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Voice

『ここが、ラーネポリア王国なのね。』

鈴の転がるような声と言う表現が相応しい少女。

感動しているのか胸の前で組んだ細い指には送られたのだろうキラキラと光る青い石の付いた指輪があった。

『ユウコ、あまり俺から離れるな、ここは野蛮な国だ。』

手を伸ばしユウコなる少女を引き寄せるのは、金髪碧眼の隣国の王子ユージンだ。

『やだ、人目がある所では、抱きつかないで。』

イチャイチャが始まった。

コホンと咳払いがあり、二人は我に返った。

ユージンは、咳払いの主を睨み、ユウコは、可愛く跳ねてから彼の後ろに隠れた。

『ようこそラーネポリア王国へ。』

出迎えたのはゼファー領の長であるゼファー伯爵だ。

流暢なゼノア語に気を良くしたらしいユージンは、少々偉そうに挨拶を返したが出迎えの人数が少ないと思った。

『出迎えは此だけか?』

問いに対して伯爵は、冷汗をふきながら答える。

『と、当初、殿下方は王都を通過とのことでしたので、対応は、私目に任されまして……。』

『一国の王子と聖女に対する礼儀がなってないな、さすが、蛮族の国よ。』

伯爵がサッと顔色を変える。

『で、殿下!ど、何処に王家の目があるか分かりませんので、せめて声を落として下さい。』

『ふん、そちも大分苦労を強いられてるのだな。』

伯爵は、確かにゼファー領主だが、昔ほどの純血主義者ではない。

魔物からの脅威に立ち向かうには人族の力だけでは足りないことも十分わかっていた。

今回のことも本当なら断りたかったが、領の年寄り達が勝手に返事をしてしまったのだ。

ゼノア国の使節団のために使われる予算に目が眩んだのだろう。

しかし、目の前の王子はその予算を遥かにオーバーする要求をラーネポリア王国に来るギリギリでしてきたのだ。

「使節団が滞在中に使う金は彼等が出すものと条約で決まっている。滞在する場所、妖精門までの護衛は此方で対応するが、細々した要求に対しては伯爵がせよ。必要経費として落ちるかは、内容によるものと考えよ。」

下された王命である。

ゼノア国からの要求は、彼等が生きる奇跡とも呼ぶ聖女の同行と予定になかった王都での滞在、そして、王家主催での歓迎晩餐会の実施、高級肉の用意。

事前の要求書には王家主催の晩餐会の項目はなかったはずだ。

伯爵は胃がキリキリした。

『殿下、当初の予定では、王都は通過、ラーネポリア国王陛下への謁見はしないとのことで、王家からも、了承を得ております。なので、このタイミングでの晩餐会開催はとてもではありませんが、無理にございます。』

頭を下げる伯爵に王子は激昂した。

『なんと無礼な!他国の賓客をもてなすのがホスト国の役目だろう!』

無駄に響く声に伯爵は頭を上げずにいる。

『失礼だが、我が国はホスト国ではありませんよ。』

後方から掛けられた声に振り向いた伯爵は安堵の息を吐いた。

外務長官と補佐役でもあるジュンリルの登場である。

いつもなら内心を悟られぬ笑みを浮かべているジュンリルは煩い王子を遠慮なく睨み付けている。

王子に長官は軽く挨拶をしているが歓迎している雰囲気ではなかった。

『国王ラインハルト陛下からの御言葉を伝える。』

長官は恭しく一枚の紙を広げて朗々と読み上げた。

『一つ、妖精門への道中として我が国の領内を通過することを許可する。一つ、旅に不馴れな聖女殿を同行するにあたり、ゼファー領ではなく王都での滞在を望まれた旨、迎賓館の使用を許可する。一つ、聖女殿の、身の回りの世話、及び護衛の増員について、急なことゆえ国の警備上の問題、また、魔界国からの来賓への対応中により、何卒と貴殿らが望むなら人員を回す努力は行うが、滞在中の経費についてはゼノア国に請求する旨とする。一つ、貴殿らが所望したホワイトグリズリは現在出現時期ではなく、また、氷雪山は夏とはいえ年中吹雪の山である。雪山登山、討伐などには十分な計画が必要となる。干し肉なら用意出来ないことはないが、干し肉は地元住民の貴重な蛋白源である。どうしても所望するなら冒険者ギルドへの依頼を推奨する。なお、それに伴う経費もゼノア国が支払うこと。一つ、2日前に届いた歓迎晩餐会の開催であるが、現在王家は質素倹約週間に入っており、前もって滞在が決まっていた魔界国使節団の方々以外に贅を凝らした会を開く予定はない。一つ、今回の急な要望ではなく、要求書の内容についてラーネポリア王国は正式にゼノア国へ遺憾の意を示すとした。以上、』

勝手にコロコロ要求を変えやがって、バカヤローと言う心情が隠れている。

長官の読み上げ中、邪魔をされては堪らないとジュンリルは密かに口封じの魔法を王子に掛けた。

口上が終わると同時に魔法を解いた。

王子は魔法を掛けられていたなんて気付きもせずワナワナと震えて顔を真っ赤にしている。

さて、どう出るか。

ラーネポリア王国側が息を飲んで思っていた時だった。



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