだと教えてもらってからは、貴重な期間だと弟達を可愛がった。
アンバランスな角のせいでふらふら歩く弟を気遣ってくれる優しいお兄ちゃんなのだ。
自分もまだ子供なのにショーンは弟達の世話良くしてくれる。
年子の弟達のことをレンリルも気遣いたいのに自分のことで精一杯な自分が情けなかった。
同じ母腹から生まれた1つ下のジュンリルは魔力保有量は多いのに角が小さいせいかコントロールが下手で、暴走はしないが寝込むことが多いし、緑っぽい体をしている。2つ下のケイリルは、見た目こそ母に似た愛らしさがあるが後頭部に向けて角が生えているためうつ伏せでないと寝ることが出来ない。また、常日頃からボーっとしており反応が薄い。
そんなケイリルのフォローもショーンはしてくれているのだ。
従兄弟で異母弟のルキリオに至っては角は小さいが見た目がどの兄弟とも違っていた。
全身が黒い鱗に覆われ暗闇にいると紛れてしまう。
けれどルキリオはあっけらかんとしていてどんな陰口を言われても気にしていないようだった。
「レンリル兄も気にしちゃメッ、僕らはいずれ脱皮するんだから。」
ルキリオの実弟であるタクリオは真っ赤な鱗に覆われた子供である。
「脱皮って、ボクはしないよ?」
ドラゴンの遺伝子を引き継ぐアヤカ妃の子と言うことか。
次男として情けない。
それがレンリルの気持ちだった。
「お見合い?」
子供部屋。
11人の子供と其々の乳母が一同に集まっている。
大人しく本を読んでいるレンリルの所にショーンが来て言った。
「未来の妃、お嫁さんを見つけるんだって。」
ラーネポリア王国には、沢山の種族が存在しているが、魔族の血を濃く受け継ぐ者は案外少なく、レンリルやルキリオのように角や容姿が変容した者は本当に少ない。
魔界に近い北の地域は例外で、王家の王子達の容姿に皆は驚いた。
当時、出産に関わった王城の使用人の中には魔族に対する見識の薄い者も多かったために、サヤカ妃とアヤカ妃が化け物を生んだと口にした。
ラインハルトや宰相閣下の根回しが足らなかったとも言える。
サヤカ妃とアヤカ妃はラーネポリア王国の北西を治める地域の貴族で魔族との交流も盛んだ。なので魔族と婚姻を結ぶ者も多く魔族への理解も高い。因みにショーンの婚約者ティエリアの実家が治める領地とは隣り合っている。
先代国王は、王家の魔力が薄れるのを恐れ、妖精族と魔族の血の濃い一族から王子2人の妃を選んだがラインハルトの妃だけは、地域的な面も考えて南にすむ獣人族から選んだ。
もちろん人族の血が濃い一族からの反発があり、ラインハルトの子供達には人族の血が濃い令嬢をとの声が噴出した。
しかし、同じ年頃の子供を将来の側近、または妃として送り込もうとした貴族達は大いに戸惑った。
いくら容姿は将来変わるのだとラインハルト国王が告げても子供達は素直だ。レンリルやルキリオを見て逃げ出したり泣き出したりした。
子供心にも傷付く王子達。
人族にとって、まともと言ってよい容姿のショーンは、弟達の何処がダメなのか分からない。
(見た目だけでまともって判断するのって、バカみたいだな。)
のほほんと思うショーン。
王家は見合いの申し込みはショーンと見た目が人族に近いケイリルに殺到していた。
とにかく王太子ショーンの婚約者を早く決めないことには落ち着かない。そこで、見合いである。
「今回の見合いは、ケイリルまでの王子の相手を見つけるためのものとする。候補者には、伯爵位までの令嬢で、年頃は分別さえついておれば下はこだわらんが、上は10歳までとする。」
余りの要望に王は答えたが5人の王子が合同で見合いをすることにやはり貴族達は驚き、何としてもショーン、ダメならケイリルと縁を繋ぐよう子供に言い聞かせた。
そんな見合い会場でレンリルは魔界から訪れたカエデと出会い縁を繋いだ。因みにショーンがティエリアを選んだのは彼女だけが積極的に弟達とコミュニケーションを取れていたと判断したからだった。
「ボクの姿絵は送ったんだよね?」
ある日のラーネポリア王国のティータイム。
14歳のレンリルは午後の休憩するためにソファーに腰掛け、専属の侍従に尋ねた。
「もちろんです。姿の安定後に姿絵を送り合うのは礼儀にございますれば。」
レンリルは眉間にシワを寄せた。
「じゃあ、カエデは何で送ってこないのかな。ボクにガッカリしたのかな。」
カエデがすっかり拗らせていることを知らないレンリルは今日もため息を吐いた。
「そうだ、良いこと思い付いた。ねぇ、レイン。」
幼さの残るレンリルは自身の使い魔に呼び掛けた。
侍従はイヤな予感がした。
使い魔の名前を変更しました。