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Get Inside Me

公爵家の幼い姫は人見知りだった。

優しい乳母に連れられて初めて国を出て、招かれた王城での園遊会。

王族はまだ到着していないと言うことで、子供達の数人は走り回っていたり、テーブルの上のお菓子を物欲しそうに見ていたり、各々自由に過ごしているようだった。

目の前には家族とは違う年齢の近い大勢の子供。

カエデより体の大きい子供もいて年齢は判りづらい。

女の子が多いことに驚き、ちらほらと魔族の子供も見かけたのにはホッとしたが、何処か付き添いの親達の気迫に怖くなってしまった。

「ばあや、帰りたい。」

まだ5歳の彼女には王国に来た理由がよく分からない。

ラーネポリアの王子様達とお友達になるためだと両親から聞かされたが王子様はまだ会場に来ていないし、今なら、出ていってもいいのではないかしらなどと思ったり、王子様が意地悪だったらどうしようと考えたりしてカエデは怖くなってしまったのだ。

(お母様、お父様……お姉様、お兄様……。)

乳母にしがみつくカエデ。

大きな瞳に涙が盛り上がってきている。

「走り回ってるのは魔族の子よ、ほんと、やんなっちゃうわ。あなたも、帰りたいなら、帰ればいいのに。」

高い子供の声に体がびっくりする。

自分に掛けられた言葉だろうか。

恐る恐る振り向くと金の巻き髪の少女が立っていた。

腰に手を当ててカエデを睨んでいる。

「あなた、魔族でしょ、ここは、ラーネポリア、人族の国よ!わたしは、この国の貴族で、王妃になるの、言うことを聞きなさい!」

少女の後ろには同じのように立つ少女が二人。

会場の端の方にいるカエデを見つけてやってきたようだ。

参加している魔族の中で一番弱そうに見えるなと乳母は納得。

にしても失礼な子供だ。

こちらを見てニヤニヤ笑っている3組の大人。

(これは、抗議ものね。)

乳母はカエデの肩を抱き寄せて一歩下がった。

身分が下の者が上の者に許しもなく声をかけてはいけないと教わっている。

と言うことは、この子は魔界の公爵令嬢であるカエデ様よりも上の立場なのだろうか。

『姫様、どうします?』

一応伺いを立てる。

『魔界とラーネポリアの仲が悪くならなければ無視する?』

さっきまで泣き虫だった姫が年よりもずっと年長に見える時、存外に我が姫は豪胆だと思う乳母。

「何、だまってんのよ!」


「そっちこそ、何をしてるのです?」

また、声がかかった。

振り向くと小麦色の肌に黒髪の少年。上質な誂えを身に付けていることから、貴族の子息であることがわかる。

しかし、アンバランスな大きな角がもっさりとした髪の隙間から見えていて、見た目は何処か………である。

カエデの頭にも不釣り合いな角が生えており、それが魔族であることを示していた。

「あなたも魔族ね!本当に王様は何を考えてらっしゃるのかしら、ラーネポリアの国にこれ以上、蛮族の血を混ぜるおつもりなのかしら!恥ずかしくないの?その角、」

目の前の少女はカエデより幾分年上なのだろう、難しい言葉を話している。

意味は深く分からないけど、魔族が、目の前の男の子がバカにされているのは分かった。

「…貴女の使い魔ちゃんが泣いているわ。」

カエデは思い切って少女に告げた。

「な、何を言ってるの、」

「神様が悲しむ考えを持ち続けると、使い魔ちゃんは、悲しくなって、消えてしまうわ。」

カエデの燃えるような紅の瞳が少女を捉え、目の前の少女を諌めるために出てきた少年より前に出る。

乳母がカエデを前に出ないよう手を伸ばすがカエデはそれを抑える。

「ミカエラ・ファナス伯爵令嬢。」

大人の声。

そこには、侍女服を纏った女性が3人。

見本のような姿勢で立っていた。

「あなた様は、あまりにもモノを知らない。御両親の教育が悪いと判断されました。正式に園遊会が始まる前に退場していただくことになりました。」

淡々と告げる侍女。

「えっ?」

「あなた様方のご両親も退場なさるようです。」

ガクリと肩を落とした少女達の両親が操り人形のようにカクカクしながら歩いていく。

少女達も慌てて親を追っていく。

「ありがとう。」

モジャっとした黒髪の少年がカエデに言う。

何だったのかしら?と思っているとお礼を言われた。

瞳はもっさりとした前髪で隠れているため分からないが、口元が笑っているので、余計なことをしたとは思われていないようだ。

「物事を知らないで甘えている者に安易に構ってはならない。賢くなりたいなら何がおかしいのかに気付くこと、疑問を持ったら自分で調べること、それでも分からなければ目上の方に恥ずかしがらずに聞くこと。尊敬するお姉様の言葉なの。難しくてぼんやりとしか分からないけど、大切なことだと思って暗記したの。」

ぽかんとしている男の子。

「えっと、」

乳母を見る。

「知らないことは恥ずかしいことではない、知らないことをそのままにしていることがダメだと言うことですよ、さすが、姫様。」

頭を撫でられて嬉しくなるカエデ。

「ばあや、角は恥ずかしいことなの?」

「まさか!魔族の子の角は魔力の大きさの現れ、魔力コントロールが上手になれば、ばあやみたく、小さくなるものです。」

「じゃあ、今だけの特別なのね!」

魔族の子供は成長と共に見た目も変化する。

「ねぇ、あそぼ?」

すっかり存在を忘れていた少年。

カエデは伸ばされた手を取った。

「うん、」

この子は怖くない。

乳母を見ると頷いている。

「あと数分後には、王家の方々が来られますから、遠くには行かないでくださいませ、ばあやの足が追い付く範囲で、」

聞くなり走り出す子供達。

二人は園遊会が終了するまで仲良く手を繋いで過ごし、数日後には婚約が結ばれた。


(あの時のもじゃっ子が、こんな素敵な方に成長するなんて、ほんと、魔族って詐欺種族だわ。)

目の前で静かに本を読んでいるレンリルは、キリリとした麗しの第二王子に成長していた。

「カエデ?どうかしましたか?」

昔から人に対して丁寧な話し方をするレンリル。

対して内心毒を吐くようになってしまったカエデ。

「いえ、ただ、隣国から聖女が来られて殿下もお忙しいでしょうに、私との決められたお茶会などキャンセルしていただいてもよかったのにと思いましたの。」

婚約者となってからのカエデは"愛し子"であること以外の魅力がないと思う自己肯定感低め女子に育っていた。



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